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第16話 【不香の華(ふきょうのはな)】 その5

 突然のお手紙でごめんなさい。

 どうしても貴方と一度お話がしたくて、手紙を書きました。

 貴方からスープ皿を受け取った途端、心が震えてしまい、寝ても覚めても貴方の事ばかり考えてしまいます。

 どうか私に貴方の人生の時間を少しだけ分けていただけないでしょうか。


「ふんふんふん・・・なかなかストレートで甘酸っぱい恋文ね」

 ルノンがルイード宛の恋文を読みながら、手紙を仕分けしていた。

「でも、これ・・・」

「男性だわね・・・なに? ルイードさんって、アッチなの?」

 ルノンが分かりやすく掌を顔の横で反らして見せた。

「そこは否定してたけど・・・えっ? 男同士って結婚できるの?」

「できないわよ・・・この人は普通の返事でいいわ、誠実にお断りする感じで」

「ん・・・じゃあ三つに分けられたね」

 ルノンは恋文の種類を三つに分けた。

 普通のラブレター。

 子供が読んじゃいけない大人のラブレター。

 異常者なので返事をしてはいけないラブレター。

「本当はルイードさんが心に決めた人がいるなら文章も簡単なんだけど?」

「資格試験が忙しくてそれどころじゃないんだって」

「資格試験?」

「なんか調理師だけじゃなくて、別の()()()()()()()()()()んだって」

「あらま、結構堅実派なのかしら・・・」

「一度奴隷落ちしたから、まじめに生きるって言ってたよ」

「そう・・・色々大変なのね・・・じゃ、書くわ」

「え、もう書けるの?」

「私は文章を考えるのが得意な方だからね。ちなみに可能性を残したい相手とかは本当にいないの?」

「面倒くさいから、恨みを買わずに二度と手紙が来ないような返事をお願いしたいんだって」

「ああ、はいはい、バッサリお断り系の文章でいいのね」


 簡素な便箋に丁寧にペンを走らせていくルノン、傍の椅子にクッションを二枚引いて、器用にバランスを取りながらネレは恋文をじっくりと読み直していた。

 様々な比喩表現があり、確かにルイードでは難しい文章かもしれないと考えていた。

「あ・・・難しいと言えば!」

「ん~なに~?」

 便箋から目を逸らさずに、ルノンは返事だけをする。

「あの、えっと・・・切りの良いところでいいから教えて欲しい文章があるんだ」

「ネレが難しいって? ふ~ん・・・これすぐ書き上げるから、待ってて」


 疲れたのか、ルノンは重そうな瞼を右手で触りながら、左手をネレに差し出した。

「あの、間違えて開けちゃった手紙をボクが書き写したんだけどさ・・・」

「はあ? なんでそんな事を?」

 ネレは恋文とは別に保管していた紙をルノンに渡した。

「よくわからないんだ、ルイードさんが・・・この手紙を解読して欲しいって言っててさ、なんかウェメレス様の件に関係してるんじゃないかって」

「んんん?」


 親愛なる友へ、お身体の調子は如何でしょうか。

 私の周囲では相変わらず墨色の雪が積もり、私の身体を重く染めています。

 貴方の足元の大地は美しいでしょうか。

 あの日から私の果実園には実りの無い日々が続いていますが、貴方のお力添えにより、木々は健やかさを取り戻してきました。

 ですが、あの偽物の太陽が私達の頭上にある限り、決して私は貴方に近づく事は許されない事だと思っています。

 力強い花粉により、私達は距離を縮められましたが・・・水も光も足りません。

 いつか私達が本物の輝く太陽の下、お逢いできる事を願っています。

 それまではどうかお身体ご自愛ください。


 力なき花より


 その手紙の文章を目で追うごとに、ルノンの顔色は青ざめていった。

「ネレ・・・これは誰から誰への手紙なの?」

「なんか、アコントウって人から料理長への・・・」

「この内容は誰と盗み見たの? 勝手に読んだことは誰にバレてるの?」

「あの・・・ボクが間違えて開けて、ルイードさんが見て、意味が分からないからって・・・封蝋はキレイにルイードさんが直した」

「まずいと分かって直したのね・・・これはいわゆる貴族が使う“隠語”で・・・珍しい組み合わせだわね」

