雁斗とアノン
「う……うっ!!」
「あああああ!!」
「こんなのあんまりよ!!」
全国の人々が、変わりすぎた現状に困惑し、苦しんでいる。
※ ※ ※
「螺雨君!?」
「おじさん! よかったあ無事で」
「君は大丈夫なのか!? というよりも何故、都心へ?」
「ボクの周りの人達がおかしくなって。とにかく安全な場所に行かなくちゃって」
「都心なら安心、と。だが残念ながらこの有り様だ」
「一体何が起きてるの?」
「抹殺師の事でね。好奇心が引き起こした悲劇かな」
「おじさんは平気なの?」
「おそらく、抹殺師には影響ないのだろう。螺雨君が無事なのは、抹殺師のミサンガを持っているからだと思う」
「そうなんだ」
「迅殿!」
「燐ちゃん! 君は何ともないのかい」
「無事じゃよ。アキが余っていたミサンガを渡してくれたのじゃ。確信はないが一応とな」
「機転が利くな」
「じゃが、危険な状況なんじゃ。アノンという男は、目的のためなら手段を選ばぬようじゃ。なんとか雁斗達が粘っておるが……」
突然地面が光っていく。
「……まさか本当に実行する気か!?」
「何をじゃ?」
「生きている人の魂を水晶玉に封印して、その魂で増幅した力を一気に解き放つ。冷獣や冷獣人を一掃できるという理論らしい。実現されたら厄介だ」
「なんじゃと!? それでは今の人達は?」
「恐らくは死者の魂が宿っているのだろう。アノンの目的は死者の復活……レクイエムがたどり着き、封印した禁忌だ」
「恐ろしいのじゃ」
燐は、左腕を右手で押さえた。
※ ※ ※
「アノン!」
「オラを殴ろうが何も変わらない。これで全てが終わるんだ! 冷獣も冷獣人も消滅するんだよ!」
「そんなやり方、望んじゃねえ! レクイエムだって、それが分かっていたから実行しなかった」
「父さんを容易く語るな! お前に何が分かる!」
「融合したって言ってんだろ! だから分かんだ!」
「信じられるか! 大体、そうだとしたら父さんは死んでるってことだろ!?」
「レクイエムは、俺を助けるために犠牲になった。俺に賭けてくれた。アノン、お前を説得するのも俺の役目だ」
「勝手にしろ……もう手遅れだ」
アノンが指を鳴らした。
「本当に手遅れか?」
「何が言いたい」
「今ならまだ間に合う筈だ。死者の魂を水晶玉に封印し、最初に封印した魂を解放すればいい」
「死者の復活が成功したんだ。何故それを素直に喜べない」
「……研究者だからだよ……アノン」
「急になんだ?」
「少々借りるぞ、紫。……アノン。私は別に、人を生き返らせたいと思ったことなどない。ある種の答えにたどり着ければよかったのだ」
「桜庭雁斗、ふざけているのか!」
「私のことを想っての行動なのなら勘弁さ。どんな理由であれ、イタズラに命を利用してはならない」
「……ホントに融合……したのか!?」
アノンの思考が追い付かない。目の前に居る男が、まるで自分の父親のように語りかけている。
「アノン、早くするんだ。本当に取り返しのつかないことになるぞ!」
「良いのかよ!? せっかくの成功を」
「その問いに答えは要らないだろう。答えを求める時点で、お前は負けなのだ」
「……オラの負け……か」
地面が再び光だし、生徒達が苦しみ出す。
「わたしは、もういちど景色を見たかっただけ。それももう済んだわ。未練なんてない」
「静かに眠りたい」
「……すまなかった。しっかりと言いつけておく」
(それでは。あとは任せた)
「ああ。手間かけた」
雁斗がレクイエムに礼を言う。
「魂の入れ替えをしたところで、儀式を止めることはできない」
「始末まで出来て初めて成功なんだぜ。ま、今回は成功しないでいいんだがな」
雁斗は瞳を閉じる。自分の心臓の鼓動と同じ鼓動が消滅していくのを感じていた。
「雁斗さん、この光は?」
「冷獣と冷獣人が消滅していく……死者の魂も成仏されていく……」
「雁斗、お前平気か!?」
「心配ご無用だ。俺は俺だ」
(まだ諦めてはいない。首を洗って待っていろ、人間)
大王が雁斗の意識の奥へ退いていく。
「そっちこそな。今回は助かったが」
地面の光が消えていく。
「美加! 舞莉愛さん! 皆!」
甲多は、倒れている生徒達に寄っていった。




