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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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ガイアルとの決着

「うわああああぁ! ロックさん! ロックさん!」


「狼狽えるな!」


 背中まで突き抜けた岩槍の尖鋭部を目にし、零は思わず悲鳴を上げるが、それを制すようにロックが吠えた。


「ぐっ、俺は大丈夫だ。しっかり、急所は外してある……」


 そういって振り返りニヤリと口角を吊り上げる。

 息は荒くなっているし額に玉のような汗も浮かび上がっているが、命に別状はないことは確かなようだ。


「あっきれた~。そんな貫かれてなんでいきてんのさ?」


「……いや、死んで欲しかったのかよ」


「そ、それより早く抜かないと!」


 この状況でも軽口を叩くロイエをよそに、零はロックに駆け寄りその岩に手をかけた。


「あ、駄目だよトイちん。今抜いたら逆に出血多量で死んじゃうし」


 え? と一瞬目を丸くさせるが、そういえば確かそんな事を何かでみた気もする零である。


「そのとおりだな。今は槍で出血は抑えてる。まぁソーマで抜いた瞬間傷口を無理やり圧迫してもいいが、今はそんな暇はないしな、それに……」


 ロックが首を巡らせた先には――今も勇敢に戦うジェンの姿があった。

 零も改めてその強さに舌を巻く思いである。

 何せさっきのあの全方位攻撃も、ジェンは空中で身を翻し、回転し、宙を蹴り、見事に回避して見せていた。


 だが、それでもこのゴーレムを倒すのは簡単ではないのだろう。

 相手の攻撃の隙を突いて強化した剣戟を叩き込み続けるジェンではあるが、なかなかその牙城を崩し切れないでいる。


「俺もこうしちゃいられないな……」


 腹部から背中まで岩槍に穿たれた状態にも関わらず、ロックはジェンの援護に向かおうとするが、当然零はそれを止めた。


「ロックさん! そんな身体じゃ無茶です!」

「だが、無茶でもあいつは倒さねぇと」

「だったら僕がいきます!」


 え? とロックとロイエが目を丸くさせる。


「いや、しかし……」

「大丈夫です! 僕だってロックさんに色々教わったんだ! それに……僕に考えがあります!」

「考え……?」


 戸惑うような視線を向けつつ言葉を発すロックだが、そこにロイエが口を挟み。


「……だったらトイちんに任せてみようよ。それにその身体じゃいったって足手まといだよ役ただずだよ。邪魔だから引っ込んでろってジェンたんに嫌われるよ?」


 むぐぅ! とロックも喉を詰まらせるが。


「ちっ……仕方ねぇ。だが無茶はするなよ。とくにさっきのあれには注意だ。どうやらみたところ連発は出来ないようだが、またどこかで使ってくる可能性がある」


 あれとはロックの身体を貫いたあの全方位攻撃だろ。

 だが、確かにあれからまだ使ってくる様子がない。

 ジェン相手には岩を落としたり、単発で岩の槍を飛ばしたりしてるが、逆にそのぐらいしか出来ていないあたり相当ソーマを使う代物な可能性が高い。


 そもそも、あのゴーレムを維持するだけでも、神のソーマとはいえ、普通であればかなり己のソーマを消費する筈だ。

 

「うん判った! じゃあロックさんもロイエさんも気をつけて」

「馬鹿! それはこっちの台詞だ!」

「まぁ私も見てるからこっちは心配しなくて大丈夫だよ~」


 その返事を背中に受けつつ、一つ頷くと零は今も戦いを演じるジェンへ向け急いで駆け寄る。


「お姉ちゃん! 僕も手伝うよ!」

「え? ちょ! トイ! ダメよ危険なんだから!」

「大丈夫! 僕を信じてよお姉ちゃん! それに僕には考えがある! だからお願い!」


 零の真剣な訴えを目にし――ジェンの目つきが変わった。

 弟ではなく、男としてトイを見始めたのだ。


「……わかったわトイ。それで考えというのは?」


「うん! お姉ちゃんにお願いなんだけど、そのゴーレムのどこか一箇所でいいんだ、深めの傷をつけて欲しい! で、出来る、かな?」


「……出来るに決まってるでしょ! トイにそこまで言われたら!」


 きりりと眉を引き締め、ジェンがゴーレムに突っかかった。

 それを認め、零も詠唱を始める。


「聖なるミコノフの名のもとに我は風神ジェードの力を行使する――」


 零が詠唱をする間、ジェンはゴーレムの攻撃を掻い潜りつつ、何かを狙っている。

 その巨腕で振るわれる岩の拳を横に飛び躱し、身体から撃たれる岩石を大剣で両断し、岩の槍は軌道を読んでギリギリで身を低めながら前進し距離を詰めた。


 そして――構える。剣先をゴーレムに向け、左手を刃に添え右手首を限界まで捻じり、そして焦点を絞り一点を見据え――


「ハッ!」


 裂帛の気合と同時に、後ろに置いていた右脚に力を込め、土塊を巻き上げながら瞬きをするぐらいの瞬刻に、その距離を一気に詰める飛び込み。

 