「珍しいの?」

「内容が国家反逆罪レベルだから普通は使わないわね」

「こっかはんぎゃくざい」


 この手紙の意味を伝えていいものかとルノンは考えあぐねいた。

 果たして幼児に理解させる事は可能か・・・うっかりネレが口を滑らせれば危険であるし、かと言って知らないまま他の大人に質問されたら最悪の場合が考えられる。


「大体、こんな(ひね)くれた文章を平民が理解できる訳もないし、書く必要もないのに」

「あ、ルイードさんこの手紙はまともに読んでなくって、匂いで危険度を判断したみたい」

「匂いってなに・・・」

「なんか気持ち悪いぐらいに香水の匂いがついてた」

「なるほど、確かに貴婦人は便箋に香りをつけたりするけど・・・名前は偽名で、香水で誰から来たか判るようにしているのかも知れないわ」

「すっごいな・・・香りの暗号かぁ~」

「香りは時間が経つと消えるから証拠として残んないからね」

「・・・・・・・・・・・」

 目を大きく見開き、固まっているネレを見ながらルノンは深くため息をついた。

「いいわ・・・説明してあげる、一度だけね・・・“親愛なる友へ”というのは、まあこの場合は“同志よ”という呼びかけでね・・・」


 同じ志を持つ友よ、周りに異常はないか?

 こちらは疑いがかけられ、身動きが取れない状況だ。

 お前の失敗のせいだろうな・・・今度こそ気をつけろよ。

 あの事件によって実入りが少なくなっている。

 まあ、月々の上納金のおかげで何とかなっているが。

 だが・・・現在のいけ好かない国王のおかげで大っぴらに集会が開けん。

 あの尊いお方の為に、互いに連携は取れているようだが、やはり活動資金が不足気味だ。

 なんとかしろ。

 我々が新しい国王を立て、次の時代の為にも集結するのだ。

 裏切りは死を意味する、よく考えて行動しろ。


「と、まあこんな感じね。最後の“力なき花”って言うのはコードネームか・・・集合場所か、合言葉かしら?」

「ええ? それ本当?」

「・・・まあ、貴族みたいな書き方だけど、実際はどうかしらね? 何の変哲もない便箋の線が・・・実は暗号の一部だったりするのよ、注意・警告・要求・命令・・・ツートントンって感じの線が多かったら指示とか伝言の意味があるわね」

「“墨色(すみいろ)の雪”のくだりは分かるけど“力強い花粉”がなんで“尊きお方”なの? しかも“お身体ご自愛下さい”って言うのが真逆の意味過ぎて怖いよ!」

「花の花粉は働き蜂や・・・風に乗って花々を渡るのよ、だから花粉は偉い男性を指す言葉なの・・・まあ、こんな表現滅多に使わないけどね」

「なんでルノンは詳しいの? 貴族ってそんな勉強もするの?」

「・・・・・・昔の嫁ぎ先で教えて貰っただけ、普通は使わない種類の隠語よ」

 そう言いながら目を逸らして俯くルノンを見て、これ以上は聞いてはいけない空気を察した。

 ――――ああ、はい、ごめんなさい・・・元夫が訳ありって事ですか・・・

 ネレはとりあえず話を戻す事にした。

「太陽ってのが国王様なの?」

「んとね・・・農奴(のうど)がせっかく育てた穀物を収穫したのに、上手く利益を領土に返還できない領主様を“黒い太陽”って揶揄(やゆ)して言うの、要するに偉いくせに役立たずっていう悪口ね・・・農奴にとって太陽が領主様・・・じゃあ、貴族にとっての太陽は誰?」

「王様・・・です」

「つまり偽物の太陽って言ってるって事は?」

「・・・やばいです。国王様の悪口です」

「現王の存在を認めないと言う手紙なんて見つかったら?」

「やばいです」

「そーゆーこと!」

 カタリ、と、ルノンは木製の事務机の引き出しを漁り、頑丈そうなハサミを取り出した。

 ネレの書き写した紙を手に取り、行儀悪く片足でごみ箱を引き寄せ、その上でシュレッダーの如く紙吹雪を作った。

「ネレ・・・ルイードさんには私から言っとく・・・だから貴女から言葉にしてはダメよ」

「は・・・い・・・」


 ルノンは「私の元夫がね・・・“黒い太陽”って呼ばれてたのよ」と、ぽそりと呟いたが、ネレは聞かなかった事にした。


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