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抹殺師  作者: 碧衣玄
17/80

雲よりも白く近く

「あ~あアーノルド。どうして貴方は無口なの」


 ショッピングの翌日。左足を痛めている甲多の前で、美加が朗読をしている。


「そんな貴方が愛おしい。貴方の為なら女になるわ」


「こんな鎧は脱ぎ捨てて、女の魅力を露にし、たった一人の男を征す」


 美加は舞いながら読み続ける。


「そうして女は天使になるの。愛する男に愛されながら、最期は天に召されたい」


 美加は本を閉じた。


「なんだかよく分からないけど、とにかく凄いよ」


 甲多は拍手する。


「ありがと。でも実はあたしもよくは分かってないのよ。小学生には難しいのかも」


「僕は少しずつ物語を理解できたほうが楽しみがあっていいかも」


「そうかも……そうよね!」


 ドアをノックして、雁斗が声を掛けた。


「邪魔して悪いな。ちょっと良いか?」


 雁斗が甲多の部屋に入る。


「どうしたの雁斗さん」


「昨日のダガーの事なんだけどよ。ダガーは一人で居たのか?」


「あの場には、僕と美加と冷獣と助けてくれた人だけだったよ」


「そうか」


「雁斗さん。そのダガーって人はどういう人なの?」


「素性が判んないんだ。只、冷獣を倒すことには異常なまでの執念を燃やしているらしい」


「その執念が冷獣を倒すことに繋がれば良いんじゃない?」


「……ならいいんだが」


 雁斗は立ち上がる。


「話はそれだけなの?」


「おう。邪魔して悪かった」


 雁斗は部屋を出た。


「雁斗君、浮かない顔だったね」


「うーん。雁斗さんは抹殺師が長いから、色々と予感がするのかも」


「抹殺師、ね」


「どうかしたの?」


「……あたしもなれるかな……抹殺師に」


「え……美加……それは駄目だよ」


「あたしも甲多の手助けしたいの!」


 美加は甲多を見つめる。


※ ※ ※


「うん? 曇ってきたか」


 斬牙は窓を開ける。


「……なんだ……ありゃ!?」


「どうしたんだ? 窓から見上げて」


「あれなんだ?」


「あ?」


 雁斗も空を見上げる。


「な……!?」


 雁斗と斬牙は外に出る。


「凧なんかにしては大きすぎる。かといって飛行機にしては低く飛びすぎだ!」


 斬牙は戸惑う。


「なんだなんだ!?」


「何事!?」


 周辺を覆う白い物体に近所の人達も騒ぐ。


「気配がない。冷獣じゃねえな」


「立ち尽くすだけか? 抹殺師」


「「!?」」


「おい斬牙。今、白いのから、声が聞こえたよな?」


「抹殺師を知っているだと!?」


「止めてみろよ抹殺師。じゃなけりゃコイツが爆発するぜ」


「なんだと!?」


「落ち着け斬牙。声と白いのは別物だ。じゃなけりゃ爆発するなんて言わねえよ」


「さあ、どうする抹殺師?」


 白い物体が速度を上げる。


「追うぞ斬牙」


「分かってる」


 雁斗と斬牙は駆け出した。

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