第14話 【雪の剣(ゆきのつるぎ)】 その5
「トレフル様・・・お呼びでしょうか?」
東側のトレフルの執務室に、憔悴しきったシャドンが残業時間に尋ねて来た。
帰り支度をしていたロティスが、トレフルとシャドンの顔を交互に見つめた。
「あの・・・僕、このままいた方がいいですか?」
「・・・いや、ロティス、今日はこのまま上がるように」
「はい・・・失礼します」
ロティスは後ろ髪を引かれる思いだったが、聞いてはならない話だと察し、部屋から出て行き潔く扉を閉じた。
「まあ、適当なところに座ってくれ」
「いえ・・・このままで・・・」
「・・・苦労しているようだな」
「少々、不味い事になっていまして」
「マテオ様から聞いている・・・今回の件で上から横やりが入ったそうだな」
「はい、本来の俺の任務とは違う業務を任されてしまいまして、動きづらくて参っています」
「其方の本来の任務は・・・この城内建築設備の調査だったな」
「ええ、増改築を繰り返しているこの城は、正確な図面がないもので、とりあえず専門家が表向きはやっているのですが・・・どうも、色々と各部署で捻じ曲げられた報告が多くありまして」
「秘密のティールームを含む食堂側の調査報告を基に正確な図面が完成したのだろう?」
「お陰様で・・・まさか、あの下にある食料庫に特別な魔法が施されていて、完璧な食品管理がされている事が、どこにも報告が上がってなくてびっくりですよ」
「ふむ・・・孤児院の方の調査も・・・この水道事業のお陰でほぼ造りが解明できたしな」
「ネレちゃん様様ですよ・・・ははははっ!」
「そうだな・・・だが、食材の時間を遅らせる魔法が、政府発表の20年以上昔から只の食堂で使用されていたなんて信じられんな」
「隠れ魔法使いまで出て来ちゃいましたねぇ~・・・何故、そんな素晴らしい技術を隠すんでしょう?」
トレフルは左手で頬杖をつき、右手で机をコツコツと叩いた。
「アレは・・・死体保存にも役に立つんだ・・・」
「ふおっ・・・!」
「表に出ると色々と不味い魔法でね。使用方法の法的規則が成立されるまで時間がかかった。専門分野の人間以外が使用できないように、呪法に鍵をかけたパターンだな」
「なるほど・・・表向きは専門の人間が施した事にしておく訳ですか・・・ですが、俺の報告書に嘘は書けません。そういう契約ですから」
「そうだな・・・真実は歪めてはならない、後の人間が同じ過ちを繰り返さない為にも・・・さて、今回のややこしい話を一旦整理して説明して貰えると助かるんだが」
「承知しました・・・セレポレの誘拐事件のまとめですが。例の木箱の回収作業の者達を調べたところ専門の運び屋業務を正式に行っているとの事です。城に自由に出入りできる業者は限られていますからね、裏稼業も含めて中々儲かっているようです。お察し通り貴族たちの後ろ盾があります。ですが、キチンとした取り決めがありまして・・・運ぶ商品の中身は絶対に見ないのだそうです。商品価値の高い物などが紛失した場合は、運んだ者が窃盗の疑いが掛けられてしまいますので、規則を設けているとのことです。
「では、例の木箱の届け先は・・・」
「結論から申し上げますと奴隷商でした・・・もちろん、直接奴隷商のある建物ではなく、荷物の中継地点が準備されていて、別の業者が素早くあの木箱を回収するそうです」
「何故、セレポレは生きたまま奴隷商に引き渡されたのか」
「そうですね、口封じの目的なら・・・事故に見せかけて殺すこともできたでしょう」
「やはり・・・営利目的か?」
「・・・憶測ですが、申し上げても?」
「言ってみろ」
「セレポレとネレは間違われて誘拐された・・・と言う線は濃いです。恐らくは水道事業の進行が緩むかどうか? の確認かと・・・」
「――――奴隷商から木箱の輸送の仕事を請負った者はどうした? さすがにその報告書は作るだろう?」
「・・・・・・・奴隷商に強行調査に入った憲兵に飛び掛かり、その場で殺されたそうです。憲兵側は正当防衛だと報告が上がっています」
「嘘っぽいな・・・木箱を運んだ業者自体の罪は問えるか?」
「ただの輸送業務ですから、罪には問われません。そして、城内から運び出された木箱は百を越えます」
「問題の木箱を運び出した人物から言質は取れなかったのか?」
「特定できた人物は死亡していました。我々が木箱のからくりに気が付く前に・・・ですから、その者が死んだ原因が、今回との関連があるかどうかまでは・・・既に死体は処分されています」
「・・・やはり組織ぐるみか・・・だが、偽の証人も準備していないのだからウェメレス殿の罪の証明はできないな、“悪魔の証明”のごとくやっていないとも言えないが・・・」
「‟水の覇権”は、かなり魅力的ですからね・・・競争相手の潰し合いですか・・・お粗末なものです、技術者を引っ張り出す為の強硬手段ですかね」
「だから・・・ネレの発案はソール先生にも、ウェメレス殿にも教えていない・・・説明するのが面倒くさいから」
「そこが本音ですか・・・と言うか、ジェラニオ様が面倒くさいから押し付けられたんじゃないんですか?」
「まあな、あの方は完成してから“水の利権”を私から取り上げるつもりだろう」
「うわぁ~! あの方が一番極悪ですね・・・」
「・・・しかし、あのセリアの代わりに其方がコルシックの面倒をみるのか」
「はい・・・本来、俺は報告だけで文官室に顔を出していたんですが、何故か白羽の矢が立ってしまって」
「その代わりに、兵舎食堂には引退間近の者が西側から配属されたのか」
「助けて下さいよ! 今、厨房内がカオスになってますぅ!」
「弱ったな・・・あの名物ばあさんは我々の味方は絶対にしないぞ」
「コルシック様がセリア様に泣きついて、戻って貰えるのが一番いいんですけど」
「う~ん、何故か仲良さげにネレと書類を作っていたな・・・」
「・・・あれ、やっぱりネレちゃんの仕業ですか」
「まあ~・・・マテオ様が先に報告書の写しを持って行ったが?」
「ええ! それじゃあもう提出されたと同じゃないですか!」
「そうだな・・・コルシックが監査官として正しい行動をしなければ、彼に未来はないな」
「勘弁して下さいよ! コルシック様が失脚したら・・・あのアベジ・・・じゃなかった。あのアルベルト様が次期監査官候補になっちゃいますよ」
「あのアルベルト・ジーンか? ないない、候補になったとしてもマテオ様が止めるだろう。しかし、どこも人手不足で困ったな」
「はあ~・・・本当に困りました」
「そう言えばなんか、ダフネが“困ったときは”なんちゃら頼みとか言ってたような・・・」
「ああ・・・そう言えばビーヴがネレと街へ出かけた時に、“なんちゃら頼み”が効いたとか言ってましたね」
「えーと、何だったっけな?」
トレフルとシャドンはしばらく腕を組みながら記憶を辿った。
こんにちは、もりしたです。
いつも誤字脱字報告ありがとうございま~す。
すでにサブタイトルでやらかしている状態で、脳ミソがおかしいです。
未熟な文章で申し訳ないっす・・・でも、文章を書くことができる“場”を頂いて、とても楽しいです。
ではでは、来週までに、更新準備中です!




