第15話 【墨色の雪と、偽の太陽】 その4
本日の兵舎食堂 賄いメニュー
〇汁なし坦々うどん
「タンタンうどん・・・てなんだ?」
「・・・ひき肉や細切り野菜を乗っけた麺の事を勝手にそう呼んでいます。今回は練りごまとタマネギのみじん切りがあったから、思い付きで調味料を作りました」
「何でもありの賄い料理だからな」
厨房の作業台で、ほぼ初めての四人同時の実食となった。
「ネレの言ってた“作業分担表”ができたおかげで、片付けが厨房メンバー以外でやって貰えるようになって、何とか人手不足解消したよ・・・」
給仕を担当していた数人が、厨房の片づけを素早くこなしていた。
洗浄された器具や皿は間違いなく定位置にすっかり戻されている。
眉間にシワを寄せながら、ニジェルは苦笑いをした。
「まさか給仕係の中で洗浄を得意とする‟器用の才”の持ち主が混じっているとは思わなかった・・・」
しばらく大人しくしていたネレも、実際厨房の手伝いを初めてからその忙しさに閉口し・・・「料理以外は他の人にやって貰えるのでは?」と、分かり易く厨房の仕事を箇条書きにしながら、ニジェル・ルイード・ナトン・クロエと確認をしていたのだ。
それは・・・本来は料理長が行った方が良かったのだが、そもそもこの城内では各部署の業務の分担はあっても、個人の業務表はなかったらしい。
「最初はネレが何を言っているのか判らんかった・・・」
ルイードが坦々うどんをフォークに絡めながらため息をつき、温かい湯気が麺の間から浮き上がった。
――――そうだよね“仕事の棚卸”という概念は普通はないんだよね
食堂内の給仕に雇われた人間は、注文・配膳・会計をする以外、結構ぼ~としながら突っ立っていて、指示がなければテーブルの上も拭かなかった。
仕方がないのでネレが必要な作業を時系列に並べて書き出し、調理師でなければできない仕事を抜き出し、それ以外を外注に出したという訳だ。
作業一覧表を紙に書いて貼り、給仕に雇われている者は、食堂内の作業が終わったら必ず厨房側に声をかけると言う約束をした。
不思議と皆はサボらずに、まめに動くようになった。
“貼り紙効果”と給仕係達の“競争心”である。
だが、絶えずお互いに声を掛け合わないと習慣は根付かないもので、そこは調理師と給仕係のコミュニケーションにかかっていた。
「はじめの方は、料理長が良い顔しなかったな」
「ああ、厨房は自分の聖域だと思ってたからな~・・・同じ調理師として判らん事もないが、そんなお高く止まってられんだろう? 純正の調理師が五人で、休みは交代制・・・無理だろ!」
「しかもスケジュール調整をしていたシャドンさんがいないッス!」
三人は愚痴を言い合いながら、大きく開けた口で、バクリと坦々うどんを頬張った。
ネレはいつも通り無音で器用にチビチビと食べ、しばらく無言の食事風景が続いた。
うどんを初めて食べたルイードが皿から顔を上げた。
「ネレ・・・これなに?」
質問されたネレは、きれいに口の中を飲み込んだ後、ハンカチで口を拭いてから答えた。
「うどんです」
「麺だよな? 何が入ってんだ?」
「小麦粉と塩と水でできています」
ニジェルが噛み切った麺の断面を真剣な眼で見ながら聞いた。
「こんな中身までモチモチなんだから、油とか卵とか混ぜてんだろ?」
「油なんて一切使っていませんけど・・・」
「ん~じゃあ片栗粉の効果か?」
「え・・・と、ニジェルさん、うどんの麺ってどの辺で失敗したんですか?」
「・・・真ん中の方」
「真ん中? 麺の芯の辺り?」
「粉っぽくて・・・しかも茹で方も水からだから、食えたもんじゃなかった」
水で麺のまわりが先にふやけ、更に麺の中まで火が通らない状態であろう。
ネレの予想では、デロリとしたうどんの悲惨な物体Xが出来上がっていた。
「・・・・・・・うどん種、寝かしました?」
「寝かす? パンの発酵みたいな?」
「発酵じゃないんですけど・・・グルテンが・・・いや、水と小麦粉を馴染ませるために、二回ほど何もせずに置いとく時間をもうけるんです」
「そうか・・・うどんはそうなのか・・・」
「え? パスタも寝かすでしょう?」
「何の事だ?」
「え・・・そ、そうか・・・“料理の才”を使うんですよね」
「まあ、一連の作業を見る事ができれば次から “才”で再現できそうだな」
「ズルいですね・・・それ」
――――そういえば、パスタもなんか違うんだった・・・いや、ニジェルさんが作ったパスタか・・・美味しそうだな?
「ちなみに、さすがにパスタは市販品を使うぞ?」
「・・・ですよね、時間かかりますもんね」
そう言えば、と、ナトンが空になった皿から顔を上げ、隣の作業台に置いてある茹でる前のうどん一玉と、先ほどルイードが作った坦々うどんの具の一人前を指差した。
「ねえ、ニジェルさんあれ! おかわりっスか?」
「ちがうぞ」
「ちえ・・・足りないから、今日の残ったチキンみんなで食べるっしょ?」
ナトンは、チキンのオーブン焼きを準備する為に席を立った。
「ボクはお腹いっぱいです・・・そろそろ帰ります」
「・・・そうだな、早く逃げた方がいいぞ」
腕組みをしながら少し考え事をしていたニジェルが片目を開けて言った。
「え?」
椅子から腰を浮かしかけたネレの動きが止まった。
食堂の利用者が居なくなった、しんとした中・・・遠くから近づいてくるテンポの速い足音が聞こえて来た。
しっかりと閉まっていた食堂と厨房を遮っていた扉が勢いよく開く。
「ネレ! なんだこれはっ!?」
帳簿と経理からの報告書を携えたトレフルが現れた――――。
少しノロノロ運転になるかもですが・・・体調管理の為、運動する時間を作ります!
腹筋がどこかに行きました・・・自分の無くした筋肉を求めて旅に出ます(うそ)




