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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
三章 冒険者編

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紅蓮の魔眼

 ――魔眼!?


 「くっ、熱い!」


 エクレアは何もしていない。

 ただ、そこに居るだけ。

 対面しているだけに過ぎない。


 ――なのに、焼き尽くされそうな程の魔力を放出している。


 「相変わらず制御出来てないね。予想の範疇だけど」


 レイミアがそう言って、ポケットからネックレスを取り出した。

 今しがた千切り取ったエクレアのネックレスと、良く似ている。


 「どう? 一緒に来るなら、あげるけど? 欲しいでしょ、魔眼封じ」


 焦点が合わない目でぼんやり立っていたエクレアが、それを見て引き寄せられるように歩いて行く。


 「エクレア! どうしたんです! しっかりして、その子は……敵ですよ!?」


 その声に動きを止めたエクレアが、俺の方に振り向いた。


 ――まともに、目が合った。


 「――っ!? なんてっ!!」


 熱さ!!?

 この魔力は尋常じゃない!

 魔法を唱えた訳でもないのに、俺の魔法防御を突破してくる!

 絶対に、俺以外のメンバーが対面しちゃいけない……!


 「……だ、れ? エクレア? それ――わたし?」

 「――え?」


 相変わらずぼんやりした表情のエクレアは、冗談を言っている様には見えない。

 エクレアの、エクレアらしい覇気が――無い。


 「このままじゃ、自我が崩壊するか。銀の雷精」

 「な、なんです」


 レイミアがエクレアに近づこうとした俺の前に割って入ってくる。


 「押し問答している暇はない――――友達、死なせたくないでしょう?」


 ネックレスを見せびらかせて、レイミアが忠告してくる。

 ――頭に、きた!


 「……あなたが! あなたが、余計な事をするから!!」


 ――レイミアを叩きのめす。


 ネックレスを奪う。

 エクレアに付けてあげる。

 以上、話は……終わりだ!


 「――っ」


 身体に雷を巡らせて、レイミアに跳び掛かる。

 黒い炎に邪魔されて、掴み掛った手が少し焼かれる。

 そのまま炎の壁で受け流された。


 「あの時より、更に速い……銀の雷精。貴方は危険だ」


 焼かれた手をヒールで回復しながら、機を伺う。

 くっそ!

 やっぱりレイミア、簡単にどうこうできる相手じゃない!

 時間が、ないのに!

 レイミアの後ろで、ぼんやりと突っ立っているエクレアを見ると、焦る。


 「仕方ない――プリンセス。焼き払え、そうすれば苦しみから解放してあげる」


 レイミアの一言に、息を止める。

 ゆっくり首を巡らせたエクレアが、俺を見た。

 相変わらずの熱。

 視線を合わせるだけで、一苦労……!


 「――ほん、と?」

 「嘘はつかない。プリンセスは大事。大切にする」


 そのレイミアの言葉に――エクレアが嬉しそうに頷いた。


 「エクレア!! 私が分からないんですか!?」

 「熱い……熱いの、助けて欲しい。だから――――居なくなって?」


 頭を鈍器で殴られたような衝撃を、その言葉から受けた。

 正直に言えば、動揺した。

 そんな俺に、エクレアは手を挙げた。


 「――ファイア」


 ――は?

 牽制でも駆け引きでもなくて、真正面から、今更そんな下級魔法で……?

 いや――違う!!

 これは、ファイア何かじゃ!?


 「――キャスト解放! アイシクル・ガーデン!!」


 エクレアのファイアにしては、弱々しそうに見える炎。

 でも、いつか見たエクレアのファイアには無い神秘性を感じる!

 それは、直感。

 理性ではなくて、本能で防御態勢を取った。

 そして、頼りなげなそのファイアが氷の壁に接触して――大爆発をあげた。


 「~~~この、威力!!?」


 スターフレアより……!?

 全力で守るが、氷の壁に亀裂が入り――砕かれた!


 「う、ああ――!!」


 爆風に吹き飛ばされて、地面を転がる。

 何とか、五体満足だ……

 氷の壁で威力を相殺していなければ――死んでいた。

 エクレアに殺されたかもしれない、という事実に心が締め付けられる。

 闘技大会のような、お互い競い合った心が躍る戦いじゃない。

 歯を食いしばる。

 大爆発と、建物から転がり飛ばされた俺を見て、外で戦っていた敵味方が騒然とする。


 「アリス!」


 シオンさんが身を翻して近づいてこようとするが……!


 「来ちゃ、ダメです! 誰も近づかないで! 早く、退路を確保してください!」


 シオンさんが、俺の呼びかけで足を止めた。

 俺以外がエクレアに睨まれでもしたら……!

