不穏な殺戮
ーー次の日。
「剣城学園、武闘演戯二日目の第1試合を開始いたします。参加選手は準備に入ってください。」
会場内にアナウンスが流れ、参加選手が準備に取り掛かる。
本日第1試合のシード権を得ている、瑞貴と凌駕の二人はそれぞれのコートに並んでいる。応援席からは歩美からの熱演的な応援が聞こえ、やる気とモチベが上がっていく。
「凌駕ったら、昨日から浮かない顔してんのよね〜…。なんか気分が乗らないけど、応援応援!!瑞貴ー!凌駕ー!頑張れー!!!」
「歩美は昔っから声がデカいんだよ。ったく……昨日の沖田さんの話、、、ずっと考えてっけど全然分からねえ……。とにかく、あの人をこの戦場でぶった斬らないといけねーのは十分にわかった。なら、この初戦は意地でも負けられない!」
凌駕は瑞貴にエールを送り、自分の持ち場につくと、対戦相手と顔を合わした。
目の前に見えるは、黒づくめの男。
「沖田の命令だ。確実にここで潰しとかなきゃいけないね〜。俺が殺されちまうよ」
「なんだよ、俺は別に沖田先輩に対して何もしてねーのにあっちは敵対してんのか。めんどくセーことになったもんだな」
「余裕綽々としてられるのも今のうちだぞ!お前はこの三学年剣術第5位の「黒剣士」が相手をしてやる!」
「へえ…やってみなよ」
二人がいがみ合う中、試合開始の合図は刻々と迫り始めている。
全神経を敵の全てに尖らせ、試合開始を待つ凌駕と、独特の剣の構えで鋭利な眼光を凍て付かせている黒剣士は合図の音が鳴った瞬間にその場から消えた。
「こりゃあ、沖田が恐れちまうわけだな〜。こんなに反応速度が早くて剣の腕前はピカイチなら、本当に負けちまう可能性が出てくるわけだ!」
開始早々、黒剣士は身体能力上昇スキルの一時的に速度が上昇した状態で凌駕へ斬りかかった。ーーが、それはスルリと回避されてしまい、凌駕の追撃に急いで応じた。
「先輩、すいません。俺、こんなところでつまづいてるわけにはいかねーんで、さっさと倒しますね…!」
ーーと、凌駕の言葉が彼に届くか否か、一瞬で彼を守る防壁が音を立てて割れた。
何をされたか、一向に分からないままだけに驚愕な表情。
「………え?」
「先輩、もう一度先取で俺の勝ちですね。三学年の黒剣士も大したことはないって解釈しても良いんですか?」
「ガキがしゃしゃるな!!今のはマグレだ!次から本気で行ってやる!覚悟しろよ。」
「はい。お願いします」
凌駕の鋭い眼光は黒剣士の姿を捉えた。剣を強く握りしめ、刻々と迫る開始の時間を待っている。
その集中力は、凌駕の目の前で今動くものがあれば何でも真っ二つに斬ることの出来る程だ。
「このクソガキ……認めたくはないが、沖田と初めて戦った時と似てやがる…。あいつはそこまで県に対する熱き情熱は持ってなかったが……どうやらこいつは違うようだ…。この試合…負けが決定したようなもんか……」
黒剣士の考えは、試合開始の鐘の音が鳴り響き、自分の防壁が断ち切られた瞬間。つまり、彼の負けが確定した瞬間だった。
ーー
「チッ…使えねえな。勝てないことがわかったなら柳瀬凌駕の足の骨でも何でも折ることくらいは出来ただろうに…。使えないゴミは処分だ。」
「まっ…待ってくれ!!確かに貴方の命令には従えなかったが、あいつはそういう力を持ってるんだ!俺を見逃してくれ!頼む!」
別室にて、試合が終わった後の黒剣士は沖田の足元に跪き、彼を神のように崇め、懇願していた。沖田は、そんな彼の哀れな懇願さえも、鼻で笑って踏みつける。
「チッ…ゴミの頭を踏んでしまったせいで靴が汚れた…。そんなに殺されたくないなら俺の靴でも舐めてろ。ゴミ!!」
「………」
黒剣士は言葉を発さず、沖田の靴を舐め始めた。その姿を滑稽かと大笑いをする沖田に耐えきれなくなったのか、黒剣士は再び立ち上がった。
「なんだ?靴の掃除は終わってないぞ?」
「沖田、お前は柳瀬凌駕に負ける。この武闘演戯で絶対に敗北する。そして、哀れな塵となったお前は哀しみを抱えたまま、この学園を卒業す………」
