街中の冷獣
「凄い人だねえ」
「それはそうよ。週末だもん」
甲多と美加は電車で二十分の街まで来ていた。
「僕たちの街とは賑わいかたがちがうよ」
甲多は、ショーウィンドウの前で立ち止まる。
「どうしたの?」
「女の人は何時の時代も憧れるのかな? てね」
甲多の視線に、ディスプレイされているウェディングドレスがあった。
「そりゃあ……」
美加は両手の人差し指をくっ付ける。
「ああ! あれは、新発売のラジコンだ~!」
甲多は隣の店のラジコンに心を奪われる。
「もー! 甲多ってば!」
美加が追い掛ける。
※ ※ ※
「ん?」
雁斗が甲多のケータイを見つける。
「あいつ、忘れてったな」
「雁斗、行き先を聞いてないのか?」
「今日、戻ってきた俺が知るか」
「それもそうだな」
斬牙が床に落ちている紙を拾った。
「大バーゲン。最大五十%OFF!! ……これか?」
「だろうな。斬牙、届けてやれよ」
「なんで俺なんだ?」
「……知ってるだろ? ……俺が電車を苦手なの」
雁斗はお手上げのポーズをとる。
「克服してなかったのかよ!?」
斬牙は呆れて言葉が出ない。
「んじゃ……頼んだ!」
「まったく。乗りかたが解んなければ知、ればいいだろう。一緒に行くぞ?」
「ちぇ……しゃーない」
雁斗と斬牙は家を出た。
※ ※ ※
「おや。そこの仲良しさん! ちょっと寄っていきなさいな。占ってあげるよ」
「占い師さんですか?」
「この道、三十年の腕前を魅せてあげよう」
占い師は水晶玉に手をかざす。
「ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ! ……ウダバダー……ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ!」
「……モロヘイヤ……」
美加はポカンとする。
「ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ! ……ウダバダー……ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ! ……ウダバダー……ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ! ……ウダバダー……ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ!」
占い師の熱がこもる。
「何を占ってるんですか?」
甲多が訊く。
「ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ! ……ウダバダー……ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ! ……ヘイヤ! ヘイヤ! モロヘイヤ!!」
占い師が伏せる。
「どうかしたんですか!?」
美加が訊く。
「……見えてしまった……しまったよ~……」
「何が見えたんですか!?」
甲多が訊く。
「……この場が襲われる! 白い体毛の化け物が暴れて! あああああ!!」
占い師は水晶玉を抱えると、血相を変えて走っていった。
「……白い体毛の化け物……!!」
甲多が辺りを伺う。
「どうしたの? 甲多」
「……来る。気配がある!」
甲多の目付きが変わる。
「怖いよ……甲多……どうしたの?」
「ご、ごめん!! 大丈夫だよ?」
響きが起きる。
「きゃあ!?」
美加がよろける。
「美加!!」
甲多が支える。
「こんなとこに冷獣が現れるなんて!! ……なんとかしないと!!」
「甲多。あれは何?」
「……心配要らないよ。僕がなんとかする!! ……美加はここにいて」
甲多が冷獣に向かっていった。
※ ※ ※
「なんで、電車に乗るのはこんなに面倒なんだ」
雁斗が電車を待ちながら言う。
「簡単だ。面倒なのはお前だ、雁斗」
斬牙が呆れる。
「もっと簡単にならねえかな」
「ほれ、来たぞ」
「乗り物だけハイテクになりやがって」
雁斗は電車を見つめた。
※ ※ ※
「……強いな……クナイが刺さらない」
「ガアアアア!!」
冷獣が吼える。
「キミも逃げなさい!!」
「うわああ!!」
街中に居た人達は、四方八方に逃げ惑う。
「これ以上、暴れられたら困るんだよ!」
甲多が風を起こして、素早く冷獣に近付く。
「はああああ!!」
甲多がクナイを勢いよく突き刺す。
「ガウ?」
「……駄目か!?」
「ガアアアア!!」
冷獣が甲多を蹴り飛ばす。
「うぐっ!?」
甲多はなんとか着地するが、反動で足首を痛めてしまう。
「ガアアアア……」
「あれは!!」
「ガアアアア!!!!」
冷獣から光線が放たれる。
(足が……!?)
「……ゴハッ!!」
爆発の衝撃で倒れこんだ甲多が目を開ける。
「……爆発の衝撃で穴が空いたのか……」
甲多は風を起こして穴から上がる。
「……なんで……!?」
冷獣の前に美加が倒れていた。
「まさか……僕を庇って!?」
自分よりも傷が酷い美加を見て、甲多は察した。
「ガアアアア」
冷獣が、まるで猫がボールで遊ぶかの様に美加を転がす。
「やめろ!!」
「ガウ?」
冷獣は気に止めない。
「やああーめええーろおおー!!!!」
甲多は怒りに任せてクナイを降り下ろした。
「ガアアアア!?」
冷獣に風の斬撃が襲い掛かる。
「美加!!」
甲多は美加に駆け寄る。
「……甲多……?」
「待ってて。すぐに治してあげるから」
甲多はクナイをリストバンドに戻すと、治癒術を使う。
「ガアアアア」
冷獣が襲い掛かる。
(間に合わない!!)
「ガアアアア!!!?」
冷獣が倒れる。
「続けていろ」
「誰?」
「治癒に集中していろ」
「ガアアアア!!」
「やはりキサマ等は邪魔な生物だ。とどめをさす」
「ガアアアア!!!?」
冷獣が叫びながら消滅した。
「終わったよ、美加!!」
「ありがとう……甲多」
美加は甲多の肩を借りて立ち上がる。
「あの。助かりました!!」
甲多が礼を言う。
「早く離れろ。騒ぎになるぞ」
「はい」
甲多は背中にお辞儀した。