 いくらシオンさんでも、視線から逃れるなんてことは、無理だ。

 シオンさんは真剣な目で俺を見て、一つ頷くと囲みを突破するために再び敵の騎士に切り込んで行った。

 ……さすが、お姉ちゃん。

 自分にヒールをかけながら、起き上がる。

 少しだけ立眩みがするが、まだまだ深刻という程じゃない。


 「……何がファイアですか、エクレアの嘘つき」


 再び、二人の立つ半壊した小屋へと戻る。

 もはや全壊と言っていいほどの惨状だが。


 「うそ? ウソ……わたし、嘘つき」


 一言一言が、エクレアを混乱させるのか……?

 胸が痛い……


 「今のは原初の火の、コピーかな? よく生きてたね、銀の雷精」


 レイミアが感心したように、解説してくれる。


 「原初の、火? 何なの、魔眼って……」


 焦点の合わない目で、何か呟いているエクレアが心配で心配で、気が気じゃない……!

 悠長に会話してる場合か!

 そんな俺を見て、レイミアが少し苦しそうな顔をした。


 「……クリムゾン・サイト。紅のプリンセスに因んで、そう名付けてる」


 エクレアの魔眼?

 紅蓮の、魔眼?

 魔法を強化するのか?

 いや……そんな単純なものじゃない気がする。


 「うそ、嘘? 誰? 私わたしワタシ――」

 「限界ね。銀の雷精、いい加減にして。これ以上やり合ってるうちに、友達が死ぬよ?」

 「――あなたが、言う事ですか!!?」


 すぐそこに、エクレアが居るのに!

 さっきまで、ずっと俺の傍に居てくれたのに!

 どうしたら!?

 一瞬でレイミアと決着をつけるのは、無理だ!

 でも、もたもたしていたら、エクレアが……!

 本当に、どうしたら良いのか分からない……


 「……そこまで葛藤するなら――――こっちに来ると良い、銀の雷精。プリンセスと一緒に居てあげると良い」


 レイミアが、俺に手を差し伸べてくる。

 悪魔の、誘い。


 「――っ」


 こっち?

 ……サクラメント?

 そっちに行って、どうする?

 誰と――――戦う?

 桃色の髪の友達が、頭に浮かんだ。


 「それは――それはっ!」


 そんなことは!


 「……まぁ、いい。追って来ないでね」


 逡巡する俺に、レイミアが見切りをつけた。

 エクレアと手を繋ぎ、黒炎で二人を包んで空に浮き上がる。

 ぼんやりした表情のエクレアと、もう一度目が合った。


 ――考えも無しに、身体が勝手に跳んでいた。


 行かせたくない!!

 黒炎の中に左手を突っ込んで、エクレアの手を握る。

 洒落にならない――熱さだけど!!


 「くっ……エクレアぁ!!」


 左手の感覚があまりない。

 確認したくない程だ。


 「……アリ、ス?」


 一瞬だけ、大きく目を見開いたエクレアが――


 「あ、ああああああっ!!」


 片手で頭を押さえてうめき声をあげた。

 負担に、なるだけなのか!?

 どうしてあげる事も、出来ないのか……


 「――」


 ――そして。


 エクレアが一度目を瞑ってから、再度その目を見開いた。

 先ほどまでが嘘のように、落ち着いた雰囲気。

 紅の瞳と――――銀の瞳のオッドアイ。


 「――無理させすぎ。もうちょっとで、この子消えてなくなる所だったじゃないの!」


 めっ、という口調で、急にエクレアが怒り出す。

 俺とレイミアの両方に向けて。

 遥かに年上の人から、優しく説教されているような感じだ。

 まるで別人。


 「……エクレア?」


 全く雰囲気の違うエクレアが俺と繋いだ左手を注視して、優しく微笑んだ。

 らしくない、笑顔で。


 「凄い、大発見しちゃった! あぁ、もう! わくわくするわね! ねえねえ? 貴方、ティルの子供!?」

 「え!? ティル? あの? えと、そんなような……ものかも?」


 突然出た名前に、驚く。

 ティルをそんな風に呼ぶ人は、俺を除いてちょっと記憶にない。

 師匠弟子という関係だけど、確かにこっちの世界の保護者であるのは間違いない。


 「やっぱり! で、この子の大切な友達なんだね?」


 エクレアの口から、自身の事を別人のように語られても変なのだけど。

 不思議と、違和感は無かった。


 「――とっても大切な、友達です」


 だから強く頷いて、強く手を握りしめた。


 「――ふふっ、分かった。じゃあ、ちょっとだけ辛抱して? この子の事は、私が悪いようにしないから? ね?」

 「本当、ですか?」


 ただ離れ離れになるだけじゃなくて、二国間で引き裂かれるような気がして不安なのだ。


 「大丈夫! 寂しい想いはさせないわ、この子にも、あなたにも」

 「ほんとに、ホントですよね!?」

 「もちろん! ……引き裂かれるのは、もう十分だもんね」


 呆気に取られて、それでも何故か任せられるような気がして、頷いた。

 いや、もう縋るしかなったから……


 「良い子! ね、ティルに宜しくね! 愛してるわって」


 ……エクレアじゃ、ない?

