くすぶる火種
さて、スキルを再び選択出来るようになった訳で。
俺が最初に取得可能にしていたスキルが残り二つ。
・ダブルキャスト
・潜在能力
う~~ん。
今回はどっちを選ぶのが正解なんだろう?
潜在能力は謎なのだけど、何となくではあるが推測は出来る様になってきた。
マリアさんのスキル『天才』。
あれは反則だろうとは思うが、恐らくそういう系統ではないか?
でも現時点では、確実に強くなるのが分かっているダブルキャストを選ぶのが無難だろう。
キャスター・グローブでは限度があるしね。
スキル
・詠唱短縮(特)
・ダブルキャスト
ということで、ダブルキャストを選択した。
うん、戦い方の幅が広がると思うな、このスキルで。
LVもまた1に戻っているし、恐らく存在するだろう三次転職に向けて精進あるのみだね。
新しい魔法も覚えたし。
年齢とレベルの関係から、鍛えるときは若い時に一気に鍛えた方が効率が良い。
この辺が、妙にリアルだなー。
その上で、ティルみたいに経験を深めていけば無敵になると、そういう訳だね!
「考察終わり! さて~、どうしよっかなぁ」
宮殿の借りている部屋のベッドに寝転がって、身体を伸ばす。
クラスアップして明けた朝、のんびりしながら今後について考える。
さすがにいつまでも滞在していては迷惑が過ぎるというか、厚かましいだろう。
なので、今日一日ゆっくりして、明日に王都に帰る事にしよう。
公国は、正直サイラにとっても物凄く良い環境なので、ここで暮らしても良いくらいではあるけども。
「う~ん、本当にそうしても良いかもね」
何と言っても、クランの国だし。
でもそのクランが今は王都にかかりきりだからねぇ。
それが出来るのも、マリアさんが居るおかげだろうけど。
「……クランってば、あんなお姉さんがいる事を隠してたなんて」
従姉って言っていたかな?
というより、イリア曰く有名な人だから知らない方が珍しいだけか……
……ま、あの天才ぶりを見ればね?
「こっちに住むにしても、クランと一緒に戻って来たいな」
そうだね、その為にも、今はあの子が頑張っている王都に帰ろう。
――キナ臭い事になってきたのは、マリアさんに挨拶しておこうと訪問した執務室での事だった。
「盗賊退治、という名目ですか」
マリアさんに挨拶している途中、執務室に騎士が飛び込んできて、緊急ですと報告しだした。
「はっ、国境付近に約五千からの兵を展開しております」
デスクに座って直立不動の騎士の報告を聞いていたマリアさんは、まるで動じずに頷いた。
「分かりました。ではこちらも国境沿いに八千の兵を展開。また、主要街道の警備も強化しなさい。姫殿下には私から報告します」
「了解しました!」
わざわざ端に寄っていた俺にも敬礼してから、騎士は執務室を出て行った。
「あの? 私まで聞いてしまって大丈夫なんですか……?」
「構いません。アリス殿は公国の大事なお方。うふふ、未来と言っても良いのですから。隠す理由がありません」
「そ、そうですか?」
公国の未来はクランであって俺じゃない気がするんだけど、どういう意味だろう……
柔和な笑顔を浮かべたマリアさんが、デスクから魔石を取り出した。
市販されているような魔石より、遥かに純度の高い遠距離通話用のものだ。
それを起動させてしばらく。
「姫殿下、マリアです」
『ええ、どうなさったの?』
クランの声だ!
