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第14話 【雪の剣(ゆきのつるぎ)】 その10

 夕食の慌ただしい時間の、兵舎食堂の厨房内は活気に満ちていた。

 スープの立ちのぼる湯気、オーブンで焼かれる鶏肉、巨大な銀色のボールに盛られたサラダの山、次々と並べられる空の皿に、あっと言う間に料理が盛り付けられていく。

 ネレは踏み台に乗っかりながらサラダの山をトングで素早く皿に盛り付け、厨房から食堂側につながる横長のカウンターへと出し、給仕をする女性に滑るように渡した。

「ネレちゃ~ん! 三番テーブルのマヨネーズがなくなっちゃった!」

 バタバタと動き回る給仕のおばちゃんから、食堂のテーブルにある調味料の追加注文が入った。

「は~い、ただ今準備しま~す!」

 元気よくネレが返事をしたと同時に・・・。

「こっちのボールにでき上がったヤツ置いとくぞ、ネレ!」

 ルイードが作業台の方から大量のマヨネーズが入ったボールを、ネレのところに運んで来た。

「ルイードさん、ナイスタイミング! ありがとう」

 ささっと皿に移し替え、カウンターから給仕のおばちゃんへマヨネーズの皿を二つ出した。

「お、分かってるね! 他のテーブルも今日は人気のマヨネーズがあるから、どんどんおかわりお願いすると思うよ~」

「は~い、マヨネーズは何でも合いますからね!」

 兵舎では最近、肉でもサラダでも何にでもマヨネーズをかける者が後を絶たなかった。

 定番の追加調味料である、塩・胡椒・一味唐辛子・酢は置いてあるが、マヨネーズは変則的に出現するので、ここぞとばかり、マヨネーズが減っていく。

 ――――マヨラーが出現している・・・まあ、みんな肉体労働が中心の人が多いからそう簡単には太らないと思うけど?

 ネレはそう考えながら、先ほどから味見が途切れないモーヴの姿をチラリと視界に入れた。

「・・・・・・・・・・・・・」

 厨房内を見回すと、誰もが同じことを考えているらしく、ネレはモーヴ以外の厨房メンバーと視線を合わせつつ、クスリと笑い合った。

「ネレ、サラダはナトンと交代しろ、ルイードとこっちの料理の盛り付け手伝ってくれ! メインが間に合わないんだ」

「は~い! 今、行きます!」

 ニジェルが指示を出し、皿を運んでいたナトンとネレが交代した。

 スープの味見をしていたモーヴがその指示に、驚いたように振り向く。

「子供に・・・メインの盛り付けを手伝わせるだと?」

「ええ、そうですよ料理長? ネレは器用で美的センスがいいんです」

 ルイードがしれっとして答えた。

 まるで「何を当然なことを?」とでも言いたげな表情を浮かべていた。

「料理長、ネレは料理の色味のバランスが上手いんですよ!」

 ――――・・・てれっ!

「すみません・・・自分、不器用なモンで・・・」

 悲し気にナトンが下を向いた。

「ナトン! お前には、みんなにはない体力がある! がんばれ!」

「はい副長! 自分、ネレさんをサポートしながらがんばります!」

「え? ボクがサポートされるの?」

 キラキラしたナトンの瞳に、ネレは思わず自分の顔を指差した。

「ナトン・・・今度、俺と一緒に“美的センス”の勉強しに、良い店に食事に行こうな?」

「うん、ルイード!」

 この会話のノリにおいてけぼりになったモーヴが、ネレをひと睨みした。


 翌日は、クロエが出勤し、ナトンが休みの日だった。

「ネレちゃん、はい」

 昼間の静かな厨房で、洗い終わった大量の野菜を目の前に、クロエは自分の愛用の道具箱から、当たり前のように白銀色の小さい包丁をネレに差し出した。

「え・・・お借りしてもいいんですか?」

「ええ、どうぞ? コレを使った方がネレちゃんは(はかど)るんだろう?」

 ネレは遠慮がちに、そっとその包丁に手を伸ばした。

「ありがとうございます・・・こんないい包丁・・・ボクが使えるなんて、お恐れ多いです」

 包丁から手を放したクロエはポカンとした。

「はあ、あんた・・・こんな幼いのに、この包丁の良さが分かるんだねえ?」

 白く光る小さな包丁をうっとりしながらネレは眺めた。

「こんなに薄くて、軽くて、使い易くて、しなるような包丁は見たことがありません」

「まあ、そんだけ若けりゃ道具との出会いも少ないだろうに」

 ――――いや、前世の履歴も合わせて、マジで見た事ないっす!

