遺されたもの
「ミサンガを作ったのは、宇美だ」
「お袋が!?」
(じゃあ、夢で見た女性は)
「急にどうした? ミサンガのことを訊くなんて」
「いや。ただ気になっただけだ」
「そうか」
迅は、アルバムを出してきた。
「なに?」
「ほれ。宇美と写っている赤ん坊がお前だ」
迅が指差した写真には、すやすやと眠っている雁斗を抱いて微笑む、宇美の姿があった。
「これが……お袋」
「そうだ。まあ、記憶なんかないだろうがな」
「まあな」
(夢の女性は、お袋だったか)
「もうすぐ宇美の命日だ。せいぜい元気な顔を見せてやるんだ」
「おう」
雁斗は、カップに残っていたコーヒー牛乳を口に含む。
「そういえば、お前が眠っているあいだに見舞いが来ていたぞ? 甲多君に斬牙君。でも一番来たのは羅阿奈ちゃんだったか?」
「ブーーー!?」
雁斗が、口に含んでいたコーヒーを吹き出した。
「お前も隅に置けないねえ」
「なんで羅阿奈が頻繁に来てんだよ!?」
「心配だからじゃないか? 幼なじみなんだろう?」
「まったく。らしくねえことしやがって」
「皆に顔を見せてこいよ」
「わーてるよ」
雁斗が立ち上がる。
「それと、ダガーが来たよ。冷獣人の出現は確認できないが十分に注意をするように、とな」
「へえ。ダガーがあ」
「冷獣も見掛けないが、警戒に越したことはない。この間の事もあって、一気に人々に抹殺師と冷獣の存在が知れ渡ったからな」
「やりずれー」
雁斗は、伸びた髪を束ねる。
「お前。いつの間にか、色んなものを託されてるんだな」
「え?」
「黒いベストは風太君から……左のリストバンドは凖という少年から……命をレクイエムから……そして、心臓を冷獣人の大王から。お前は、簡単には引き下がれないところまで来てしまっているんだ」
「心得てる」
雁斗は、自分の手を見つめる。
(生かされてるんだな)
「記憶もな」
雁斗が扉を一気に開いた。
「記憶……レクイエムのか?」
「おう。お陰で色々と判明したけどな」
「何がだ?」
「レクイエムの家とか……それこそ抹殺師や冷獣の事細かなこととか……」
「教えろ、俺が行ってくる」
「俺も行きてえよ。いちいち説明すんの面倒だ」
「分かった。なんなら皆で向かおう」
「へー。珍しく親父が気合い入れてらー」
「雁斗、レクイエムと融合したからか、俺に対する態度が悪化してないか?」
「どうかねえ? ……なんてな」
雁斗が外に出た。
「お、おい!? 置いてくな」
迅も後に続いた。




