雲よりも白く近く
「あ~あアーノルド。どうして貴方は無口なの」
ショッピングの翌日。左足を痛めている甲多の前で、美加が朗読をしている。
「そんな貴方が愛おしい。貴方の為なら女になるわ」
「こんな鎧は脱ぎ捨てて、女の魅力を露にし、たった一人の男を征す」
美加は舞いながら読み続ける。
「そうして女は天使になるの。愛する男に愛されながら、最期は天に召されたい」
美加は本を閉じた。
「なんだかよく分からないけど、とにかく凄いよ」
甲多は拍手する。
「ありがと。でも実はあたしもよくは分かってないのよ。小学生には難しいのかも」
「僕は少しずつ物語を理解できたほうが楽しみがあっていいかも」
「そうかも……そうよね!」
ドアをノックして、雁斗が声を掛けた。
「邪魔して悪いな。ちょっと良いか?」
雁斗が甲多の部屋に入る。
「どうしたの雁斗さん」
「昨日のダガーの事なんだけどよ。ダガーは一人で居たのか?」
「あの場には、僕と美加と冷獣と助けてくれた人だけだったよ」
「そうか」
「雁斗さん。そのダガーって人はどういう人なの?」
「素性が判んないんだ。只、冷獣を倒すことには異常なまでの執念を燃やしているらしい」
「その執念が冷獣を倒すことに繋がれば良いんじゃない?」
「……ならいいんだが」
雁斗は立ち上がる。
「話はそれだけなの?」
「おう。邪魔して悪かった」
雁斗は部屋を出た。
「雁斗君、浮かない顔だったね」
「うーん。雁斗さんは抹殺師が長いから、色々と予感がするのかも」
「抹殺師、ね」
「どうかしたの?」
「……あたしもなれるかな……抹殺師に」
「え……美加……それは駄目だよ」
「あたしも甲多の手助けしたいの!」
美加は甲多を見つめる。
※ ※ ※
「うん? 曇ってきたか」
斬牙は窓を開ける。
「……なんだ……ありゃ!?」
「どうしたんだ? 窓から見上げて」
「あれなんだ?」
「あ?」
雁斗も空を見上げる。
「な……!?」
雁斗と斬牙は外に出る。
「凧なんかにしては大きすぎる。かといって飛行機にしては低く飛びすぎだ!」
斬牙は戸惑う。
「なんだなんだ!?」
「何事!?」
周辺を覆う白い物体に近所の人達も騒ぐ。
「気配がない。冷獣じゃねえな」
「立ち尽くすだけか? 抹殺師」
「「!?」」
「おい斬牙。今、白いのから、声が聞こえたよな?」
「抹殺師を知っているだと!?」
「止めてみろよ抹殺師。じゃなけりゃコイツが爆発するぜ」
「なんだと!?」
「落ち着け斬牙。声と白いのは別物だ。じゃなけりゃ爆発するなんて言わねえよ」
「さあ、どうする抹殺師?」
白い物体が速度を上げる。
「追うぞ斬牙」
「分かってる」
雁斗と斬牙は駆け出した。




