表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
抹殺師  作者: 碧衣玄
76/80

魂の本音

「桜庭雁斗? どっかで聞いたか?」


「知らねえよ。それよりも、こんな茶番やめとけよ」


「茶番だあ?」


「死者を生き返らせるなんて夢物語をやめろってんだ」


「夢物語……勝手にほざいてろ。今から夢を現実にしてやる」


「正気かよ。あんな本を真に受けたのか」


「……あの本を知ってるだ? どこで知った」


「どうでもいいじゃねえか。俺は意地でも邪魔をする」


「無理だね。儀式はもう始まっている」


 アノンは、両手を挙げている。


「お手上げ……って感じじゃねえな」


 雁斗は、足を踏み鳴らしてアノンの動きを封じようとする。


「タップでも踏んでるのか?」


「効いてねえみてえだ。やっぱり親子、か」


 雁斗がアノンに迫った。


「正面なんてバカ丸出しだよ!」


 アノンは雁斗の動きを受け止めると、そのまま空中へ蹴飛ばした。


「ちっ!」


 雁斗が空かさず光の矢を放つ。


「……ふーん。まったくしつこいよ、お前」


 アノンが消える。


「アノンが消えた!?」


 ダガーの目は捉えられない。


「雁斗さん、上!」


 甲多が叫ぶ。


「……オラの動きを捉えたか……いい目だ」


 アノンが雁斗の背中に振りかぶる。


「……スカッた!?」


「抹殺拳」


 雁斗のガントレットが、アノンの腹部を突き上げる。


「!?」


 アノンは、空中で腹部を押さえて悶える。


「んだよ。頭ばかり鍛えて、身体は怠けてたのか」


(どうなっている!? 身体を通過させるなんて芸当をやってのける人間は一人だけの筈)


 アノンが思考をフル回転させる。


(桜庭雁斗……雁斗……!)


「そうか、そういうことか」


「腹殴られておかしくなっちまったのか」


「違うよ。お前を思い出したのさ。そうか、あのときの写真に写ってた子供」


「だからなんだ? どうでもいい!」


 雁斗が攻撃を仕掛ける。


「雁斗さん!」


「甲多、どうした!?」


「なんか地上がおかしいんだ! 光って……」


「ハハハ! 始まったんだ、儀式が!」


「今すぐやめろ!」


「無理だよ。術者が死なない限り、決して止まることはない」


「くっそ!」


 雁斗は、アノンを構わず攻撃する。


「お前じゃ、オラを殺せない」


「うっせ! 言っただろ! 意地でも止めてやるってな」


 雁斗が超加速でアノンを翻弄して拳を振るう。


「ぐぁ!」


 アノンが地上に叩き付けられる。


「雁斗、校庭が!」


 斬牙が声を震わせる。


「何とかしねえと!」


 雁斗達は、校庭に移動した。


「美加!」


 校庭に避難していた生徒達が倒れている。


「甲多……なの?」


 美加の目に映っているのは、開眼で髪の色が黒くなった甲多だったため、美加でも半信半疑だった。


「僕だよ! しっかりしてよ!」


「なんかね、さっきから眠たくてね」


 美加の身体が冷たくなっていく。


「美加!?」


「くろかみ似合ってるよ……格好いいよ?」


「美加! 寝ちゃダメだ! 寝たら……」


 甲多は大粒の涙を流す。


「甲多は生きて。生きて、あたしのぶんも」


 美加も涙を流す。


「美加も生きるんだよ!」


「……こうた……だいすきだよ」


 美加から力が抜けた。


「舞莉愛!?」


「申し訳ありません。わたくし、もう」


「なに言っているんだ! 冗談よせ」


「斬牙くん。お祖父様をお願いします。それと、孫が先に旅立つことをお許しくださいと……伝えて」


「誰が許すか! 施設長は俺の命の恩人だ! そんな恩人を悲しませることはできない! それに……俺は舞莉愛を死なせたくない!」


「嬉しいです。でもごめんなさい」


「俺の女性恐怖症。君と初めて会ったときに何も起きなかったんだ。何でかと思ったよ。慣れ、とは違うんだ……」


 斬牙の目が潤む。


「……やっと気付けたんだ……俺、舞莉愛に一目惚れしていたんだ。特別なんだよ」


「そうだったのですか。もっと早く知れていれば、違うことも出来たのかもしれないです。……両想いだったのです……から」


 舞莉愛は静かに目を閉じた。


「よし、うまくいっている」


 校庭が静まり返った。


「許さんぞ……このヤロウ!!」


 斬牙の髪が紅さを増す。


「貴様を気の済むまで殴ってやる!!」


 甲多の緑の風に稲妻が走る。


「言っていろ。ようやく叶う、死者の復活が!」


 アノンは、両手を広げて笑いあげる。


「ここは?」


「なんなんだ!?」


「生き返ったの!?」


 次々と生徒の身体に別の魂が宿る。


「成功だ! オラは、父さんの夢を実現したんだ!」


「キャアアア!!!?」


 突然の悲鳴と共に、女子が立ち上がり吐血する。


「どうしたんだよ?」


 アノンが女子に近づいていく。


「来ないで!」


「あ?」


「苦しい……痛い……悲しい! 辛い思いをするぐらいなら殺してほしい!」


「生き返ったんだよ? 寧ろ感謝してよ」


「あくま……命を軽んじる……悪魔!」


 女子の目は、怒りを秘めていた。その目を見たアノンは困惑する。


「なんだよ! この世に心残りがあるから漂っていたくせに! 恩を仇で返す気か!」


「そこまでだ、アノン。それが死者の本音だ。確かに、成仏出来てないのは、この世に未練があるからかもしれねえ。けど、自分以外の身体で生き返っても、それはお門違いなんだよ!」


「雁斗! お前に何が解る!?」


「俺は、お前の親父のレクイエムと融合してる。レクイエムがこの儀式を踏みとどまった理由も解る」


「融合だと!? ふざけるな! 誰が信じるか」


「まあいい。これ以上の儀式は無駄だ。死者の魂を解放して、水晶玉に封印した皆の魂を元通りにしろ」


「誰がするか! 封印した魂のお陰で、水晶玉の力が増している。これで冷獣と冷獣人を一掃する!」


「アノン! んなことしたらどうなるか解ってんだろ!」


「水晶玉と共に魂は滅びる。抹殺師の望み通り、冷獣も冷獣人も消えてなくなるんだ……本望だろう!」


「んな終わり望んでねえ!」


「ぐぶぁ!!」


 雁斗がアノンをおもいっきり殴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