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魂戟のソーマ~異世界憑依譚~  作者: 空地 大乃
第三章 レンジャーへの道編
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ガイアルの記憶

 その死を確認した後、戦いを演じた四人は物言わぬ骸と化したガイアルに黙祷を捧げた。

 この事を先に行ったのは零であった。

そしてジェンやロック、ロイエもそれに倣って黙祷を捧げてくれた。


 その様子に零はこの間にと、ガイアルの前で膝をつき身体を固定させたまま魂体となり、急いでガイアルの身体に憑依した。

 その瞬間、彼の記憶と知識が魂に浸透し、そして刻み込まれていく。

 そしてそれらが魂に定着した事を認めると、零はすぐに身体を離れ、再び元のトイの中に魂を滑りこませた。

 そしてゆっくりと瞼を開き、首を巡らせ皆をみやる。


「トイ……大丈夫か?」


 そこでロックからの質問。これに零は驚きを示し、え? だ、大丈夫って? と少々間の抜けた声で返す。


「いや……こういった形で人の死を目の当たりにして、その、なんだ――」

 

 そういうことか、と密かに零は胸を撫で下ろす。


「そうよトイ。無理しないでね? お姉ちゃんの胸でよかったらいくらでも――」


「あ~だったら私は夜の相手を、ぐぇっ」


 ロイエの言葉がジェンの握力で握りつぶされた。

 その様子に微笑みを浮かべ、大丈夫、と一言述べて立ち上がる。


「でも……こんな形にはなったけど、このガイアルさんも元々はこの事件を解決しようと動いてくれていたんだよね――だから、せめて遺体は運んであげること出来ないかな?」


 零はトイの身体で、自分よりも背の高い全員を上目で見上げながら、お願いするように告げる。

 すると三人は顔を見合わせた後。


「そうだな……協会の事もあるし。運んでやったほうがいいだろう」

「そうね。それにこの遺体は綺麗なままだしね……」


 ジェンがそういいつつ瞳に悲しみを宿らせた。

 ここで犠牲になった鉱夫の事を憂いているのだろう。

 邪獣にその命を奪われてしまったであろう彼らは、どれも損傷が酷い――その遺体に関しては、流石にこの状況じゃどうしようもないので、協会とダグラスに説明し対応してもらう他ないだろう。


 そして一行は、他に問題になりそうなものはないかを念入りに確認した後、元来た道を引き返しはじめた。





「でも、何故ガイアルはあんな姿に変わり果ててしまったのだろうな――」


 前を行くロックの肩にガイアルの遺体は担がれていた。

 その姿を眺めながら、何気にぼそりとジェンが呟く。


 その後はしばしの沈黙だった。ジェンのいっていたことの意味は、ガイアルが何故邪悪なる力に蝕まれてしまったのかといったところなのだろう。

 

 零はイービルの件で、心に闇を持つものは邪獣から発せられる邪気にあてられ、おかしくなることを知っている。

 つまり、あの時のイービルと同じように豹変したガイアルは、心に何かしらの闇を抱えていたという事にほかならない。


「……俺にもそこまでわからねぇな。寧ろロイエの方が判ってるんじゃないか? このあたりにもよくきてたんだろ?」


 ロックが首を巡らせ、ジェンの隣を歩くロイエに尋ねた。ちなみにジェンのもう片方側には零がついている。 

 実はジェンは、トイは疲れているだろうから私がおぶる! などと言い出したりもしたが、それは気持ちだけありがたく受け取り辞退した形だ。


「う~ん、私もそこまで話したことがあるわけじゃないしね~。でもね……ガイアルっちはここから南のグリスト村出身でね。あの洪水の後は暫く村に篭っていた事もあるみたい」


 ロイエの返答に、ロックは、そうか――とだけ口にしその背中に哀愁を漂わせた。

 ジェンもその話を聞いてからはガイアルの事に触れることはない。


 グリスト村の洪水に関しては、元のトイの記憶にも残っており、以前街でも話に聞いていた大雨と嵐に寄る影響で起きたものだ。


 そしてその洪水を引き起こした川は、この鉱山のあるルフィード山脈を流れるミルフィー川からの支流であった。


 これによりミルフォードの南、ルフィード山脈の麓に位置するグリスト村に多大なる被害を与えたのである。

 特にグリスト村は、穀物の生産地としても優れており、豊富な水源と肥沃な大地に恵まれていた事もあり、広大な農地を誇っていた。

 

 だが、それもその洪水の影響により全てが駄目になってしまった――ただ水害で駄目になったという話ではなく、土地そのものが死んでしまったのだと、そうガイアルは判断していた。


