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AM6:00

僕は全てを受け入れていた。それが当然のように。

幼い頃の親の死も、隣にいた筈の友人の死も、ただ淡々と受け入れて、それだけだ。


だから、僕は僕の死も受け入れられた筈だ。筈だった。

綺麗に流れる鮮血を眺めて、気が遠くなり、目が覚めると知らない天井だった。生きてしまったのだ。


これが、僕の始まりなんだろう。








「ご主人様、不味いです」

「五月蝿い。黙って食え」


目の前の美女メイドが文句を言いながら、僕の作った料理を食べる。

料理するのが下手な僕は度々食品達を焦がしたり、味付けを間違えたりする。食べれない事はないのだけれど不味い。


メイドがいるのにナゼ僕が料理をしているのだろう。


「私めに料理をしろと言うのですか!?」

「出来るなら、言われずともやって欲しかったね」

「料理をしているご主人様の臀部を観察するのに夢中でした」

「おい」


無表情でウットリしたように片頬に手を添える美女メイド。メイドとしてどうなんだ。


「メイドとしての教育は飛ばして、今、私はご主人様の前にいます」

「教育係、ちゃんと教育しろよ…」

「一般教養は完璧でございます」

「完璧な一般教養がお尻に釣られてるんだが?」

「…………さて、今からの目的を話したいと思います」


随分と露骨な話の切り替えもあったものだ。

先の話は気になるので追いかけたりはしないが。


「ご主人様、何度も言うようですが。貴方には私達の為にこの世界を破壊してもらいます」

「……質問してもいいか?」

「どうぞ」

「アンタ達…っていうのは、一体何なんだ?」

「情報統制された世界では生きづらい存在。言ってしまえばこの世界に居てはいけない存在です」

「……あー、えっと」

「信じれない……後になりますが私、所謂【電波】は受信しておりません」


その発言自体が【電波】っぽいのだけれど。

信じれないのは確かだ。むしろ何が何かがわからないんだ。


「私達、#%*§§はこの世界に居て、この世界に居てはいけない存在なんです」

「悪い。おそらく種族とかを言ったんだと思うが、わからない」

「……#%*§§?」

「そう、それがわからない」

「そうですか。まぁテキトーに音を出してそれっぽく言っただけですので、ご主人様の言語野に異常も【電波】もございません」

「おい」

「お仕置きですか?お仕置きですね。私の臀部を撫で回して『グヘヘ、イイ尻してんじゃねぇかー』『アーレー』みたいな会話が、今!ここで!」

「繰り広げられると思ってるお前はやっぱり【電波】を受信してると思う」


本当に、どうしてその発想になったのだろうか。話を先に進めて欲しい。


「ではご要望にお応え致しましょう。まず、我ら魔族の歴史ですが」

「ちょっと待て」


魔族?魔族ってあれか?こうファンタジーな小説で出てくる悪魔とかキメラとか。

とにかく現代にいない存在だろ。


「魔族を裸族と間違えましたか?」

「そんなユニークな間違いはしない」

「では簡単に私達魔族についての説明をさせて頂きます」

「…………頼む」

「まず、普通の方には認識さえされません。いじめられっ子もビックリな無視なされようです」

「よし、止まれ」

「何かわからない所でも……あぁ認識されていない理由ですが、」

「そこも非常に気にはなるが、微妙に具体的な喩えは毎回入るのか?というか入れないといけないのか?」

「オチャメでございます」

「いじめっ子もビックリだよ!」


ダメだ。落ち着け、落ち着くんだ僕。

冷静にコイツの話を吟味して、あとは断ればいい。


「一般人に見えないって僕は見えてるぞ、っておい、その『何をいってるんだ?コイツ』みたいな顔を止めろ」

「失礼致しました。何を仰っているのですか駄犬」

「言えって意味じゃないよ!あと駄犬ってなんだよ!」

「我らが王となる雄犬……ご主人様が私達を視認出来ない訳があるのでしょうか?否!ありえません!」

「反語はいいさ。あと雄犬って言うな」


これだけテンションが高くても僕の前の彼女は無表情なのだ。何かがおかしい。何もかもおかしい。

いい加減に話を戻してほしい。


「ではご主人様がこのクソよりも劣る世界を破壊する利点を説明致しましょう」

「えらく世界の評価が落ちてるな」

「ご主人様がこの世界を破壊した暁には、世界の半分をくれてやります」

「お前はどこかのラスボスか?そして世界を破壊した本人に全て寄越せよ、そこは」

「大した独占欲です。私、感服致しました」

「嵌められた!」

「ハメ……ポッ」

「どうしてその反応になった!」

「そんな事、私の口から言わせるつもりですか。成る程、そういった趣味を」

「持ってない!もういい、帰れ、今すぐ帰ってくれ」

「放置プレイですか。いくら私がマゾくを自称していても構われないのは些か辛いものが」

「お前は今すぐ仲間に土下座しろ!マゾくの意味がおかしくなってる!」

「この話が物語や伝記になった暁には【魔族がゲシュタルト崩壊】と言われるように」

「知らんが止めろ!それ以上は止めろ!」


何かいけない物に触れているような気しかしない。

結果的に世界を破壊するはずの僕には一切利点がないのだ。


「利点、私を自由に出来ます」

「は?」

「いつ、いかなるときも、私はご主人様のモノです」


無表情で座る美女メイド。コレが僕の?

少し吊り上がった赤い瞳も、きめ細かそうな白い肌も、まるで金を細く伸ばしたような髪も、服を押し上げる胸も、そしてまだ見ぬスカートの中身も。僕の?