 そう言って、『エクレア』さんは俺と繋いだ手を、そっと放した。

 俺も、抵抗せずにそれを受け入れた。


 「貴方も、この子の事を想ってあげてね? そうすれば、きっと直ぐに逢えるわ!」


 天真爛漫な、エクレアとは雰囲気の違う笑顔を浮かべて『エクレア』さんが俺に声をかける。

 そんな言葉に、もう一度頷いた。

 そうして、ずっと様子を見ていたレイミアが一気に速度を上げて離脱した。


 「エクレア……」


 空から落ちながら、エクレアから離した手をじっと見つめる。

 結局止められなかった自分の未熟さを戒めて、強く想う。

 どうか、再会するその時までエクレアの事を守って――『エクレア』さん。

 左手を強く握りしめて、そう願った。






 「――なるほど、そういう訳か」


 その夜、公都のティルの部屋で息も絶え絶えに事情を説明した。

 あの後、決死の覚悟で囲みを突破した俺たちは、何とか全員無事にウィルミントンの駐屯基地に辿り着いた。

 皆はそのまま前線の駐屯基地に残ったが、俺だけ魔法を使って全力で公都に駆けて来た。

 生身で移動した自己最長距離である。

 しかも我ながら早かった……


 「小娘の魔眼の正体は、分かった。お主の話を聞く限り、間違いないであろう」


 ベッドに寝転んだまま、鷹揚にティルが頷いた。


 「今のでっ、ぜえぜえ、分かった!? はぁはぁ、ですか!?」

 「……うむ。ところで会話し難くて敵わんから、少し息を整えてから話をせんか? 怖いぞ?」


 小さい子を前にして、息を切らせてはぁはぁするという図か……通報されるな。

 テーブルに置いてあった水差しを借りて、一先ず喉を潤す。

 深呼吸しながら、少しだけでも息を整える。


 「……すみません、取り乱しました」

 「構わんよ」

 「私……悔しいです」

 「くふ、まだ何も失っておらんであろう?」


 その、通りだ。

 落ち着けアリス。

 後悔する暇があるなら、最善の行動で取り戻せ!


 「どうすれば、対抗出来るんですか? あの、魔眼!」

 「――無理であろう」

 「ティル!!」

 「喚くな。今のお主に対抗するのは無理であろうし、それ以前に、対抗する必要がないかもしれん」

 「どういうことですか?」

 「……懐かしい、気配がするよ」


 ティルが、見たこと無い程優しい目をした。


 「まぁ、戦いにはなるであろう。後はアリスよ、お主があの小娘の全力を受け止められるかどうか、というところかの」

 「対抗出来ないんじゃ……?」

 「くふ、小娘の、全力に対抗してやれば良い」


 ティルが意味ありげに笑う。


 「……ティルの秘密主義」

 「そう言うな。妾とて、聞いただけでは全ては分からぬよ」


 それはそうだろうと思うけど。

 色々想像出来てるんじゃないんですか……?

 ――それはそうと。


 「サクラメントは、きっと攻めてくる……」


 皆、前線にいるんだ。

 早く戻らないと。

 それに……エクレアも、来るかもしれない。

 普通に考えればせっかく捕まえたエクレアは出し惜しみするだろうけど、『あの人』なら……

 そうなるなら、ティルの言う通り、全力で受け止めてみせる。


 ――っ!


 眩暈がした。

 限界か……

 魔力はともかく、体力的に無理があったか……

 ベッドに寝そべったまま俺の話を聞いていたティルに向かって、倒れ込む。


 「乗っかるでないわ!」


 突然俺に覆いかぶされて、ティルが小さい身体を怒らせる。


 「……もう、無理」

 「……仕様がない奴。未熟なりに、必死だったか」


 身体の下から、ティルの優しい声が聞こえてくる。

 あ……そういえば、伝言を預かっていたかな……?

 朦朧とする意識で、それだけ伝えないとと口を動かす。


 「……ティル……愛してる……」

 「――ばっ、何を!? ……たわけ! 言うだけ言って無責任に眠るな、馬鹿弟子が!」


 ああ、意識が……もう眠らせて。


 「……まったく。本当に、可愛げのある奴」


 遠くなっていく意識の端で、優しく頭を撫でられているような、そんな気がした――


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