代価
「ガアアアア!!」
冷獣の光線が斬牙を狙う。
「何度も食らってたまるか!」
斬牙は、長剣と短剣を十字に重ねて光線を防いだ。
「なかなかやるね!」
羅阿奈も負けじと矢を射る。
「うわっ!!」
斬牙が羅阿奈を反射的に避ける。
「何よ。久々に会ったのに」
「すまん。あのときの反動がな」
「あのとき? どの時よ?」
「ほれ……特訓だ、何だと、色々と……な」
「あー……、三年前の! 斬牙の白髪頭が何故か可笑しく見えて、その髪に見合う男になれーって追いかけ回したりしたした!」
「したした……って!? それだけ?」
「ほかに何かあった?」
阿奈は襲ってくる冷獣をひたすら射る。
「ラー嬢。そりゃあないぞ」
「ガアアアア!!」
斬牙が落胆していると、冷獣が飛び掛かってきた。
「ガウウウウ!!」
「白髪。余所見は百年の損な!」
斬牙を助けた凖が言う。
「すまない。助かった」
「それにしても減らなすぎよ。どうにかなっちゃいそう」
「羅阿なん。彼処なら?」
凖が建物を指す。
「そうか! 電波塔からなら狙、いが定めやすいわよね!」
「ラー嬢。登るのは至難の技だ。中には大勢の人が居るだろうし、そもそも中からじゃ射てないぞ?」
「なーに言ってるの? 登るのは中じゃない。外よ」
「はい!?」
斬牙は驚いた。
※ ※ ※
「抹殺斬!」
「遅いよ?」
「ぐはっ!」
仮面の者の攻撃を受けて雁斗はよろける。
「大丈夫!? 雁斗さん」
「平気だ。こんぐれえ」
「強がりはよすんだ。人間風情が空を飛んでも、人を超えることは不可能。諦めるんだ」
「うるせえ! 面をしなきゃ話が出来ない奴が偉そうにペラペラと。お前、人間を超えて何を企んでやがんだ?」
「クダラナイ。猿が人間に進化した。ならば、人間は何に進化するか……知りたくないかな?」
「結構だぜ。人間から進化しても人間だろ」
「違うよ? 抹殺師の様な下等な存在に進化したり、ワタクシの様に進化する」
「お前は何に進化した気でやがる!?」
「人間が拝み、憧れ、望む存在。この世界において、様々な形で伝えられる絶対の希望。すなわち……神……だよ」
「くだらねえな! 人間が進化して神になるってんなら、誰だって目指すだろうぜ?」
「誰にでも到達出来る訳じゃない。だから神なのだ。ただ一人、ワタクシを除いて」
「そうかよ。だったらいい……お前が神だと言うのなら……俺は悪魔になってやりゃあ!」
雁斗が構える。
「罰当たりだよ」
仮面の者が雁斗に光線を放つ。
「雁斗さん!」
「下等が!」
仮面の者が甲多に光線を放つ。
「甲多!」
「フン!」
ダガーが甲多を助けに入った。
「ありがとう! 兄さん」
「無事なら構わん」
「フフフ。下等が意地を張る」
仮面の者が胸の前で手を合わす。
※ ※ ※
「なるほど……階段を上るのか」
斬牙は感心しながら進んでいく。
「感心してないで。あくまで目的は冷獣で、電波塔に登るのは手段なの!」
「分かっている」
「羅阿なん。そろそろ」
「そーね」
羅阿奈と凖が弓を構える。
「斬牙、アンタは矢に火を点してくれない?」
「冷獣が密集しているから燃やすのか。いい案だ」
「感心してないで。早く点けて!」
「ああ」
斬牙が矢に火を点ける。
「心配しなくてもいいわよ。冷獣が飛んできて火傷をしても、私の魔癒術で治してあげる」
「魔癒術だと!?」
「何よ?」
「ラー嬢! 今まで何回、魔癒術を使った!?」
「さあ? いちいち覚えてないわよ」
「もう魔癒術は使うな」
「何でよ?」
「魔癒術には代価が要る」
「代価って何よ?」
「……魔癒術は使うたびに……」
斬牙が言葉に詰まる。
「気になるじゃない。言いなさいよ!」
羅阿奈が弓を引く。
「……記憶が消えていく……」
「えっ……!?」
羅阿奈の手元がブレた。




