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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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3-3

 「昨日は心配掛けてしまって、ごめんなさい。もう大丈夫ですから――――」


 「本当……ですか?アリアちゃん、無理してませんか?もしよろしければ――――」


 「ううん、大丈夫だよメアちゃん!ほら、こんなに元気だから!」


 アリアは心配そうな表情で彼女の顔を覗き込むメアに、玲瓏館の廊下の真ん中で元気に飛び跳ねて見せた。


 「アルスティアさん――」


 「あ、メイリさん……えと、昨日はごめんなさい。でも今日は大丈夫ですから!今日はなんでも頼ってくださいね!」


 「そ、そうですか……?それならばよかったです、ですが――」


 「大丈夫ですよ、メイリさん。それにほら、今日はこんなことしてる暇はありませんよ。昨日、今度こそちゃんとメイド服の着方教えてくれるって言ってたじゃないですか」


 「え……私そんな事言ったっけ……」


 「言いましたよ。覚えてないんですか?」


 「そういえば、話す話題に困り過ぎて、そんな事言ったような、言ってないような……」


 「さあさあ、早く行きましょう!メイリさん」


 「え、ええ――」


 「じゃあ、またねメアちゃん」


 「はい……また――」


  最近ではアリアも打ち解けて、こうしてメイリを引っ張っていく姿も見るようにはなっていた。


 「アリアちゃん……」


 しかしメアは去っていく二人の後ろ姿に何か言いようのない不安を感じた。


 「おう、どうしたメア、なんだか今日は浮かない顔だな」


 「エルハルト様……なんだか少し嫌な予感がして……」


 彼女たちの会話を見守っていたエルハルトは、タイミングを見計らって、さも通りがかりですよと言わんばかりに、メアの背中に声を掛けた。


 「ん?アルスティアさんの事か?そういえば昨日体調を崩していたんだっけ……確かに少し無理をしているような気もするが、メイリも付いてるし、まあ大丈夫だろう」


 「そう……なんですが……そういう事じゃなくて……なにか、こう……」


 「ふむ……そうか――――メア、今少し時間あるか?」


 「え……?あ、はい――」


 メアが困惑したような表情で頷くと、エルハルトは唐突に何か知った風に窓際まで歩いて行って、そのまま背中で語り始めた。


 「――――……確かに人との距離というのは掴みずらいものがある。繊細に扱わねば壊れてしまうこともあるかもしれない――」


 「は、はい――」


 「だが、時には一歩踏み出してみることも大切だと僕は思っている……」


 「そう……ですよね……私――」


 どうやら、エルハルトはメアに道を示そうとしているらしかった。

 だが、決心を固めようとするメアにエルハルトは振り向いて、その続く言葉を遮った。


 「メア――――だけどそれは自分自身、自分の心に対しても同じことだと僕は思うんだ……向き合う自分の心に一歩踏み出して、自分を見つめなおして、自分が本当に欲しいものは何か、その為に自分が何をしてきたのか、その心に語り掛けて、耳を澄ます――」


 「自分自身に――」


 「ああ。だけど、それは自分一人の力じゃ難しい。鏡がないと自分の姿は見えないから――」


 「申し訳ございません……私、エルハルト様の言う事が良く……」


 「そうか……なら、気になったことがあれば、積極的に関わってみるといい。積極的に関わって、“会話”をするんだ。相手の言葉に耳を傾けて、自分の思ったことを話す――メア、君の得意な事だ」


 「……?……はい……わかりました……頑張って……みます……」


 「うむ、それでいい……だが、この前言った通り、実際に行動を起こす時は一時停止だぞ。右見て左見て、もう一度右見て、だ」


 「は、はい――」


 「では、今日も頼んだぞ」


 「はい……では失礼いたします――」


 去っていくメアの背中にエルハルトは満足げに頷いた。


 「――――エル……それは従者へのアドバイスとしては少し不親切すぎるんじゃないか?なんか全然わかってなさそう雰囲気だったぞ」


 「うおおお!――――……ってテオか……珍しいな、こんな時間に起きてくるなんて」


 「いや、それはお前のせいだろ――――」


 そして、その満足げな背中に声を掛けたのは、地下室に潜む錬金術師、テオス・プラストスだった。

 

 「ああ、すまない。そうだった――――……だが、お前もまだまだだな。人というものをまるで理解できていない。惑いや不快感や恐れ、暗闇や、その奥に隠された神秘……そういったものが人の探求心を刺激して、あらゆる理を解明していくんだ。ただ、答えを教えるだけでは、人は何も見つけることはできない――」


