1.私の仕事はこれで終わりです
初めての作品です。
楽しく書けたらいいなと思って執筆しています。
どうぞよろしくお願いいたします。
すっと背筋を伸ばし、深く息を吸う。そのまま両手を体の前で組み、ゆっくりと息を吐きだす。そして正面に座る相手をまっすぐに見つめる。これが言葉を紡ぐ際の所作だ。
「坂村秀夫様。天野弥生様に代わりまして、お預かりしました言葉を伝えさせていただきます」
人の少ない昼下がりの喫茶店。その一つのテーブルに若い女性と年老いた男が向かい合って座っている。
男は黙って、女性が口を開くのを待つ。そして静寂の中、女性が言葉を紡ぎ出した。
【お父さん、黙って出て行ってしまってごめん。私は元気だよ。子どもも無事に生まれたよ。名前は壮馬っていうの。天野壮馬。いい名前でしょ。自由に好きな事をしてほしくて、それでいていつまでも元気で駆け回ってほしい。そう願ってつけた名前。お父さんが私にいつも言ってくれていた言葉をイメージしてつけたんだ。】
女性が淡々と、しかし深く感情の込もった声で語りかけていく。秀夫はずっと黙ったままだ。ただ、少しうつむいた体が小刻みに震えている。
【私が伝えたかった事なんだけど、お父さん。私はわがままばかり言っていたし、苦労ばかりかけた娘だったと思う。喧嘩もいっぱいしたし、結局出て行ってしまったし。お母さんが亡くなってから男手ひとつで私を育ててくれた。ほんとに、全部感謝してもしきれないよ。
最後、赤ちゃんが出来てお父さんと大喧嘩をしたね。出ていけって言われて当然だと思う。裏切ったんだもん。結局そのまま彼と遠くへ行ってしまったんだけど、本当は不安だったよ。彼と新天地で生活すること、お父さんを一人にすること。本当に本当に不安だった。それでもお父さんはずっと私のことを思ってくれてたんだよね。
お父さん、本当にごめん。本当にありがとう。遠くに行ってしまったけど、私のたった一人のお父さんだよ。いつか彼と壮馬を連れて帰っていいかな。会わせたい。これが私のお父さん、おじいちゃんだよって。】
女性は組んだ両手をほどき、すこし姿勢を楽にする。
「以上です。天野弥生様からのお言葉、代弁させていただきました」
「弥生は……弥生は元気だったか?」
「はい。幸せそうでした」
「そうか」
秀夫はそう言い、一筋の涙を頬に伝わせた。
「私の仕事はこれで終わりです。紡いだ言葉があなたの人生を少しでも豊かにすることを願っています。それでは失礼いたします」
そうして女性は喫茶店を出た。秀夫の顔はどこか清々しく、ただその涙は止まることはなかった。
読んでいただきありがとうございます。
続きもどうぞよろしくお願いいたします。
※この作品はカクヨム様でも先行配信しています。