つまり、つまりだ。理想である朝はおはようございますのキスから始まり甘々とした生活が今ここに!


「ご主人様。セクハラでございます」

「お前が僕にした事と比べると普通だよ!人のお尻をムニムニ触りやがって!」

「あれは契約の為に仕方がなくした行動でございます。でなければ、非常に魅力的且つ揉んでいて素晴らしく思う貴方の臀部を揉む事なんて出来ません!」

「本音が駄々漏れだよ!」

「契約なんて実際触れずとも出来ますが、臀部を触りたいが故に私はご主人様に嘘を吐きます」

「最低だなお前!」

「あぁご主人様に叱られてる!」

「お巡りさんコイツです!無表情のクセにこういう時だけ恍惚としてるコイツが変態です!」

「残念ながらご主人様、お巡りさんに私は見られません」

「そういう存在だったね!もうやだ!誰か変わりにツッコんで!」

「ご主人様に……突っ込む!?」

「そこだけに反応しないで!」


ツッコミが間に合わない。というかボケ倒された。何故だろうか、負けた気がする。


「私、この世界にご主人様が産まれた時よりご主人様にゾッコンラヴでございます」

「また古い表現を持ってきたな。何歳だよ」

「数えるのは些か億劫ですが……そうですね、友人の一人に妲妃という女がいます」

「殷の時代まで遡れというのか」

「メールしましょうか?」

「現代的!?」

「まぁ女性に年齢を聴くのは御法度ですよご主人様」

「……アンタの場合ただ忘れてるだけだろ」

「さてでは、ご主人様の記録の一つ、告白されて二日後に調子に乗っていた結果、実は罰ゲームだったと告白される」

「止めろ!そんな事はなかった!なかったんだ!」


記憶の奥底からじわりじわりと這い寄る何かを払拭する。

なぜ知ってるかは知らないが、どうやら僕は調べ尽くされているらしい。


「安心して下さいご主人様。私口が堅い事で有名でございます」

「有名の割に聞かないし見えないけど」

「口がまるで蝶のように軽やかだと有名にございます」

「安心できない!」

「ご主人様の秘密は脅しにしか使いません、ご安心を」

「余計に安心できない!」


安心できる内容なんて一切ここにはなかった。なかったんだ。


「ご主人様」

「次はなんだよ!」

「愛しております」


開いた口が閉じない。というより、たぶん金魚よろしくパクパクしてる。


「真っ赤になって可愛らしゅうございます」

「ちくしょぉ!何故勝ち誇った顔をされてるんだ!」

「あぁ、一介のメイド如きがご主人様に愛の告白だなんて!なんて罪深いのでしょう!どうか、どうか!ご主人様お叱りを」

「しかもそっちが目当てか!」


と、とにかく、一切の利点が見つからない。

さすがに慈善で世界を破壊する気にもなれない。確かに彼女の言う通りクソゲーのような世界だが。


「ご主人様、今貴方様は分岐路に立っています。右には今まで通りの日常が、左には王となるべき道が。

そして、今日が進む道を決める時です」

「そんな事急に言われてもな」

「一生童貞か、私のような美女に優しく奪ってもらう甘々な生活か」

「例え方が最悪だな」

「では、こう言いましょう。処女を散らすか、童貞を奪われるか」

「より最悪になったぞ」

「ちなみに相手は両方とも私でございます」

「止めろ、想像させるな」


思わず溜め息を吐いてしまう。

一度落ち着いて情報を纏める。


「アンタは僕に世界…情報統制されたこの世界を壊してほしい」

「イエス」

「地球を壊す訳じゃない」

「イエス」

「僕の利点は破壊された後の世界とアンタ」

「イエス」

「アンタは、その……僕を」

「愛しております」

「…………」


つまりだ。

僕は僕を愛してくれてる彼女の為に世界を破壊するのだ。どこの勇者だよ。ダークヒーローでも目指すべきか。


「まだ信じれない事もあるんだが」

「我ら魔族の存在ですね」


そう、彼女達魔族と言われる生態を僕は確認していない。

彼女は確認出来るが、いい意味でも悪い意味でも人間らしい彼女が魔族だと言われても、困る。


「では、つまり、私が人間らしからぬ姿ならばよろしいのですね?」

「実はオークとか筋肉をひたすらに盛った存在とかだったらごめん被るけどな」

「ご安心下さい。あのような下劣で世界以下の存在ではありません」


立ち上がり、一歩下がる美女メイド。

そして服がハラリと……って


「何で脱ぐ!」

「ご安心を。ブラジャーは勝負下着を着用してきました」

「オォ、ファンタスティック!とでもいうと思ったか!」

「因みにショーツは穿いておりません」

「穿けよ!」

「失礼致します」


クルリと背中を向ける彼女は手を背中に回し、ホックを外す。

パサリ、と床に落ちるブラジャーを目で追ってからシミ一つない白い背中を見つめる。


「では」


そう彼女が声を出すと、メリメリと耳に聞こえる程の何かが鳴り、数秒後にはバサッという音に変わった。

彼女の背中には白い羽が生えていた。

虫や鳥ではなくどちらかと言えば蝙蝠のソレに近い羽。

そして、スカートの中から白い尻尾。先しか見えないが、おそらく根元は太くなっているのだろう。

よく見ると白いのが皮膚ではなく、鱗がびっしりとついているのがわかる。

数十秒程呆気に取られながらブラジャー……いや、尻尾の観察をしていると彼女がようやく口を開いた。


「口が蝶のように軽やかなドラゴン、それが私でございます」





どうやら僕は彼女の存在を、魔族の存在を認めるしかないらしい。

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