 ゴーレムの腰よりも少し上、ジェンは彼我の距離が残り半身分にまで迫ったその瞬間、大きく腰を捻り錬の強によりソーマを鋒一点に集中させ、手首を捻り回転を加えた刃で、その生きた要塞に一撃を叩き込んだ。


 面ではなく点に凝縮させたその刺突は、堅牢なる岩壁を穿ち、ぎゅるる、という回転音を刻みながら、見事に大剣の刃が収まるほどの穴をあけるに成功する。


 大きさでいったら、拳より一回りほど大きいぐらいだ。

 ただ、本来ゴーレム相手にこの程度の事は意味を成さない。

 痛みを感じないゴーレムだ。倒すならば全てを破壊するぐらいの攻撃でなければその牙城は崩せない。


 しかし――


「静かなる風の音は我が手を持って動と化し暴風と成りて集まりもうてその力をもって一切を滅す――」


 ここでようやく零の詠唱は終わった。これまでとは違う、強力な風のソーマは、詠唱にもそれなりの時間はかかる。


 だが、それゆえにその表情には自信が漲り――察したジェンが、その道を空けつつ、ゴーレムを挑発するように剣を振るった。


 だがゴーレムはそこでまた全身にあの刺を生やし始めた。

 

「まずい! あの攻撃がくるぞ!」


 ロックの忠告の叫び。どうやら相手もソーマが溜まったようだ。

 しかも今度のは、さっきよりも更に本数が多い。 

 確実に決めにかかっている。

 だが、それでも零は、怯むことなく――地面を蹴った。


 姉であるジェンが零を信じ残してくれた歪み。

 それ目掛け、更に風のソーマを練り上げ。


「トイ! 駄目だよ! 間に合わ――」


 しかしその言葉を遮るように、俺を信じて、と視線を投げかけ、そしてゴーレムの槍が今正に放たれる直前――


「はぁあああぁあああぁ!」


 零はそれを、練り上げたソーマを、ゴーレムのその一点に注ぎ込んだ。


 その瞬間、轟々という風の音が、ゴーレムの内側(・・)から鳴り響く。

 その槍は準備体制から射出されることはなく――代わりにその要塞に、中から亀裂が生じ、外側に突き抜け、突風が一気にその身体から溢れでた。


 そう、零は外側から挫くのではなく、内側に強力な嵐を発生させ、その風力を持って生きる要塞を瓦解させていったのだ。


 暴風はゴーレムの身体を石礫に変え、螺旋状に回転しながら、天井へと突き抜ける。

 風と地盤がぶつかり合い、洞窟全体を激しい揺れが襲う。


 そして、ついにゴーレムを形成していた岩々は、完全に崩壊し、内側に隠れていた大地のガイアルをも投げ出して、その身は天井に叩きつけられ、そして床へと落下した。


 激しい暴風も全てが集結したと同時に収束し、完全に風がやんだのを見計らって、零はガイアルに身体を向けた。


 彼はぴくりとも動くことはなかった。

 零はとりあえず起き上がる様子がないことには安堵した。

 すると――


「やった……やったよトイーー! きゃーーーーすご~~いぃいぃいいい!」


 横からジェンが飛びついてきて、見事零ごと地面をゴロゴロと転がった。

 さっきの真剣な顔はどこへやら、瞬時に零を愛でるいつもの姉に変化していた。


「全く……トイお前はすごいやつだな」

「私もびっくりだよ~なんか色んなところが疼きそうな程に興奮しちゃった」


「あんたいきなり何馬鹿なことをいってるのよ!」


 零に抱きついたまま、首だけで近づいてきたロイエを振り返り、吠えるように言うジェンだが、彼女も人のことを言えるような状態ではない。


「お、お姉ちゃん苦しいよ……」

「ジェン。トイもそういってるし、それにあれだけのソーマを使ったならそうとう疲れてるだろ――


 ロックから、その辺にしておけと言わんばかりの言葉。

 勿論零自身が本当に苦しいわけではなく、ここは流石に離れてもらったほうがいいと思っての台詞だったわけだが。


 そして、そ、そうね、とジェンが退いたところで立ち上がり、改めて零はガイアルへと身体を向けた。


「……どうなったの、かな――」


 零の呟きに応えるようにロイエがうつ伏せになったまま動かない彼の下へ移動し、そしてガイアルの息を確認し――首を横に振った。


 それは彼の命が尽きたことを表し、完全な勝利を意味してもいたが――零はどこかすっきりしない思いであった……

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