記憶
「ここが、レクイエムの家か」
「雁斗さん。僕達も来てよかったの?」
「レクイエムは、お前を気に入ってたんだぜ? 少しでも自分に関心を持ってくれた人間が居れば安心だろよ」
「雁斗、大丈夫なのか。レクイエムとの融合で記憶がこんがらがってるんじゃ?」
「心配ねえ。ちゃんと、俺とレクイエムの記憶は整理されてる。身体も融合してんだ、脳だって向上している筈だ」
「ならいいが」
斬牙は、雁斗の雰囲気が変わっていることに戸惑っていた。
「んじゃ、開けるぜ」
雁斗が、二枚の大きな扉を力一杯に引いた。
「……何者だ?」
扉を開くと、舞踏会を開ける程の広さの部屋が現れる。その部屋の上から声が聞こえてきた。
「ふーん。特別、玄関は無いみたいだ。土足歓迎っぽい」
「それもレクイさんの記憶?」
「まーな。ついでに二階からの声の主はダガーだ」
「兄さん!」
ダガーの名前を聞くなり、甲多が二階に上がっていく。
「親父?」
「彼は本が好きだったし、本を愛していた」
「それ故に……本を信じてしまった、か」
「雁斗?」
「レクイエムが何の実験をしていたのか。それが判っちまったんでな。内心参ってんだ」
「何の実験をしてた?」
「親父が知ったら、苦しむぜ?」
「構わない。お前から聞けば、直接聞いたことと変わらないからな」
「……死者の生き返り。二十年も前から、レクイエムは実験をしていたんだ……」
「知らなかった。俺が抹殺師になる前に、彼がそんな実験をしていたとは!?」
「……何度も失敗して挫折して……ようやく生まれた液体は、愛犬を化物へと変えてしまった」
「悲劇だ。現場に居ながら俺は何もできなかった」
「化物を野に放ってしまった責任を感じ、化物を戻す術を探した。そうして遂に、二年後に水晶玉が完成した。全国津々浦々、化物を捜しつつ、各地に水晶玉を配り歩いた。受け取る者は、そうは居なかったが、0ではなかった」
「それで俺にも」
「配るだけではなく、各地に水晶玉を埋めていった。化物へのトラップになればと。更に二年後に親友の元に足を運んだ。だが、そこで悲劇は起きてしまった」
「宇美が殺された。あのときの化物だと俺は思いだした。彼が急場しのぎと、水晶玉を託し、俺は抹殺師になった……が、宇美を守ってやれなかった!」
「……それからというもの……化物が増殖していた事実を知り、退治に明け暮れた。実験を繰り返し、自分を実験台にしながら研究を続けた。結果、寿命を犠牲に若さを手に入れた。実験台になるにも若さが必要だった」
「若返った理由は、自分の実験台としての期間を延ばす為だったのか!」
「幸いにも、水晶玉を理解した者達が次々に抹殺師の力を得て、冷獣と戦ってくれていた。同時に裏切られもしたが……」
「ラグナロクという奴か?」
「……アイツは、言葉巧みに水晶玉の液体を貰っていった。しかし、結果は散々だった」
「彼が言葉を濁した理由が判った」
「冷獣の進化を予測していた。進化を防ぐために協力が不可欠だった。結局、私が生み出したのは、次から次に悲劇だった」
「お前だけの問題じゃもうない、レクイエム」
「……親父、俺は雁斗だ」
「すまない。ついな」
迅が深呼吸する。
「さてと。そんじゃ探すか、本を」
「何の本だ?」
「アノン。アノン・リリックって人が書いた小説、死者を求む旅人ってやつ」
「死者を求む旅人……まさか!? その本が死者を生き返えさせようとしたキッカケか!」
「そう。そんで、生き返らせたい相手は自分の恋人だった女性。病気で亡くなったらしい」
「知らなかった。恋人が居たなんてな」
「その後、結婚して子供もいるみたいだ」
「アイツに妻と子供!? 知らなかった」
迅は驚きつつも、どこか悲しみの表情をしていた。
「雁斗さーん!」
甲多が二階から雁斗を呼ぶ。
「その子供を最近見掛けたみたいだ。甲多が可愛がっている犬の飼い主を襲ったらしい」
「何のために」
「さーな。ただ、レクイエムが最期に読んでいたのは……」
「死者を求む旅人、か。アイツ、何でまたそんな本に目を通した?」
「流石に解らねえ。記憶は判っても、心までは解らねえ」
「そう、か。何でもかんでも知られたら堪ったもんじゃないからな」
「ああ。俺は御免だけどな」
雁斗も二階に上がった。




