↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

フェリクスside

 それを聞いたのは、シーナ・トランメル侯爵令嬢との婚約破棄の件を話す為に父の書斎を訪れた時だった。


「シーナ嬢が馬車で事故に遭って大怪我をしたそうだ」


 は? 事故?


「大怪我、とは」


「命に別状はないんだが、脚を骨折したらしい。暫く動けないそうだ。それに少々打ち所も悪かったらしくてな……」


 婚約破棄を持ち掛けたとはいえ、付き合いも長く事故に遭ったと聞けば心配になる。打ち所が悪かったというのは気になるが、命に別状はないと聞いてひとまずホッとした。


「見舞いに行くんだろう?」


「ええ、そのつもりですが……」


 どうせ断られるだろう。


 父もそれが分かっているから、苦笑を浮かべている。


 風邪で熱を出した時など見舞いを申し出ているが、受け入れられた事がない。断られ、せめてもの花を贈り、お礼状が届くのが流れになっている。今回もきっとそうなるんだろう。


(随分と嫌われたものだな……)


 お茶に誘えば目も合わせず俯いたまま過ごし、会話の返事は消え入りそうな声で〝はい〟か〝いいえ〟と言うだけ。とにかく会話が続かない。喜んでもらえるように選んだ菓子の感想もない。

 庭の散歩の際、手を差し出してもその手を取る事もなく、誕生日や節目節目に贈ったものを使用している所も見た事がない。


 父とトランメル侯爵は学園時代からの親友であり、夢はお互いの子供同士を結婚させること。そんな理由で決められた婚約だ。シーナは納得していないのだろう。ああいった態度をとるのも理解できる。


 理解はできるが、許せるかと聞かれたら答えはノーだ。


 貴族なら親が決めた相手との結婚は当たり前であり、生まれる前から婚約相手が決まっているなんてのもざらだ。だからこそ、シーナの態度は酷く、ただの我が儘にしか見えない。怒りを通り越して呆れてしまう。


 何をしても反応のない、自分を嫌っている相手への歩み寄りはもう限界だった。


(それにしても事故とは、婚約破棄の話をするにはタイミングが悪いな。別に急ぐ件でもないし、少し時間を置くか)








 あれから1週間。


 やはり見舞いは断られ、予想した通りの流れになった。


 しかし驚いたのは、速達で届いたお礼状に見舞いを断ることへの詫びと、花の感謝と感想が、ものすごく高いテンションで書かれていたことだ。所々に変なマークまで描かれている。


(コレは何だ??)


 字は確かにシーナのものなのに、口調も雰囲気もまるで違う。2枚にびっしり書かれた手紙の最後には〝お忙しいとは思いますが、出来たらお返事待っております〟とある。


 は? 返事?


 返事を求められたのは初めてだ。そもそもシーナに手紙を書いたことはない。メッセージカードに一言書くのが精精だ。


(怪我で動けず、暇なのか??)


 わけがわからず戸惑いながら書いた返事は、シーナの半分にも及ばない文字数だった。彼女は手紙だと饒舌になるらしい。


 知らなかった。


 手紙を送れば再び返事を求められ、学園再開までの1ヶ月半の間、週に1度のペースで手紙のやり取りが続いた。描かれた変なマークは彼女の心情を現した顔の絵らしい。なるほど。喜怒哀楽色んな表情の絵があってなかなか興味深い。


(シーナはこんなにも感情豊かだったんだな) 


 手紙のやり取りをする中で彼女の知らなかった面をいくつも知った。シーナに対する印象が変わり、今までの態度は何か事情があったのでは? と思い始めている。学園で直接会える日が楽しみな程だ。


(俺はこんなに単純な男だったんだな)


 手紙でのシーナは面白く、感情豊かで明るい。話題も豊富で賢さが窺える。


(俺が知らない彼女の内面がまだ有るかもしれない。婚約破棄は慎重に判断した方が良さそうだ)


 こうして婚約破棄の手続きは1ミリたりとも進まなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。