 そうこれはガイアルの記憶と知識に寄るもの。大地のガイアルとまで言わしめた彼のソーマがそう判断したのだ。


 そしてその記憶が零の身魂に刺をさす。彼の事情を知った――だからこそ、ガイアルの遺体は放置しておきたくなかったともいえるだろう……






◇◆◇


「皆様! よくご無事でお戻りで! そ、それで中の方は?」


「あぁ、原因は判ったしそれも倒し解決した……これでもう、鉱山で行方不明者が出ることもないだろう」


「!? な、なんと! あのガイアルでさえ解決できなかった問題が、て!? そういえばその肩に担がれているのは正にガイアルその人では?」


 ロックの報告に、鉱山の入り口を番していた男が目を見開き驚いてみせた。

 零はその男が自分が来た時の人物とは違う男である事に気がつく。

 恐らくは途中で交代したのであろう。それだけ坑道内では時間が経っていたという事だ。


 そしてロックは驚く男に更にガイアルの状態を告げた。


「……本当に残念な事をした。それで俺達は先ずは一度レンジャー協会に向かって報告と、このガイアルの遺体を運ぼうと思う」


「そ、そうでしたか! そうですね……皆様はレンジャーですし、ただ私もこれから急いで領主様にお伝えに向かいます! 恐らくすぐにお呼びがかかると思いますので――」


「あぁ判ってる。街からは出ないし、協会での話が終わったらダグラス卿の下へ向かうよ」


「は、はい! それでは――」

 

 男はそこまでいうと、そのままダッシュでダグラスの屋敷へと走っていった。

 そうとう慌てている様子だが、これだけの事件が解決したのだから当然とも言えるだろう。


 そして一行はその脚で鉱山を後にした後、協会へと向かう。

 帰り道の途中であの鍛冶の音が耳に届きだし、屋敷と鉱山までの道を守る門番に大声でロックが同じように事件が解決した事を告げた。

 

 それを聞いた門番の一人は、片割れに後を頼むと告げ、先ほどの男のように弾けたようにどこかに飛んでいった。

 恐らく鉱夫達に知らせに向かったのだろう。


 中々気の早い事だな、と思いつつも、門番と別れ全員でレンジャー協会に向かう。





「いやはや驚きました。ジェンもロックも噂には聞いていましたが、ここまでとは――いや、勿論期待していたからこそここまでお呼び立てした形でもあるのですが――」


 レンジャー協会につき、受付をやっている娘にロックとジェンが事情を説明すると、受付嬢は、少々お待ちください! と慌てた様子で駆けて行き、この協会の支部長と一緒に戻ってきたのである。

 そしてやはり相当に驚いた様子で支部長が一行にそんな事を告げてきたわけだが。


「それにしても――ガイアルは残念な事を致しました。しかし、まさか彼がそのような変貌を遂げてしまうとは……」


 ロックとジェンはガイアルが邪気に蝕まれてしまっていた事はそのまま隠さず伝えていた。

 協会に属する者として、ここで真実を隠すわけにもいかなかったのである。


「鉱山の邪獣がかなり凶悪だったのは確かだ。あの状況をみても、鉱夫達をやったのは邪獣で間違いないだろう。別に庇い立てするわけではないが、ガイアルが邪気に飲まれたのは俺達があの場所についてからの話しだと思う」


「そうね……私もそう思う。だからガイアルは確かに邪気の影響を受けてしまったけど、結果的に誰の命も奪っていないはずよ」


 ふたりの言葉に間違いがないことは、零に染み付いたガイアルの記憶と知識からも明らかであった。

 寧ろ彼はギリギリまで邪気に飲み込まれないよう耐え続けていたのである。


 ただ、それでも結局は抗い続けること叶わず、あのような結果になってしまったのだが――だが、それが零達が来てからであっただけまだ良かったのかもしれない。

 

 あれだけの力を持ったソーマ士だ。もしあのまま暴走を続けていたならその被害は邪獣の比ではなかったであろう。


「そうですか……それだけでもまだ良かったです。ガイアルのこれまでの功績を考えるとね。名誉に大きな傷が付かなくてよかった。本当にありがとうございます」


 そういって支部長が深々と頭を下げる。そしてその後は死体は一旦協会で預かるという話になり、報酬の話しと移り、そして――


「あ! 良かった皆様いてくれて。それでお疲れのところ申し訳ないのですが、フォーグ伯爵が今回の御礼と、お話を聞きたいといわれておりまして」


 息せき切ってやってきたのはダグラスの使いの男であった。

 どうやらもうダグラスに話が伝わったようである。

 

 そして――丁度協会での話も一段落ついたところであり、元々領主の屋敷には赴く予定であったため、一行には特に断る理由もなく。

 使いの男に付き従い、再び領主の屋敷に四人は向かうのであった――

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