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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
四章 日常編

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陣取りゲーム

 「こんな結果あり得ないでしょ!?」


 エクレアが元気に喚くいつも通りの日常。

 厳正なるくじ引きでペアを決めた結果、皆からそれぞれの反応が沸き起こる。

 場所はシオンさんと下見を済ませた山。

 そこで陣取りゲームを開始すべく現地集合した俺たちは、その場で用意されたくじを引いた。

 結果――


 俺とティル。

 イリアとシオンさん。

 クランとサイラ。

 …………エクレアと、エイム。


 「終わった」

 「こっちの台詞よっ!」


 既に揉め始めているエクレア、エイム組。

 ここの優勝はまず無いと分析していいだろう。

 個々の力は抜きんでるものがあるが、相性というものは大事である。


 「わ、私が……姫様と……」


 一方、サイラは番号が書き込まれたくじを持って傍目にも分かるほど震えていた。

 う~ん。

 ちょっと何というか……事情が分かるからなぁ。


 「まぁ、女神のお導きですわね。宜しく頼みますわ、サイラ」

 「は、はいっ! 精一杯、がんばりますです!」


 毛の逆立った猫みたいになってるよ。

 サイラ、大丈夫?

 ここの戦力分析は難しいな。

 クランは当然侮れない。

 本来なら優勝候補筆頭だ。

 でも協力が勝敗を左右するゲームにおいて、プレッシャーに飲まれているサイラの手腕が未知数である。

 ふむ……


 「頑張りましょう、お姉様」

 「そうだね、勝てる気がするよ」


 確かに。

 朗らかに笑い合うイリア、お姉ちゃん組。

 ここは隙がない。

 もめ事もない。

 ついでに指揮力はクランに次いでイリアが断トツに飛び抜けていると言ってよい。

 クランの次にイリア、それから越えられない壁があって、その他。

 恐らくこんな感じ。

 優勝候補筆頭か?


 「いかにもヒューマン好みの遊びよのう。妾は群れるのは好まん」


 そして我が師である。

 くあ、とやる気無げに欠伸をしている。

 むしろこの人よく付き合ってくれたな。

 しかし……


 「敵に回したら果てしなく厄介そうなのに、味方になっても厄介ってどういうこと……?」


 これが俺に与えられた試練だとでも……?

 仕組まれたとしか思えない結果だ。

 正直俺は楽観していた。

 誰と組んでも有利になれるだろうと。

 自惚れていたと言っても良い。

 仮に俺とイリアだったとする。

 完璧、勝ったも同然。

 俺とクランだったとする。

 確実に優勝。

 俺とお姉ちゃん。

 絆の力は誰にも負けない。

 俺とエクレア。

 いつになく力が発揮できそう……などと、惚気てみる。

 俺とエイム。

 エイムはクセがあるが能力は抜群、俺ならば従ってくれる。


 ――そして、俺とティル。


 「丁度良い、妾をずっと負ぶって移動するが良い」

 「……なぜ?」


 妖怪か。


 「妾は寝る、そしてお主は修行になる」

 「走り回ったり、跳んだりするかもしれませんよ……?」

 「問題ない」


 こっちが大問題なんですよ!!


 「ちょ、ちょっと! いきなり有無を言わさず私の背中に乗っからないで下さい!」

 「後は好きにせよ……くあ」


 あっという間に耳元から寝息が聞こえてきたんですけど!?

 俺の体力から言って、これはキツイ!