「これ・・・包丁って言うより・・・(つるぎ)みたい?」

「ふっ・・・!」

 ネレがそう口走ると、クロエは思わず噴き出した。

「お・・・おかしいですか?」

「いや・・・ごめん、そうじゃないんだ」

「え?」

 肩を震わしながら、小さな声で笑い続けたクロエを、ネレやその他の調理師達が不思議そうに注目した。

「ふふふふ・・・そうだね、実はそれは小さな(つるぎ)なんだよ」

「え! 包丁じゃなくて!?」

「なんて言うのかな・・・そのコは、人を殺める為の武器になりたくなくて、今は包丁のフリをしてるんだよ」

「そんな・・・包丁のフリをする剣なんて・・・あるんだ?」

『えっ! ネレそれ信じるの?』

 ニジェルとルイードが声をそろえた。

 クロエが我慢しきれず、そのやり取りに腹を抱えながら大きな笑い声を上げる。

 ネレはクロエと包丁を見比べながら、瞬きを何度かした。

「でも、今は“包丁”でいいと思いますよ? いい仕事、してくれるし、人間だってそうでしょう? 何かの為、とか・・・無理やり親に決められちゃうよりも・・・回り道して辿り着く答えも大事だと思います」

「ネレ! 何を包丁相手に真面目な事を・・・」

 にやけるニジェルの方に顔を向け、ネレは普通のテンションで声をかけた。

「だって・・・ボクもそうだから?」

 ――――ボク、“マナシ”なんでしょう? 最初から、そういう風に評価されてるんでしょう?

 そう思いながら、ネレは首を傾げて見せた。

 笑っていたクロエとニジェルも、静かな表情に戻った。

 ネレの手の中にある白銀の小さな包丁は、どんどんと冷たくなり始め、白くくもりはじめた。

「ネレちゃん・・・それ、冷たくないのかい?」

 クロエは真剣な眼差して、白くくもる包丁を指差した。

「ああ、ひんやりはしますけど、持ち手は何ともないです。不思議な道具ですよね? 付与魔法とかあるのですか?」

「・・・・・・・・・・こりゃ・・・たまげたね」

「何がです?」

「今まで色んな属性を持ってるヤツに持たせはしたけど、こんなに相性が良い人間は初めてだ」

「相性がいい?」

「あんただったら・・・そのコに何て名前をつける?」

「名前?」

 ――――ああ、名刀なんちゃらとか? 愛馬のなんちゃらとか?

「そのコ“名無し”なんだよ」

 ネレは包丁の柄の模様を指でなぞった。

 その模様は鈴蘭(スズラン)・・・白く、粒のような花が連なって咲き・・・毒を持つ通称‟殺人花”。

 ネレの本名の意味は、“あの世とこの世の間に咲く、睡蓮の花”だった。

 その花を手折(たお)る者は・・・黄泉の王の怒りに触れ、亡き者とされる。

 トレフルや副院長のソールの説明は「どうか誰もこの子を傷つけませんように」と、親が“祈り”を込めたのであろうと、聞かされていた。

「・・・そうですねえ~! ボクだったら“白雪(しらゆき)”って呼んじゃいます」

「なんで“白雪”?」

「ん? 『どうか、真っ白いままでいられますように』って願いをかけて」

「その心は?」

「なんとなく」

 ネレは頭をよぎった言葉を口に出さず、笑顔で誤魔化した。

 ――――「どうか、誰も殺さずに生きて行けますように」・・・と・・・


 “白雪”と名前を与えられたその小さく鋭い包丁は、ぼんやりと一瞬だけ光り、白銀の包丁は・・・少しだけ白色に近づいた。


こんばんは~・・・遅筆でど~もすみません!

もりしたです。仕事量が凄くてヘロヘロしてます。

さすが繁忙期! 復職して二年目だと・・・甘えてられませんな。

ひと月まるっとひどい風邪ひいてましたし、ではでは皆さんもこの寒さでご体調崩さないように、お気を付けくださ~い。はあ、やっと次の話に行けるよ・・・( ;∀;)

おやすみなさい。

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