薄明の談論 3
「それで?なに?ルナはヒロインの親友役なわけ?」
「いやぁそれが、私はそのお話あんまり詳しくなくてね。少なくともルカが一人っ子だったってことは言えるんだけど。」
「待ってなにそれ。僕も出てくるの。」
「出てくるよ。イメラ様を中心に、その従者のリド、あとはキラザ、ヴェル、フィー、ルカに兄様、ハルド。」
「…人選に異議を申し立てたいんだけど。」
私が知っているイメラルートをやんわり説明すれば、ルカは額に手を当てた。ショート寸前ですねわかります申し訳ない。
「もう一回言っていい?」
「何度でもどうぞ。」
「もっとましな言い訳は無かったの…」
ああ、今ので三つくらい幸せ逃げたよ。まだ幸せいたんだね良かったいや良くないか。私そんなたくさん捕まえてられないんだけど、これで終わりじゃないんだよ。もうちょっと付き合っておくれ…
「うん、それで、ここからが本題なんだけど。」
げっそりとした顔のルカの前にある小皿にギモーヴをひとつおすそ分けする。頭に糖分、だいじ。
「その話は、ifの話…パラレル…ええと、同じ登場人物で違う流れの物語がいくつかあるんだけど、今私たちが生きているこの世界は、そのどれとも違う流れを進んでいるみたいで。」
「それがエディスにとって不都合?」
「今のところ好都合かな。ルミィの知り得る最悪の流れは、ハルドがルミィの近しい友人皆殺しにする話だから。」
ばしりと。空気が凍ったってこういうことだろうか。言われたことが理解できない、とばかりにルカは目を瞬かせて、それから眉を寄せた。うーん、これは言いすぎたかなぁ。
「なんで、そうなるの。」
ギモーヴが喋れたのなら、きっと断末魔の悲鳴をあげていただろう。さすがにフォークを突き刺すような真似はしなかったけれど、それを持つ手は関節が白く浮かんでいた。
「うん、私も同じこと言った。だからそれは起こり得ないよって説明するために私はチョーカーを外して見せたし、実は同じ立場だって信じてもらう必要があった。」
ルカが見たのは諸々終わった後のところだよ、と勤めて何でもない事の様に説明すれば、意図を汲んだルカは苛立たしげにこれまた盛大な溜め息を吐いて、確認するように口を開く。
「…その“ハルド”は、エディスの知る物語の中のハルド?」
「うん。」
「エディスの知る物語の中に、ルナは存在しない?」
「そうだね。」
「エディスはルナが“ハルド”だと思っていたから、避けてた?」
「あれ、知っていたんだ?」
「まあね。興味なかったから気にしてなかったけど。」
そういうことね、とルカは椅子の背に凭れかかる。その表情は、本人の言っていた通りようやく合点がいったというような、納得はできたものの気分は晴れないようだった。
「つまりルナは人生一回分、余分に経験があるわけだ。」
「んー、約二十年を人生一回分とするならそうだね。」
「…最初から解ってたの?」
「それをそうだと理解したのは…八歳の頃かな。」
「…そう。」
目元を覆うように。額に手を当てたルカはぼそりと呟いた。
「だったら仕方ないか、って思った自分に心底腹が立つ。」
なにが、とは聞かなくても分かった。それでもその心中は推し量ることしかできなくて、ルカはずっとこんな気持ちを抱えてきたのだろうかと、ぼんやりそう思う。
何とも言えない沈黙が下りて、それを酷く居心地悪く感じる。こうなることを頭のどこかで解っていて、私はそれが嫌だったのだと、今更気付く。何か言おうと口を開いて、けれど発する言葉が見付からなくて、結局閉じる。ルカの目元は隠されたまま。どうにもならなくなって、クルミのタルトを頬張る。さくり、ほろほろとほどけていくタルト生地に濃厚で香り豊かなキャラメルの甘さが絡んで、そこにクルミのこつこつとした食感と香ばしさがアクセントを加える。ああおいしい。やっぱり甘いものはすばらしい。そうして紅茶を飲んで、ほうと吐いた息と共に、言葉がこぼれた。
「変わらないよ。」
わずかにルカが身じろぐのが分かった。
「これを話して、たぶん私自身に変化は無いよ。でもきっと、ルカは変わってしまう。私はそれが嫌だった。」
双子だからといって、何でも話さないといけない、なんてことは思わない。それでも今、こうして向き合っているのは、話さなくても変わってしまうことに気付いたから。それも、自分の望まない方向へ変わってしまうと。
「でも、ルカと変な距離が開くのは、もっと嫌だから。」
そう言って、へたりと情けない笑みが浮かぶ。そうすると、ルカは私の表情が解っているかのように、情けない顔、と呆れた様な笑みの混じった声で言う。
「…ま、ルナが妙な事言うのは昔からだったし。最初からそうだったのなら、つまりはそれがルナってことでしょ。」
もうそれならいいや。そう言ってルカは手を下ろす。ようやく見えた顔は、やっぱり呆れた様な、諦めた様な、それでいてどこか吹っ切れた様な、苦笑をしていた。
背後でふっと息の漏れる音がする。視線を上げれば、マイラが私の後ろを見てわずかに頷いている所だった。そのまま柔く笑んで、
「お二人とも、同じお顔をされていますよ。」
そう告げられ、お互い顔を改めて見合わせて、首を傾げる。あ。ルカも同じ格好してる。気付いてまた、同時に逆へ首を傾げる。今度こそはっきりと、メイアが噴き出すのが聞こえた。