 「……終わった」

 「ん、さすがマスター。気が合うね」

 「あんたは黙ってなさいよ!」


 同意を示してきたエイムに、エクレアが激昂していた。

 開始前からカオス過ぎる……






 このゲームは別にチームで実際に戦闘行為を行う訳ではない。

 そんな血生臭い遊びではない。

 チェスとか将棋とか、そういうゲームの様なものだ。

 キング、クイーン、ポーン。

 チームの皆をこの三兵種に当てはめて行動する。

 キング:俺。

 クイーン:ティル。

 ポーン:メイドさん5人。

 これが俺たちのチーム。


 「これで良し、と」


 開始に備えてそれぞれチームごとに移動した俺たちは事前準備に勤しんでいた。

 全員の腕に赤いリボンを結んで我がチームの印とする。

 クイーンは更に銀のリボンを結んで2色とする。

 キングはその上に金のリボンを結んで3色とする。

 クイーンとキングの目印の色は各チーム同様。

 一目で分かるようにという配慮だ。


 「アリスお嬢様、ティルベル様が背中から落ちないのはどういう理由なのですか?」


 メイドさんの不思議そうな視線の通り、俺は背中におんぶしているティルから手を離している。

 そうしてティルの腕にリボンを結んでいる。


 「魔法です。引力でくっつけてます」


 へぇ、とメイドさんが目を丸くしている。

 これも修行といえば修行である。

 常に魔法を使い続けてかなりハードだけどね。

 よだれ垂らさないでね、ティル……

 それはともかく。


 「開始の合図を送る前に、ルールを確認しておきましょう?」


 俺の言葉に、メイドさんたちが力強く頷いた。


 「キングは相手クイーンを倒せるが、ポーンに負ける」


 無敵ではない。


 「クイーンは相手のポーンを倒せるけどキングに負ける」


 別に殴り合いをする訳じゃなくて、タッチするだけなんだけど。


 「で、ポーンはクイーンに負けるけど、キングを倒せる」


 という三すくみ。

 ちなみに同兵種の場合、引き分ける。

 倒すことも、捕虜になることもない。


 「で、タッチした敵は自陣地にて捕虜にできる。でも相手にタッチされると解放される」


 この本拠地の旗の周りに描いた円の周りということだが。

 もちろん同じチームの味方にタッチされると、ということだ。

 他のチームがタッチしてもダメ。

 今回は4チームあるからな。


 「キングがやられるか、旗を取られると負け」


 その時点で復活できなくなる。

 その場合倒した相手が、そのチームの生き残っている仲間と他のチームから捕まえていた捕虜も併せて全員を捕縛できる。

 こうして最終的に捕虜が多いチームが勝ちということになる。

 陣取りゲームと言うより捕虜取りゲームのような気もする。

 基本的なルールはこんなところだ。

 本拠地の旗は絶対に守らないといけないから、常に守りに誰か置いておかないといけない。

 でもポーンだけに守らせておいて、相手クイーンに襲われたら目も当てられない。

 チームで魔石を持ち合っているから状況毎の連絡は可能なので、やはり指揮力が要求される。

 臨機応変に、いかに効率よく仲間を動かしていくか。

 一通りの確認を終えて、頷くメイドさんの顔を見渡していく。


 「……私はこれで負けず嫌いです。遊びでも勝ちに行きたい、手を貸して下さいね、皆!」

 『畏まりました、アリスお嬢様!』


 士気は高い!

 見てなさい、クラン、イリア!

 一泡吹かせてあげます!


 「むにゃ……」

 「ひゃあっ! よだれ垂らさないでティル!」


 クイーンが使えないんだけど、どうしたらいいの……?






 合図の鏑矢がチームとは別の審判で付いてきたメイドさんによって打ち上げられる。

 ゲーム開始である。

 さて、どうする?

 俺が残ってメイドの皆を動かすか?

 敵ポーンが攻めて来たら俺だけだとやられるが、幸いというか何というか、ティルが背中にいるからな。

 そこは使いようだろう。


 「……まずは相手の位置を確認しましょう、二人一組で敵陣地を探しに出て? 一人はここで私と一緒に本拠地の守り」

 『畏まりました!』


 気持ちの良い返事と共に、一人を残してメイドさんたちはツーマンセルで飛び出して行った。

 これで本拠地の守りは鉄壁だ。

 三兵種が揃っているんだから相当の事が無い限り旗を取られることは無い。

 逆に言えば、相手の陣地を本格的に攻める際はメイドさんたちだけを先攻させてもダメということになるけどね。

 まずは様子見。

 開けた草原部と鬱蒼と茂る森林部を併せ持つフィールドは身を隠すに不自由は無く、本拠地も簡単には割り出せない。

 闇雲に動くのは危険だ。


 ――でも、それが最初から闇雲じゃなく正確に敵の動きを把握できていたら?


