明日に向けて
「沖田先輩〜、良いんですか?このままじゃ、柳瀬刃の息子こと、柳瀬凌駕に殺されちゃいますよ?僕らが出て消しましょうか?」
「……失せろ!!お前らattributeの力なんか必要ねえ!!!頼りたくもないんだよクソガキが!!」
「おー、こわ…。相当気が荒れてますね〜。それは自分の飼い犬が全員余計なことをしたからですか?それとも、これから始まる最悪の事態を次の世代に託さずに自分自身でケリをつけたいからですか?この都市の闇に。」
「ペラペラとガキが喋ってんじゃねえぞ。無敵だろうが何だろうがぶっ殺すぞ!」
「人格破綻者じゃないんですから、いつものように綺麗な言葉を使いましょうよ。僕は、貴方の敵じゃないんですから。」
「お前らは敵だよ。俺から全てを奪い去った最悪の敵だ。だから、てめえらをさっさと殺して詠の仇を打たないとならない。」
「まだそんな復讐をしようとしているんですか?そんなことしても何も残りませんよ?」
「俺が望むのはお前らの死だ。武術都市の消滅だ!坂上駿よ、お前は何を望む?」
「僕ですか?僕が欲しいものはーー」
ーー
「今日はここで終わりにしよう。歩美。」
「えー、凌駕を家から呼んできたのに立ったの三時間だけ〜?」
「歩美。もう朝の六時だ。一時間だけでも寝かせてくれ……」
「えっ!もうそんな時間!?試合開始時間は九時だから私が寝れる時間は……たったの一時間しかない!!ヤバイよ凌駕!」
「知ってるよ…。今から家に戻るのは面倒だから、ここで寝かせてもらうよ。ふぁぁ」
「うん。私は自室に戻るよ。またね!」
無双と別れてから数十分後に元気な表情の歩美に稽古場へ強引に連れてかれた凌駕は三時間の稽古を終えて眠りについた。
自分が起きる時間まで立ったの一時間しかないことも頭に入れておきながら。
沖田の言った一言が頭によぎる。
「「「嗚呼。近くも遠くもないうちに大きな事件が起こるだろう。
そうなっても、君は強さを保っていられるか。恐らく、それは否だろうさ。だから、今のうちは、俺達が卒業するまで大きなコトは起こさない方がいいよ。例えば、この俺に勝って剣城学園最強の座を奪ってしまうとかね…?」」」
あれはどういう意味だったのか。これから先に起こる大きな事件とはなんなのか。
それが起こらないためには沖田を倒さないことが前提。
必死に考えたが今は眠ることが第一優先だ。彼は瞼を下ろした。
ーー
「結局、分からないな。どんなに考えても、沖田さんの言っている言葉の意味が…。さて、そろそろ起床時間だ。部外者の俺がこんなところで寝ていたら寮長に怒られるだろうし……さっさと出よう。」
俺は稽古場を出て、寮の出口へ向かった。
が、その途中、聞き覚えのある声に話しかけられ、視線を声のした方へ向ける。
「やあ。凌駕、朝から鍛錬かい?」
「ああ、慈水か。いや、夜の稽古が終わってからそこで少し仮眠をな。寮長に怒られるのも面倒だし、さっさと家に帰ろうとしているところだよ」
「そうか。それは引き留めてしまって済まないことをしたな。お互い、武闘演戯優勝出来るように頑張ろう!」
「おう!慈水、負けんなよ!」
「凌駕もな。」
凌駕と会ったのは、弓道部門で学年トップを誇る最強の弓使い、天獄慈水。
彼は精密機械とも呼ばれる最強の一手で敵を必ず仕留める力を持つことで有名な青年だ。
彼らは会ってから数分後に別れ、凌駕は寮を後にした。
ーー
「二本先取により、柳瀬凌駕の勝利とする!」
大きな歓声の中、凌駕は達成した勝利に喜ぶことなく、隣の会場へ視線を向けた。
沖田と二学年2位の剣士が戦っているようだ。それはまるで鬼の業。
沖田の剣戟は、相手の青年の防壁をいとも容易く打ち破り、鋭い眼光は青年を恐怖へと陥れる。噂に聞いていた業とは違い、今の沖田には何処かとんでもない狂気が満ち溢れているように見えた。
「ーーが!!凌駕ー!!凌駕!!!ねえ!!」
「……ん?」
「ん?じゃないわよ!試合を見るなら観客席に移動しなさいよ!今から私の試合が始まるんだからね!!」
隣の試合を惚けながら見ていると、聞き覚えのある声が聞こえ、俺は我に返った。
「あっ、そうか。俺の試合の次が歩美の試合だったな!頑張れよ!」
「言われなくたって頑張るわよ!!ココで勝てば次は凌駕との直接対決なんだから!」
歩美は上機嫌だ。この調子なら次の試合は楽勝だろう。彼女はテンションが高まることで強さを身に付けることができるタイプだからである。
俺は観客席に向かう途中、瑞貴に出会うと、二人で話しながら目的地へ向かった。
ーーその日の夜。
歩美の部屋にて、明日の凌駕vs歩美の試合が決定したことのお祝い会が始まっていた。メンバーはいつも通りの瑞貴、歩美、俺だ。
「歩美ちゃんと凌駕、おめでとーっ!明日は二人の試合だね!!」
瑞貴が祝いの声を上げた。普段からあまり大きい声を出さない彼だが、自分自身も上に上がれたことが嬉しいのだろう。
いつもの声の何倍かの音量を出した。
「だな。。。明日は、歩美に勝った後、沖田さんを倒さないといけないから凄く大変だ…。」
「はぁ?私は負けないわよ!」
「望むところだ!俺も負けねえ!」
そんな彼らを見つめ、笑っている瑞貴は明日の試合の覚悟を決めた。兄に勝つこと。
それが最優先事項なのだと。
「明日は色々と大変だ!俺は家に帰って明日の支度をするよ。んじゃ、またな。おやすみ」
瑞貴と歩美は同じ寮に住んでいるので室内で行き来することが可能だが、凌駕は別だ。
彼は盛り上がっていた空気に終わりを告げると、歩美の部屋から出て行った。
明日の武闘演戯後半戦。
そこで全ての運命を背負わされることになろうとも知らずに。。。
順々に更新するのはなかなか難しいのでマイペースに書いてます!いつもお付き合いありがとうございます!