「サクラメントが牽制をかけてきました。恐らく衝突にはなりませんが、状況は流動的でもあります」
『そう、指揮は貴方に任せますわ』
「心得ました。くれぐれも殿下は動いてはなりませんよ? 王国を我が物顔で動かしていると取られかねませんからね」
『分かっています。相変わらずマリアは口煩いですわ……』
「うふふ、姫殿下を思えばこそ、私はいつも心を鬼にしているのです」
『絶対に楽しんでいますわ……』
身内っぽい会話だなぁ。
と、目を丸くしていると、マリアさんと目が合った。
「ところで、クラン?」
『な、なんですの? マリアにそんな風に呼ばれると、碌な事がないのですわ』
「――御子は、いつ授かるのですか?」
『…………それは、まだ気の早い話でしょう』
「確かにクランの身体はまだ準備ができてないかもしれませんね? でもあまり呑気にされても困ります」
『余計なお世話ですわ』
……何か、横で聞いてて良いような話でもないような。
そわそわするような。
「公国の安泰の事もありますが、クランには幸せになって欲しいですから。それに私もクランの御子を一人養子に頂きたいです」
『マリア……ごめんなさい、貴方の時間を奪い過ぎている自覚はありますの。やはり機会を設けましょうか?』
クランが少し落ち込んだ声を出した。
それにマリアさんが笑う。
「いえいえ、私は今、姫殿下を支える事に幸せを感じておりますから。でも、いけませんねぇ、クラン?」
『な、何がですの?』
「うふふ、こんなに離れていては、思うように事が進みませんよ?」
『は? だから、何を言っていますの?』
そこで、マリアさんは薄く笑った。
ああ、この人あれだ。
俺にとってのイリアだ、完全に。
主従関係に違いは無いんだけど、なんというか、こう……曲者。
とびっきり有能なんだけどね……
「――ねえ、アリス殿?」
「いや、まぁ……はい?」
呼ばれたので、疑問形で何となく返事をしてしまった。
『…………居ます、の?』
「う、うん……久しぶり、クラン」
久しぶりのクランの声に、少し緊張した。
魔石での会話という状況も相まって。
『…………』
「クラン?」
『なるほど……外堀を埋めるいい機会ですわね』
小声でクランが呟いた。
『マリア』
「は、姫殿下」
『アリスと連れに永住権を与えます。後は貴方の采配に任せますわ』
「うふふ、心得ました。やはり旅に出すと、見違えるほど成長しますね。鼻が高いですわ、クラン」
『……子供扱いは止めてくださいませ、マリア』
「これは失礼しました。では、諸々経過は定時報告で、私の可愛い姫殿下」
『まったく……良きに計らえ、ですわ』
「うふふ、交信終了」
そう言って、マリアさんは魔石を俺に差し出した。
というかですね……一体何をしようとしてるの貴方達?
何ともなしに、それを受け取った。
……?
あれ?
「――クラン? まだ、居るの?」
魔石に語りかけてみる。
『アリス、今すぐその執務室から出なさい。周りに人の居ない場所まで移動しなさい。さぁ、早く!』
「は、はい!」
慌ててマリアさんに一礼すると、穏やかな顔で手を振られてしまった。
さっさと自分の部屋まで戻った俺は、久しぶりにクランと、とりとめのない話に興じたのだった。
そして夕食の席で、皆に事情を説明する事にした。
「という訳で、今は移動しない方が良い状況なんですけど、皆はしばらくここに滞在しても大丈夫?」
道中、何が起こるか分からないし。
それよりは公都の方が遥かに安全だろう。
「わたくしは、お嬢様の傍が居場所ですので」
「あたしも、そうだね」
「私も、もちろんですにゃ」
と元々の連れ合いメンバーは快諾してくれる。
ティルは欠伸してるけど、この人どこでも良い人だから、関係ないよね。
「リンも、でしがいるなら、いる~!」
「ありがとう、リンちゃん」
はいは~い、と手を挙げたリンちゃんに、ついつい相好を崩す。
「ん、問題ないよ。教会にはラナがいるし」
エイムも相変わらず黙々とご飯を食べながら、頷いてくれた。
というか、この子良く食べるなー何気に。
ドワーフって、そうなのかな?
小さいのに、一体どこに入っているんだろ?
「エクレア?」
一人、俯いて考え込んでいたエクレアを見る。
「サクラメント? ……何、それ……何、考えてるのよ」
エクレアが、いつになく険しい表情を浮かべて呟いた。
どうしたんだろう?