「は?ゴミが何言っちゃってんの?良いからお前は黙って俺の靴でも何でも舐めてればよかったのに……俺は仲間は斬りたくないんだよ。でもね……1度斬ってしまえばお前なんか本当にただの肉片に過ぎないんだよ!!」
怒りに任せた一撃は、黒剣士を周囲の空気ごと綺麗に絶ち斬り捨てた。
「チッ……。俺が負ける?この俺が…?戦神の血を継ぐこの俺様が負けるわけがない。柳瀬凌駕。決勝戦、生きては返さない!!」
彼に宿る憎悪は力を大きく育て上げる。当然のように。凄まじい速度で。
ーー
「柳瀬凌駕だな。俺は業力無双という者だ。ちょっと来てもらえないか?」
「あ…はい。」
剣城学園の大半が使うと言われている学生寮から遠く離れた小さなアパートに住んでいる凌駕は、突然の来客に思わず息を呑んだ。
二人はアパートの裏の空き地に移動した。夜中の二時を過ぎている現在の空き地は暗がりから何かが襲って来そうなおぞましさがある。そんな中、凌駕は話を切り出す。
「それで……学園最強槌師さんが何のようですか?」
「ほう。俺のことは流石に知っているか。」
「一応、この学園の最強と呼ばれる方々のお顔とお名前は頭の中に入れてありますから」
「ふむ。良い心がけよ。おおっと、こんな与太話をしている場合ではなかったな。本題に移ろう」
「………はい」
「柳瀬凌駕。明日の武闘演戯決勝戦を不戦勝で辞退しろ!!」
「……?え?」
凌駕には無双の言葉が理解出来なかった。自分の学年で剣術最強と呼ばれる男の実力を知ってのことなのだろう。
それは理解出来ても、武術を志す身としては相手がどんなに強敵でも好敵手と捉えて立ち向かう。自分の信念に向かうものがあれば自分の得意分野でねじ伏せるのが道理なのに。
なのに。無双は大切な心を失っている。
過去最強の武術者を生み出し、世界平和のために力を酷使する武術都市という世界の中でどんなに現実がねじ曲がっていようと関係ない。この男には自分の信念がないのだろうか?そんなことさえ考え始めた。
「お前が強いことは十分に理解している。だがな、あの鬼には勝てない。」
「沖田さんのことですか。」
「そうだ。一年の時からあいつを見て来たが…あいつを止められるやつも倒せるやつも一度も見たことがないんだ。だから、やめとけ…お前に勝ち目はない。」
無双の一言一言を聞くたびに無性に腹が立ってきた。強さとは何だ?己の強さは信念の強さじゃないのか?力が全てではない。
凌駕の心に言葉が紡がれた時、彼の瞳は無双の腹部を鋭く貫いた。
「業力さん、俺は逃げません。それに夢でもあるんです。最強の剣士と剣を交えて、俺が勝利を収めるということが!」
「そうか…。お前もあいつと同じタイプだな…。俺には止められない、止める資格がないのかもしれない」
無双はそれだけ言うと去っていった。
何だったのだろうか。そんな疑問が浮かび上がり、無双が司会から消え去った頃。
ーー
「……ねえ?さっきのは何?」
無双の背筋が凍りつき、呼吸が困難になった気がした。肺が窮屈にも逃げろと叫んでいる。
「まさか、見ていたのか!?」
「俺の質問に答えろよ。俺の質問を質問で返すなんて、いつからそんなに偉くなったんだ?無双くーん?」
無意識にも命を握られている感触、かつて味わったことのある哀しき悲劇が彼を襲っている。
「すいませ……」
「謝るくらいなら最初からやらなければよかったんじゃない?短かった人生に悔やみを告げなよ。俺はお前の人生に終わりを告げてやるからさ〜」
「まっ…待て!!やめろ!!!」
「言葉遣いまで忘れちゃったの?待ってください。やめてください。だよな???」
沖田の鋭利なエモノが無双の腕を斬り離した。音を立てて噴出する血液と地面に落ちた腕がピクピクと恐怖を物語る。
「ご…ごめんなさ…」
「はい、噛んだからやり直しー」
2本目の腕を切り捨てられ、次も次も次も理不尽な問いかけに最後まで答えきることはできずに無双は絶死した。
この瞬間から、いや、これが起こる前から沖田は完全に狂っていた。
その狂いはどう転ぶのか、まだ誰も知らない。
更新遅れました。楽しんでいただければ幸いです。




