第13話 【肌肉玉雪(きにくぎょくせつ)のような?】 その1
「なんか・・・暑苦しい・・・」
ネレが秘密のティールームで目を覚まし、ベッドの天蓋を見つめながら、そうつぶやいた。
どうやら、昨夜はシャドンに抱えられながら眠ってしまったようだ。
着替えも調理士の制服から、楽な寝間着に着替えさせてもらっていた、たぶんシャドンだろうとネレは推測した。
右を向くと上半身が裸のニジェルがいびきをかき、左を向くとシャドンが行儀よく眠っている。
ネレが身体を起こしてベッドの左右を見回すと、左側の床にナトンが毛布に包まり、左側の床にはルイードが高そうな寝袋で寝ていた。
「・・・男くさい、なにこの状況?」
ゴソゴソと左側のシャドンが寝返りを打とうとしていたが、その拍子に目を覚ました。
「・・・おはよ・・・ネレちゃん」
「あ、すみません。起こしちゃって・・・」
「別にいいよ、今日は朝当番だし、とりあえず送って行くね。先に何か簡単なもの作るよ、おなか減ってるでしょ?」
まだ眠たげな顔で、シャドンは起き上がり、朝一番の伸びをした。
――――大変だ! こんなところに世話焼き系の理想の彼氏がいる!? ってゆーか、何故となりのオッサンだけ上半身裸なんだよ!
「ああ、ニジェルさんはもう少し寝かせてあげようね・・・どうせ今日の非番は変更決定だし」
「え・・・お休み取り消しなの?」
シャドンは意地の悪い笑みを浮かべながら、山吹色の前髪を掻き上げた。
「すみませ~ん! ニジェルさんいますかぁ?」
孤児院で出かける準備が整ったネレが、昼前の厨房に顔をひょっこり出した。
「はて・・・どこの坊ちゃんだね?」
白い調理師の制服に、坊主頭のふくよかな中年が対応した。
ピッと背筋を伸ばし、ネレは行儀よく挨拶をした。
「は、はじめまして、ボク、ネレと言います。いつもお世話になっています」
それが料理長のモーヴだと悟ったからだ。
「・・・ネレ?」
「あの・・・セレポレの友達で、ニジェルさんにお世話になっていますので、ご挨拶がてら立ち寄らせていただきました」
「セレポレの・・・?」
モーヴは眉間に皺を寄せ、ネレを上から下まで値踏みをするように見つめた。
「はい、お忙しいところ申し訳ありません。ニジェルさんはご不在ですか?」
「まさか・・・孤児か?」
ネレはこざっぱりとしたクリーム色の長袖に、上品で渋めのオリーブ色のベストと、揃いのハーフパンツを着ていた。
「はい、ただ今トレフル様のところでお世話になっております。セレポレの孤児院仲間のネレです」
ポカンと口を開けているモーヴの後ろに、ルイードが昼食の支度をしながら状況を面白がっているようにニヤけている。
「お、ネレか? 今日は随分とキレイな恰好してんな!」
かなり上の方から降って来た声に、ネレは振り向いた。
「ニジェルさん、今日も紳士スタイルお似合いです!」
「そ・・・そうか?」
ニジェルは休日返上にて、貴族文官達の食事の対応となった。
代わりに今日はナトンが急遽非番となったのだ。
食堂内の配膳や片付けなどは、いつも城の女中達が行っている。
「今日の会議室届けのメニューは?」
「ライスサンドのとろろ昆布巻きだ。急すぎて海苔が手に入らなかったからなぁ」
「もちろん、米が苦手な人もいるからパンも準備するよ?」
シャドンがニジェルの後ろから出て来た。
「ネレちゃん! 新しい服できたんだね! よく似合うよ」
どうやら先ほどまで、ズボラなニジェルの身だしなみの手伝いをしていたらしい。
「てへ! ありがとうございます」
「だ・・・だれだ?」
モーヴがニジェルの紳士スタイルに、唖然としている。
「おはようございます。モーヴ料理長・・・いやね、貴族様相手だからちゃんとしないとってね・・・」
「おまえのポリシーはどこへ行った!」
「なんですか、それ?」
無精髭のなくなった顎まわりを撫でながら、ニジェルはとぼけて見せた。
実は身なりは何度もモーヴに注意されていたが、反発して一向に直さなかった彼である。
「あ、昨日、共同浴場に落としてきたみたいですよぉ?」
「こら、シャドン! 余計な事を」
「落としてきた? ポリシーを・・・」
ネレは厨房の出入り口を塞がないように、ささっと食堂側へと身を寄せ、二人に道を譲った。
「シャドンさん、お陰様で今日は街の本屋さんへ、ジャンさんとビーヴさんと一緒に行ける事になりました」
「そりゃ良かったね!」
ネレと一緒に喜んでくれるシャドンとは別に、ニジェルはショックを受けた顔をした。
「なに! 聞いてないぞ!?」
「いや、まあ・・・約束していたルノンが忙しくて、代わりにジャンさん達が・・・」
「あ、だから新しい服を着てんのか!」
「うん、街のお出かけ用の服はニジェルさんのお陰でもあるから、見せに来ました」
ネレはくるりと一回転して見せた。
「じゃあ今日がお買い物デビューか! 聞いてないぞ!?」
「え・・・そう言われても?」
コテンと、ネレは首を傾げるが、シャドンがニジェルの気持ちを悟った。
「・・・別にお買い物デビューは、副長とじゃなくてもいいじゃないですか」
「なに言ってんだ! ‟ネレ厨房デビュー”! ‟ネレ森デビュー”はルノンお嬢に譲ったが、ほら‟一緒にお昼寝デビュー”とか・・・だから、‟お買い物デビュー”は一緒に行きたかったんだよ!!」
「どこのお父さんだよっっっ!」
シャドンのストレートなツッコミが入った。
「ちょっと何言ってんのか、ボクわかんないです・・・」
「あの・・・今日、ネレちゃんが買い物行くって知ってたら、もしかしてニジェル副長は?」
「休み取ったに決まってんだろ」
「いや、あの、この仕事はトレフル様のご指名で・・・」
「別にモーヴさんでいいだろ! ねえ? 料理長?」
ニジェルは両手を広げ、モーブにワザとらしく困り顔を向けた。
「おま・・・こういう時だけ・・・私に仕事を投げるか?」
彼は顔の向きをシャドンとネレに戻した。
「ほら、こういう時だから、俺の方が戦い慣れているしネレを護れるだろ?」
「え? 戦いってなに? ボク本屋に行くだけなんだけど・・・」
もはや会話のスピードについて行けなくなったネレは、思考を停止した。
「ニジェル副料理長? あなたの職業はなんでしたっけ?」
「え、調理師?」
「ジャンさんとビーヴさんの職業はご存じで?」
「え、兵士?」
「適材適所でしょうがぁーーーっ!」
おやすみなさい・・・もりしたです。
明日、冷蔵庫の設置です。
また、来週(笑)カキコカキコ!




