文通
馬車の事故(外聞が悪いから、と、父が落下ではなく事故ということにした)の話を聞いたフェリクス様が、直ぐにお見舞いの連絡をくれた。
だけど怪我の痛みと発熱でとてもお会い出来る状態ではなかった為、泣く泣くお断りした。
すると翌日、小さな花束が届いた。大好きな色、黄色を
基調とした花束。
「うわぁ!可愛い〜〜!良い香り〜〜!」
「本当に素敵な花束ですね」
そう答えた侍女のリラは、2歳上の19歳。姉のような友人のような、私にとって大事な存在である彼女に花束を渡すと「生けてきますね」と言って部屋を出た。
まだベッドから動けないため、花を通して外の空気を感じられるのは凄く嬉しい。しかもビタミンカラーで、気分がとっても明るくなる。
(推しから花束が貰える世界……! 最高か。婚約者バンザイ!)
近い将来、正式に婚約破棄される身だけど、それまでは推しの婚約者という立場を存分に味わい尽くそう。せっかく転生したんだしそれくらい良いよね?
フェリクス様からお見舞いの連絡があった時、身体の震えが止まらなくなって驚いた。前世の記憶があるとはいえこの身体はシーナだ。〝フェリクス様限定あがり症〟の症状が出てしまったのだ。
〝お見舞いに来る〟そう思っただけで震えてしまう程の厄介な症状。
克服するにはどうすればいいか考えてみたけれど、アレルギーの減感作療法しか思いつかなかった。ちょっとずつ慣らしていく的な。
でもそれにはフェリクス様の協力が必要になる。そんな迷惑かけられないし、どうしたものか。
婚約破棄は決定事項としても、せめて学友としてお話出来るくらいにはなりたい。卒業すれば会う機会もそうないだろうし、思い出をたくさん作りたい。
それにもしこれが夢だったら、目覚めた時に後悔するのは絶対に嫌。
部屋に戻ってきたリラに、婚約破棄のことは伏せてそれとなく相談してみると「それでしたら、手紙のやり取りをされてはどうでしょう?」と。
そうだ! 直接会うと震えてしまうなら、先ずは手紙のやり取りだ! 前世でも、携帯がない時代の恋人の連絡手段は手紙や交換日記だったじゃないか。
早速お気に入りの便箋に、お見舞いを断ったことのお詫びと花束のお礼を綴っていく。つい癖で前世でよく使っていた絵文字も描いてしまった。
まあ、この世界でも手紙に絵を描くことがマナー違反って訳ではないし、別にいいよね。
ウザイとか面倒臭いとか思われたらどうしようってドキドキしたけど、勇気を出して〝お返事待っております〟って書いて良かった。フェリクス様はちゃんと返事をくれた。しかも休みの間ずっと付き合ってくれた。
(推しが優しい尊い……!)
フェリクス様からの手紙を手にした瞬間、あまりに嬉しすぎて匂いを嗅ごうとしたらリラに止められた。
あの時のリラのもの凄いドン引きした顔は、一生忘れられないと思う。
手紙には、読んだ本の感想や我が家で起こったちょっとしたニュース、天気の話や星の話など、何か一つでも刺さるといいなと思って色んな事を書いた。だからいつも文字がびっしりになってしまった。
綺麗な字で書かれたフェリクス様の手紙。私の宝物コレクションがまた増えた。ずっと大切に残しておこう。