 「いや、それは全て空想だろ。理を解明できるのは理だけだ。実際に観測できるものだけが理を証明する材料となり、その積み重ねだけが、人が歩むべき道を照らしてくれる。確かにお前の言う通り、それらの要素は真理を追究するための重要な道具にはなり得るが、それだけでは理を解明する手がかりにはならない。まあ従者を哲学者にでもしたいのなら別だが、やはりそれだけでは不十分だ。確かにそれら形而上の存在はこの世界の一側面であると推測されているが、未だ人類はそれらについて空想以上の観測手段を――」


 「だあああ、ロジハラはやめろーー!僕は信じてるんだよ!応援してるんだよ!それっぽいこと言って、かっこつけたんだから、なんとなくで流してくれよ!」


 「いや……体が(理論を使った)闘争を求めているのかと思ってな……」


 「そんな訳ないだろ!そんな長ったらしい文章誰が読むんだよ!ただでさえ紙と違って、画面がちかちかして目が疲れるんだ。せめて改行くらいはしてくれ!」


 「ああ……なんか……すまない……」


 「わかればいいんだよ、わかれば――っていうか、そんなことはどうでもいい!昨日の件、あれどうだった?」


 エルハルトは昨夜、その昨晩中に起こったある些細な出来事について、テオに調査の依頼をしていた。


 「ああ、それほど大事でもない。あれは、ただの探知魔法だ。動物に扮した探知魔法で、遠距離かつ、広範囲を探索する時――特に人探しになんかに良く使われていた。今回のは鳥型だな」


 「魔法を使って人探しか……古風だな」


 「ああ、特に鳥型ともなると、探索する範囲にもよるが、魔力負担が大きく使い勝手が悪い。魔法が廃れつつある現代で、そんな事をする奴はネームドか、もしくはそれに匹敵するほど気が長い奴だけだろうな」


 「ふむ……なるほどな……――――助かったよテオ……」


 (……思ったより彼女たちに残されている時間は少ないのかもな――)


 エルハルトはテオの報告にそう心の中で独り言ちて、思案するように指先であごの先を撫でた。


 「ああ、時にテオ、君はしっかりと食事はとっているか?昨晩の礼に、一緒に朝飯でも食っていかないか?今日の朝は少しだけ余裕があるんだ――――おい、待て、安心しろ。途中で眠りこけても、そこら辺のベッドに運んでやるから……じいやが……」


 こうして、エルハルトの“テオに健康的な食事と睡眠を取らせよう作戦”は成功した。だけど浮かれてばかりもいられない。あの古風な探知魔法はアリアの部屋の前で消失した。つまりは小鳥に扮した従者は、その部屋の前で自らの使命を全うしたということだ。


 (僕が何とかするべきだろうけど……でも今回はなあ……)


 だがエルハルトは今回は直接手を出さないことを予め決めていた。もちろん、それに伴うリスクは承知していたが、それ以上に、今回はメイリとメアにとって、大きな転換点となるような予感がエルハルトの中にはあった。その為に彼はしばらく静観の構えを取るのが最適だと考えていた。


 (うーん……でも、そうも言ってられなさそうなんだよなあ……なんかいい感じに解決できそうな方法は――)


 すると、思案するエルハルトの頭の中にとある一つの単語がおぼろげに浮かんできた。


 (まあ、思い付きだが、悪くはなさそうだ)


 「なあ、テオ、ここで一つ頼みがあるんだが――」


 「んあ?まあ、いいが、次からはこんなこすい手は使うなよ。食事くらいは自分でとれる――」


 各種サプリメントで栄養素を補って来たテオが、久々の固形物に噛り付きながら答えた。


 (はあ、僕もこんな事ばっかやってると、きっといつかミーシャにどやされるな……)


 正直なところもう手遅れだったが、彼にとっても優先順位は絶対である。たとえミーシャからどれほどどやされようと、玲瓏館当主としてやるべきことはやらなくてはいけない。


 (これまでサボって来た分な――)


 自前で用意したコーヒーとともに、メイリが淹れてくれた紅茶も飲み干す。味は完璧。後はタイミングだけだ。


 「――まあ、別にそれぐらいはいいが、本当に大丈夫か?それ……」


 「心配するな、僕を誰だと思ってるんだ」


 「いや、お前だからこそ、心配なんだよ」

 

 ……先に断っておくが、従者の間の悪さは、主由来であることを皆様にここでお伝えしておく。



 ――――――――


 ――――


 ――…………


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