抹殺師と冷獣人の先へ
雁斗の身体がの冷獣人を思わせる姿に変わっている中、その身体の中で心の争いが繰り広げられていた。
(ざけんな! こちとら最悪な死に方をしてんだ!)
(人間が大王を抑え込む気か)
(紫、私は、もうすぐ消滅する。そやつに負けて滅びられたら、私は無駄死にになる)
レクイエムが二人様子を傍観している。
(にわかには信じられねえが、あんたと俺は融合したんだよな? 心臓を潰された俺が生きていられるのも、そのわけだ。だけど、何で俺じゃなくて、あんたが消えるんだ?)
(一人の身体に三つの魂は共存できない。私は、お前を生き返らせるために融合したに過ぎん。最期の土産物ってわけだ)
(俺は、頼んでねえ。てか、あんたが死んだら親父が悲しむ。お袋に続いて、あんたまで先立ったら親父だって……あとを追っちまう)
(息子が親より先立つほうが、余程に辛いだろ)
(だけどそれじゃ!?)
(大丈夫だ。迅は、お前を置いて逝かん。私が責任をもとう)
(死んでどうやって責任もつってんだ!)
(……人間が……。そんなに死が怖いか)
(たりめーだ! お前に殺されて、こちとら腹の虫が収まらねえ!)
(殺したのは王だ)
(どっちでもいい! お前の復活の阻止だけでも成功させる)
(言っていろ。人間、お前の身体は大王の姿に変わっている。この身体は頂く)
(ぜってえ渡すか!)
(……さて、そろそろ決めるかね……勝者を)
(レクイエム。どうやって決めるんだよ?)
(簡単だ。この身体が選ぶ)
「ガアアアア!」
金色の冷獣人は、甲高い声で吼える。
※ ※ ※
「レクイエムが!?」
甲多から話を聞いた迅は言葉を失った。
「雁斗の様子がおかしかったのは、そういうわけだったのか」
斬牙が納得した。
「どうするか。大王が消えても、冷獣も消えるとは限らん」
ダガーが警戒する。
「ごめんなさい、迅さん。僕が、しつこく引き留めていれば……」
「いや。誰が言っても結果は変わらなかっただろう。甲多君が気にやむ必要はない」
「こうしていても仕方ない。やはり、ああは言われたが雁斗のところに戻るか」
「アキよ。ワラは、足手纏いのようじゃ」
「困ったちゃんだ。戦力にはならんが、足手纏いじゃない。力だけが強さじゃない」
「アキ」
「待っていろ。ちゃんと雁斗を連れて帰る。そしたら、またラーメン屋巡りにでも行くか」
秋良は、燐を安心させる言葉を掛けた。
「斬牙くん、わたくしのせいで酷いめに」
「元気ならそれでいい。待っててくれ」
「はい。待っています」
「あたしだって待ってるからね! 雁斗君と会わせて、羅阿奈ちゃんを元気にさせたいもん!」
「美加が待っててくれるなら百人力だね! 兄さん、美加達をお願いしていい?」
「構わん。雁斗を迎いにいってやるのだ」
「うん!」
「……行こう。バカ息子を迎いに」
迅達は、雁斗の元に向かった。
※ ※ ※
「うっ!? ……ウガアアア……ああ!?」
冷獣人の姿が縮んでいく。
(レクイエム!)
(行くのだ! せいぜい人生を楽しめよ)
レクイエムの魂が消えていく。
(人間風情が!)
(大王……そんなに人間が許せねえか?)
(許してたまるか!)
(そうか。だが、この身体は渡せねえ。レクイエムが繋いでくれた命だから)
(大王は、決して死なん! 不死である限り、魂のままでも、へばりつく!)
(望むところだ。どうせ大王が消えても、冷獣達は残るんだろう? まとめて相手になってやるよ)
(覚えて……おけよ)
大王の魂が暗闇に溶けていく。
(……よし、いくか)
冷獣人の姿から、雁斗の姿に戻っていった。