「アリス、指揮官は誰!?」
食って掛かるような勢いで、問うてくる。
それに少し面食らった。
「え? マリアさんじゃ?」
「違うわよ! あっちの、サクラメントのよ!」
「そこまでは……」
「……まさか、レオニール?」
もどかしそうに、もう一度エクレアが俯いた。
かと思うと、落ち着きなく突然立ち上がった。
「……ちょっと、国境沿いの盗賊退治に行ってくるわ」
言うや否や、ダイニングルームから出て行こうとする。
さすがに慌てた。
「待ってください、こんな時間から!?」
「訳の分からない難癖をつけて来るんなら、その根本を叩き潰してやれば良いんでしょ!」
「それなら、私も行きます! 明日、一緒に行きましょう? お願いだから、私から離れようとしないで下さい、エクレア……」
「あ、アリス? あんた、何でそんなに……」
事情の分からないエクレアが、不思議そうな顔をする。
当然だろう。
でも、不安で不安でたまらない。
運命が強制的に俺とエクレアを引き離そうとしているんじゃないかと、勘繰りたくなるほど都合の良い事件だ。
「……分かったわよ。確かに、あんたとエクレアの二人なら、盗賊なんてあっという間に壊滅させられるわ」
「もちろんです! だから、今日はゆっくり休んで英気を養いましょう?」
「そうね……」
頷いて、エクレアがテーブルに座り直した。
ほっとする。
でも、根本的な事を解決しないと、俺が気疲れしてしまう。
起こる『かも』しれない不安に神経をすり減らすのは、上手くない。
ティルの言う通りなのだと思う。
「――おい、紅の小娘」
「え? な、何よ?」
エクレアもびっくりしたようだけど、多分皆びっくりした。
ティルは基本的に、自分からあまり皆に関わらないからだ。
俺は……よく話すんだけどね?
魔族のって言わなかった所に、ティルの配慮が見え隠れするな。
「お主の師匠は壮健か?」
「きゅ、急に何を? 元気に決まってるじゃない」
「いやな、その割に未熟な弟子を放っておくものだと思っての。妾など、目を離すとどんな馬鹿をしでかすか、気が気でないのだがのう?」
「さり気無く、こっちに飛び火した!?」
何故今の流れで俺が罵られるの!?
「氷雪……」
エクレアが何か言おうとして、思い改めたように黙り込んだ。
「エクレアは……」
「勘違いするなよ? 別に何かを糾弾するつもりなど更々ない。それどころか、魔炎が居れば、お主の才能に惚れ込むのは当然であろう」
やっぱりティルから見ても、エクレアの才能は凄いんだね?
さすがエクレア!
「事情を全て聞き出そうとは思わぬよ。だが、現状故あって師事を仰げないというのなら、妾がお主の臨時の師になってやらんこともない」
「!? 氷雪が?」
エクレアも驚いて顔をあげたが、俺も驚いた!
「凄い、エクレア! あの人間不信のティルにそこまで言わせるなんて!」
「アリスよ、後で部屋まで来い」
「……はい」
良いですか?
口は災いの元、皆も気をつけましょうね?
振り向いて見ると、呆れ顔を向けられていた。
どうやら最初から言われるまでも無いらしい。
ぐすん……
「――せっかくだけど、遠慮するわ。エクレアの師はこの世界に一人だけだもの」
「そうか、残念じゃ。ならば、それはそれで良い。これからも、不肖の弟子と共に高め合ってゆくが良い」
用事は済んだとばかりに、ティルは欠伸をしたかと思うと部屋から出て行った。
それを見送りながら、エクレアはいつも肌身離さず付けているネックレスを握りしめた。
「エクレア、せっかく……」
「すまないわね、アリス……」
「――せっかく、私が姉弟子ですよって自慢できると思ったのに!!」
「ぶっ飛ばされたいの、あんた!!?」
――この後、言いつけを守ってティルの部屋に顔を出した俺は偉いと思います。