 「その場合……相手の油断しているところに先制攻撃をかけられる?」


 俺は気になって辺りを注意深く見渡した。

 瞬間、森の中から閃光が煌めいた――!


 「うわぅっ!」


 咄嗟に身体を逸らして、その紅蓮の矢を躱した。

 炎の矢!

 これは……!?


 「何を実力行使してるんですか! エクレア! エイム!!」


 当たったら怪我するでしょ!?

 そもそも相手に危害を加える行為は禁止しているのに!

 俺の叫びに不敵な笑みを浮かべたエクレアと、無表情のエイムが姿を現した。


 「喚かないでよアリス。よく言うでしょ? ――勝てば官軍!」


 開き直りやがった!!

 一番大したこと無いチームだと思ったけど、ある意味一番面倒なチームだった!

 腕のリボンを見ると、キングはエクレア、クイーンはエイムか。

 一人メイドさん残しておいて良かった!


 「エクレアをお願い!」

 「畏まりました!」


 メイドさんが素早くエクレアにタッチしに行く。

 さすがにエクレアも魔法を使うようなことはしないで、鬼ごっこみたいに追いかけっこが始まった。


 「ていうか、助けなさいよエイム!」


 確かに。


 「ん、役割分担。そのまま引付けてて」

 「その役割分担おかしいでしょ!?」


 ……確かに。

 こっちはキングとクイーンで守っているのに、相手クイーンだけで何をしようと?


 「マスターごめんね」

 「え? あ、ああ? さっきの矢?」


 エイムが無表情の中にも申し訳なさを滲ませて頷いた。


 ――言いながら、エイムがまた弓を構えた。


 「こらこらこらこらあっ!」


 謝りながら、全く反省してないじゃん!


 「勝負事には手を抜かない」

 「そんなそぶりもなかったのに!?」


 何がエイムを変えた!?

 エクレアが言うには違和感のない台詞だけど……

 その時、キング同士が報告用に持ち合っている専用の魔石から声が聞こえた。


 『ご機嫌よう、アリス』

 「クラン!?」


 どこか含んだ笑い声でクランから通信が入る。


 『余は思ったんですの。折角のイベントに賞金が無いのは如何なものかと』

 「……は?」


 賞金……?

 俺はわざとらしく沈痛な表情を浮かべるエイムを真っ直ぐ見据えた。

 ……目を逸らされた。


 『そんな訳で、余のポケットマネーから順位に応じて賞金を出す事にしたのですわ。頑張ってくださいませ』


 忍び笑いと共に通信が一方的に途切れた。

 あ、あんの……!!


 「腹黒姫えええええええっ!!」


 見事にエイムを焚き付けたな!


 「そんな訳で、マスター。観念してもらえる?」

 「その前にルールを守りなさいよ!?」


 弓を引きながら脅しをかけるのは止めなさいよ!?


 「大丈夫、マスターの魔力ならこんなしょぼい火なんて大したことない」

 「誰の魔法がしょぼいですってえ!?」


 相変わらずメイドさんと追いかけっこしながらエクレアが叫んでいる。

 しかしエクレアは正々堂々の鑑みたいな子だよねぇ。

 最初の矢も牽制だったんだろうし、魔力込めはエイムに頼まれたんだろう。

 メイドさんとは魔法無しで純粋に勝負するつもりなのか、得意の火魔法を使わない。

 ……あのまま体力勝負したら、うちのメイドさんに負けそうだけど。


 「大丈夫、マスター。痛くしないから」

 「絶対嘘ですし!」


 痛い思いをしたくないなら素直に道を開けて旗を寄越せと?

 じりじりと迫るエイムに、じりじりと後退する俺。

 開けた草原地帯を吹き抜ける風。

 それに運ばれる木の葉。

 それが映画のようにこの決闘を演出している。


 「……私は、負けない!」


 逆転の目は……これしかない!

 天啓がひらめいた俺は、素早く反転した!


