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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
三章 冒険者編

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いろいろ整える

 そろそろ装備を新調しないといけないな、と思う。

 冒険者稼業なので、当然先日のような戦闘はある訳で、出来るだけ身の安全を図る努力はしておいた方が良い。

 俺の武器は問題ない。

 キャスター・グローブはこれ以上無いというほどの出来栄えだ。

 なので必要なのは、俺の防具、それにイリアの武器、防具。

 とりあえずはこんな所かな?

 サイラも防具くらいはあった方が良いとは思うけど、何があるか分からないし。


 「サイラ、今日一緒にお買いものに行きませんか?」

 「アリスさんとですか? はいです!」


 そういえば、この子と二人でどこかに行くってことは無かった気がするな。


 「む~~、でし、またリンのことおいていくの!」


 我が家の天使がご立腹だった。


 「お菓子買ってきてあげるから、いい子にしててください」


 お餅みたいに膨らんだほっぺたをつついてやる。


 「ほんと!?」

 「そうだ。材料だけ買ってきて、一緒に作ってみる? きっと楽しいですよ」

 「でしと!? やったぁ! それ、たのしみ!」


 あっと言う間に笑顔に変わる。

 という訳で……


 「イリア」

 「お留守は預かりますわ。いってらっしゃいませ、お嬢様」


 そんな感じで、良く晴れたお出かけ日和の朝一番。

 サイラと一緒にお買い物に繰り出した。

 ううむ。

 最近家から出かけるだけで一苦労だなー。






 サイラの普段着もまた可愛い。

 ベージュのショートパンツに、ネイビーのシャツ。

 それにブーツ。

 ラフな感じなんだけど、可愛らしく纏まっているのは素材がいいからなのか?

 頭はいつものポニーテールだけど、今日はヘアバンドはしていない。

 可愛いネコ耳がぴんと立っている。

 というのも、それは俺の希望だが。

 俺と一緒に堂々と歩いている所を、王都の皆に見せびらかす。

 それも計画のうち。

 ……まぁ、自分がちょっとした有名人なのを勘定にいれた印象操作だ。

 サイラに悪い事をするつもりなら覚悟しろと。

 本当はこんなことしなくても、サイラの人柄を知れば大丈夫だとは思うんだけど。


 「ところで最近ソルトさん見ないんだけど、何処行ってるか知ってる?」

 「ソルトさんですか、あの、きっと強くなるために頑張っているんだと思いますニャ」

 「え? ふ~ん……」


 己の弱さを噛みしめたのだろうか?

 俺の印象では、黒ずくめは絶対にシオンさんに敵わない。

 じゃあ、イリアはどうかというと、これもまた微妙だな……

 突破できるか?

 あの守り……

 エイムに関しては、強いとか弱いとか、そういう括りでは測れないポジションだと思うけど。

 でもエイムには誰にも真似できない強みがあるからな。


 「まさかの最弱、男のプライドに触ったんですかね」

 「えと……動機がちょっと違うような気がするですにゃ……きっとアリスさんの事を守りたいんです」

 「え? いや、私はイリアがいるから」

 「……とてつもなく報われない気配がしますにゃ」


 サイラがはふぅ、と息を吐いた。

 あ、そうだ。

 お菓子作るならエクレアの分も作って、持って行ってあげよ。


 「クッキーかな、やっぱり」

 「……しかも、もう頭にないですにゃ」


 何故かサイラの耳が垂れていた。






 という訳で、王都の素材屋に来た。

 ここはサイラが何軒かある素材屋の中で、一番良いと目を付けている素材屋さんである。

 あまりレアな物は無いが、王都の素材屋にはお金さえ出せば、それなりに良い物を作れるだけの素材が揃っている……とは、サイラの話だ。


 「これも捨てがたい……でも、イリアさんの防具にするなら、もう少し軽めの方が……フルプレートって印象じゃないです。姫様の装備は凄く重量感がありましたけど……ああいう騎士装備とは少し違うですにゃ」


 素材を手に取って熟考しては、また棚に戻す。

 それを延々、延々、延々と繰り返しております。

 ……一つ良いだろうか?

 もう、二時間くらい、経ってない?

 いや、時計があるなら、それくらい経ってる気がする。

 サイラさん、本気ですもん……


 「いやぁ、サイラちゃんは常連だけど、目利きが良くって、こっちも気を抜けないってもんさ。若けえのに大したもんさ!」


 俺はというと、奥のカウンターで店主の親父さんと雑談してる。

 待てないよ。

 後ろでじっとは待てないよ!


