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抹殺師  作者: 碧衣玄
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死者を求む旅人

「これか」


 壁一面に広がる本棚の中から、赤い本を取り出す。


「拝ませてもらうぜ。レクイエム」


 雁斗は本を開いた。


『死者は、一体どこへ向かうのか? 魂が天に召される。昔からそうやって信じ込まれてきた』


『だが、どうだろう? 巷では不可解な心霊現象が度々報告されている。天に召された筈の魂が、簡単に地上へと舞い戻れるのだろうか?』


『人が死ぬ。それは当たり前の事だ。たが果たして、魂が天に召されるのは当たり前なのだろうか』


(なんだこれ。やけに宗教クセえな)


『もしも、魂が天に召されることが否定できたなら、それの証明が巷で報告されている心霊現象ならば、その魂を再び器を用いて留める事が出来るのではないのだろうか』


(器?)


『人の器は人体なのだ。つまり、再び人体へと魂を戻せば良いと考えれる。人の身体ならば、赤の他人の身体でも差し支えないとの考えに辿り着けた』


『しかし、問題がある。一つの身体には、一つの魂が原則なのだ。となれば、死者を生み出し、魂を留める考えに真っ先にたどり着く』


(生き返らせるのに犠牲は当然って野郎か!?)


『魂をどうやって定着させるのか。生んだ死体に細工を施す他ないだろう。魂が生前に思い入れていたものを仕込めば自ずと誘い出される』


『恋人を生き返らせたいのなら、己と恋人の思い出の物を生んだ死体に持たせるも良いかもしれない』


(こいつ……人を生き返らせれるなんて本気で思ってんのか)


『著者は考える。水晶玉を用いて未来を占うように、何かを用いて過去を取り戻すことはできないかと……』


(……なんだ……この感じ!? 身体中がざわめく感覚は)


「雁斗。大丈夫か?」


 斬牙が雁斗の表情の変化に気付く。


「甲多、犬の飼い主は女性か?」


「そうだよ。もうすっかり元気だよ」


「……ダガー、冷獣は全然現れてないんだよな?」


「不気味なぐらいにな。それがどうかしたのか?」


「……器……赤の他人……思い出の物……過去を取り戻せる何か……。レクイエムが恋人を生き返らせるキッカケがこの本なら……って、待てよ?」


 雁斗は、必死にレクイエムの記憶を読む。


「ヤベエ。このままじゃ!」


「どうしたんだ、雁斗。話せ」


 迅が促す。


「……レクイエムが水晶玉の液体を作ったのは偶然の産物のほかでもねえ……。けど、そっから液体を水晶玉にしたのも、各地に配ったり埋めたのも、レクイエム自身の意思だ……」


「それがどうしたんだ」


「……水晶玉を作った本当の目的が、抹殺師でも冷獣を倒すためでもなく……死者を生き返らせるためだったら全てが納得できるんだ」


「聞かせろ。本の内容を」


 ダガーに促され、雁斗が内容を話した。


「ヘタな宗教よりタチが悪いな」


 斬牙が唖然とする。


「赤の他人なら誰でもいいってんなら、複数の身体を用意すれば上手くいく確率が上がる。魂の定着に使う死体は、水晶玉に生きた魂を封印して生み出す。各地に水晶玉を埋めた理由はそれで説明がつく」


「成る程な。現世に魂は限りなく在るだろう。魂が吸いとられるように死体に定着すれば、望みの人物を生き返らせる確率は必然と上がる。本の仮定が全て当てはまるのならば」


 ダガーが言う。


「封印!? そんな身勝手なこと許されないよ!」


「水晶玉の力は、人間により発動する。魂を封印した水晶玉なら、冷獣を一気に倒せる」


「雁斗さん。人間の魂を犠牲に冷獣を倒すって、命を犠牲に倒すってことだよね!? 一人を生き返らせるのに大勢の命を犠牲にするなんて間違ってるよ!」


「だからレクイエムは、理論にはたどり着いたが実行には移さなかった。留まれたんだ」


「何が言いたいんだ。雁斗」


「親父。この家の鍵は三つある。一本はレクイエム、二本目はスペアキー、三本目は息子だ。妻と息子は離れて暮らしてるが、息子はレクイエムの不在を狙って度々訪れていたらしい。この本も見ていたようだ」


「まさか!?」


「レクイエムが纏めていたノートにも目を通していたんだろう。レクイエムが帰ると散らかっていたことが幾度かあったみたいだ。……もし息子が理論を理解していたとすれば……。定着させる身体を探していたんだとすれば……」


「冷獣を倒すため、死者を生き返らせる為、犠牲は致し方ない。考えが未熟な者なら実行しかねない!」


「息子の歳は?」


「俺と同じ十三歳だ」


「ますます不安が募った」


「息子の名前は、アノン。この本の作者から名付けたんだろ」


「雁斗さん、さっきレオの飼い主の性別を聞いてきたよね? まさか、襲った犯人って……アノンなの?」


「だろうな。しかも、この街に居る可能性が高い。レクイエムが言っていた、一年後に国が滅びるってのはこの事だ」


「冷獣の進化とは関係ないよ?」


「あんときは、冷獣人の事のほうが危機だったんだ。早まったけどな」


「早くアノンを見つけないと!」


「多分、冷獣達を集めて潜んでやがる。俺達が邪魔するのを阻止するために。この頃見掛けないのはそのためだ」


「無茶苦茶な思想に踊らされてるわけか。面倒な奴が増えた」


 斬牙が頭を抱える。


「アノンを見つける。それが俺達の今、できることだ」


 雁斗が言った。

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