 「!?」


 エイムが今にも射かけようとしていた弓を止めた。


 「ふ、ふふふ! さぁ、射かけられるものなら、射かけてみなさい!」

 「……さすがマスター、味な真似をする」


 エイムの頬から汗が流れる。

 背中を見せる俺に、エイムの動きが止まる。

 その俺の背中にはすやすやと幸せそうに眠る猛獣一人。


 「眠れる獅子を起こす勇気があなたにはありますか、エイム!?」


 俺にはない。

 眠っているティルに攻撃するという蛮勇など!

 息を吸う空気が喉を切るが如く、ひりひりとした緊張感。

 俺たちは決断と牽制のせめぎ合いを繰り広げ、そして――――


 「くあ、腹が減ったのう。ちょっとパンでも食べてくる故、しばし待っておるが良い、アリスよ」


 瞼を擦りながら背中の猛獣が動いたかと思うと、瞬く間に屋敷の方に向かって空を駆けて行った。


 「……」

 「……」


 自由すぎるだろおおおおおお!!?


 「……タイムってあります?」

 「敵に背を向けるとは、隙だらけだねマスター」


 問答無用でエイムが矢を放った。

 ですよねえ!?


 「――っ!? この、馬鹿スナイパああああっ!!」


 追いかけっこしていたエクレアが咄嗟にファイアーをその矢にぶつけて相殺してきた。

 そしてそのまま炎を使って空を舞い、俺の前に盾になるように立ち塞がった。


 「あんた今、当てる気だったでしょ!?」

 「当てる気じゃないと、マスターには牽制にならないから」

 「だからってっ!」

 「裏切る気?」

 「あんたがそんなだから、こうするしかないでしょ!」


 エイムは腰に提げた矢筒から、実弾――つまり本物の矢をあてがった。


 「……やる?」


 挑発めいたエイムの声に、エクレアが不敵に笑って応える。


 「あんたとは、いずれ決着を付けておかないといけないとは思ってたわ」


 エクレアが詠唱を開始する。

 紅蓮の炎が空中の至る所にセットされる。


 ……やれやれ。


 俺はそんなエクレアの背に隠れて自分の腰袋を漁る。

 目的の物を見つけて、エイムに向かってそれを放り投げた。

 それをエイムが弓を下ろしてキャッチする。


 「……マスター?」

 「降参する?」

 「参った」

 「何なのよあんたはああああっ!?」


 エクレアが絶叫するのを聞きながら苦笑する。

 前に教会にあげた金貨はおいそれと使えないってことでしょ?

 何があるか分からないものね。

 それで子供たちに美味しいものでも食べさせてあげなよ、エイム。

 俺が笑いかけると、エイムはバツが悪そうに、また目を逸らした。


 「エクレアも捕まえた~」

 「あ、アリス……」


 背中からエクレアを思いっきり抱きしめる。

 キング同士なので勝敗には関係ないが。

 エクレア、いい匂い……


 「ちょ……止めてよアリス、ばかぁ」


 抱きすくめて、エクレアの首筋に顔をうずめると恥ずかしそうにエクレアが悶えた。


 ――そして。


 「タッチです」

 「あ……」


 メイドさんがエクレアにタッチした。

 ごめんねぇ、エクレア?

 勝負の世界は厳しいのです。


 「ふふん、私たちの勝ち」

 「ひ、卑怯だわ、アリス!」


 眩しすぎるよエクレア。

 そんなエクレアが大好きだけど!

 ともかく、ここからが本番みたいなものだ。

 ちょっとだけご立腹のエクレアに。


 「――今夜泊まりに行って良い?」

 「~~っ」


 そっと耳打ちしてみる。

 そんな俺にエクレアは相変わらずご立腹の様子で。


 「馬鹿! アリスの、馬鹿ぁ!!」


 と、馬鹿馬鹿言われたのであった。






 ところで斥候に出していたメイドさんを一旦呼び戻して作戦会議を始めていると、お腹が膨れて満足した様子のティルがやっと帰ってきた。


 「食後の腹ごなしに、少しばかり遊んでやるかのう、くふ」


 と邪悪な笑顔を浮かべていたので、俺にも勝機はあるのかもしれないと思った。


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