 「サイラ、ここによく来るんですね」

 「そうさな、この辺りの素材屋や、商店街の店なんかは一通り顔見知りだろうさ。とっても礼儀正しい、いい子だもんな! 皆に好かれてるさ!」

 「……そうでしょう?」


 思わず、笑みがこぼれる。

 心配するまでもなかったのかもしれない。

 だって、サイラだもんな。


 「お、おお……妖精の笑顔……いい。噂以上……」


 ……


 「親父さん、常連の御贔屓に、まけてね!」

 「……し、仕方ねえな! サイラちゃんにはいつも贔屓にしてもらってるもんな!」


 スマイルはプライスレス。

 しかし、タダより高い物はありませんよ、親父さん!

 まぁ、その分これからも贔屓にするから許してね?

 いつもまけろなんて、言いませんし。






 結局、午前中一杯をあの素材屋さんで過ごしました。

 物凄い集中力だよ……

 でもサイラはご満悦だ。

 どうやら、イメージが固まったらしい。

 良い物を作ってくれそうな予感がする。


 「本当はアリスさんの防具も、私が作りたいですにゃ……」


 そんにゃこと言われても、重くて着られないんですにゃ……


 「私は……やっぱり裁縫師の方にお願いしないとダメかなぁ」

 「はいです……」


 裁縫師って言っても、おばさんに頼みに行くわけにもいかないし……

 裁縫師か……やっぱり、そうですよね……

 あの方しか、おられませんよね?


 「腕は確かだって、エレノアさんが言ってたし……メイド服じゃなくって、防具も大丈夫かな?」

 「?」

 「サイラ、お腹空いたし、お昼食べて帰りましょ?」

 「アリスさんとお食事、嬉しいですにゃ!」


 そんな訳で、エレノアさんのお店でランチを食べる事にした。

 オープンからも順調に客足を掴んでいるのは、何もメイドさんが居るだけではなくて、そもそも出される料理も美味しいからだ。

 厨房スタッフにもエレノアさんは拘っている。

 というか、拘った所で伝手が無ければどうしようもないと思うんだけど、さすがだよなぁ、エレノアさんは。

 しばらくサイラと雑談しながら通りを歩いて、目的地に到着。

 今日も繁盛しているらしいお店に入った。

 さっそく、真紅のメイドさんが出迎えてくれる。


 「お帰りなさいませ、お嬢ひゃま!」

 「……」

 「……」

 「……噛んじゃったね、エクレア」

 「い、良いからさっさと座りなさいよ!」


 接客態度が雑ですし!

 肩で風を切るように歩くのはやめなさい……

 そんな感じでさっさと席に案内されて、サイラと二人、腰を下ろす。

 ところでエクレアって、冒険者じゃないのかな?

 十分過ぎる程の実力はあると思うんだけど。


 「ふん、ご注文は?」


 と、メイドさんの態度がなっていないので。


 「みっくすじゅーちゅ、エクレアより愛をこめて」

 「……」

 「……」

 「……あ、アリスの馬鹿あああああああっ!!」


 メイドさんは逃げ出した!

 エクレアは、かわゆいなぁ……


 「だ、ダメですニャ、アリスさん……っ」

 「ふふ、ごめんごめん。だってエクレア見てたら、どうしてもうずうずしちゃうんだもの」


 仕方ないんだもの。

 注文は別のメイドさんに取ってもらった。

 俺もサイラもあまり食べる方じゃないので、女性用のランチを頼んで、美味しく頂きました。

 お代は二人分のランチで100ルーク。

 銀貨一枚。

 まぁ、ちょっと割高なんだよね。

 美味しいんだけど。


 「あ、あの、私こんなに良い物を頂いて、ご飯もいつも豪華で、お腹一杯頂いて……何か申し訳ないですニャ……」

 「言ったでしょう? サイラは私の家族だって、遠慮は無しです」

 「アリスさん……」

 「それに、食べる事は大事ですし、そもそもお料理は私の趣味みたいなものです。リンちゃんも美味しそうに食べてくれるし、全く苦じゃありません」

 「せめて、手伝わせて欲しいです!」

 「ん~~、それじゃ、一週間の間で交代制にする?」

 「はいですにゃ!」


 今までも、買い物とか、武具の事とか、リンちゃんの事とか、色々手伝ってもらってると思うんだけどなぁ。

 それでも罪悪感を感じるなら、まぁ、好きなようにやらせてあげた方が良い。

 きっとそのうち、気の置けない家族みたいになれるって信じてるし。

 ただし、オーバーワークにだけは、目を光らせておかないとダメだな。


 「あらん? アリスちゃんじゃないの!」

 「ひっ!」


 野太い声に、条件反射で身体が跳ねた。

 店内もざわついた。

 当然だろう、この人営業中に表に来ちゃだめでしょ!

 いや……別にデザイナーであってスタッフって訳ではないから、お客として来る分には当たり前の話なのか……ざわついてるけど。

 ちなみに、サイラはフリーズしている。

 これが正常な反応だよな。

 やはり、イリア凄すぎ……


 「こほん……バティさん、ちょうど良いです」


 用事もあったしな……


 「どうしたのん?」


 いちいちクネクネするのは止してくれないだろうか。

 その黒光りする筋肉を。


 「えっと、私冒険者なんですけど、それ用の防具を作ってもらえないかと思いまして」

 「いいわよ!」


 はや!


 「い、良いんですか?」

 「ええ! アリスちゃんに着てもらうための一品! インスピレーションがビンビン沸いてくるわ!」

 「へ、へー、そうですかー」


 俺の選択は、正しかったのだろうか……


 「あの、お金は高くなっても構わないので、動きやすさと、防御力と、出来るだけ質の良い物でお願いします」


 防御力の弱い俺を守る、最後の砦だからな。

 ケチるなんて、とんでもない。


 「任せて! こうしちゃいられないわ! 出来上がったら、このお店に持ってくるからねん!」

 「お、お願いしますー」


 と、頼む間も無くバティさんは嵐のように去って行った。

 いや、実際嵐だったよ。

 店内はまだざわついてる……


 「ど、ドワーフの方ですか?」

 「多分だけど……ヒューマンだと思う」


 とてもよく訓練されたヒューマンだと。


 「わ、私も鍛えたら、戦闘でもお役に立てるかも……!」

 「やめなさい」


 ほんとに止めなさい。

 その可愛らしい体型から、ムキムキになっちゃったら悲しむ人間は多い……


 「――――お待たせしたわね、アリス!」


 は?

 さて帰ろうかと思った頃、目の前に突然アレなジュースが置かれた。

 果物やらが装飾された見事なジュース。

 ――問題は一つの大きな入れ物に、ストローが二本入っているということ。


 「……なぜ、このジュースを選んでしまったの、エクレア?」

 「見くびらないことね、アリス! エクレアはあんたの挑戦から、一度だって逃げないんだからね!」


 無駄に熱い!


 「さあ、咥えなさい!」

 「え……本気で?」


 店内が何故かまた、ざわついた。

 先ほど以上の注目が注がれている気がする。


 「当り前よ! 勝負よ、アリス!」


 これって勝負なんですかね?


 「……分かりました」


 ストローの一本を咥える。

 ジュース自体は大変美味しい。


 「そ、それじゃ、こっちも咥えるわよっ!」


 そういって、エクレアの顔が目の前に迫ってくる。

 ちょっとした八重歯を可愛らしく覗かせて、エクレアがストローのもう片方を咥えた。


 ……ちっか!


 「わぁ……」


 サイラが何というか、いつもの声を出していた。


 「……」

 「……」


 至近距離で見つめ合う。

 エクレアの顔に朱が入る。

 が、恐らく俺も似たようなものではないだろうか?

 この、吐息さえ当たりそうな距離は……


 「――はぁ」


 一気飲み出来るか!

 とりあえず、一旦口を離す。

 同様に、エクレアも口を離した。


 「飲み切るまでが、勝負なんだからね!」


 これ、一体どういう勝負なんですかねぇ。


 「分かってます……て、あれ? これ、どっちが私のストローでしたっけ?」


 一旦目を離した隙に氷が動いた加減で、お互いのストローの位置が交じり合って分からなくなっている。


 「んん?」

 「そんなのも分からないの、アリス――」

 「多分、こっちかなぁ」


 適当に、片方のストローに口を付けた。

 経過を舐める様に観察していたギャラリーが、更にざわついた。


 「あ、あ、ああっ!」

 「わぁ……」

 

 ん?

 ストローを咥えたままエクレアの方を見ると、茹でられたようにその白い顔が真っ赤になっていた。


 「~~~っアリスの、ばかああああああああああっ!!」


 脱兎の如く、本日二度目のメイドさんの脱走。

 ……ま、まさか。

 いや、まて、整えるんだ!

 ハート的なものを!

 さりげなく全て飲み干して、そっと口を放す。


 「……私の勝ち」

 「……一体、なんの勝負だったんですにゃ?」


 それは誰にも分からない。

 ただここに、勝者と敗者がいるだけなのです。


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