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抹殺師  作者: 碧衣玄
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風の初陣

「うーん。止みそうにねえな?」


 雁斗は自室の窓から、降り続ける雨を見ていた。


「雨が降ると憂鬱になっちまうな。気晴らしに部屋の掃除でもするか」


 雁斗が散らかっている物を片付けて、掃除機をかけていく。


「雁斗さん。別に言ってくれれば、僕が掃除するのに」


「世話になりっぱなしじゃいからな」


「そんな気を使わなくていいのに」


「させてくれよ」


「分かったよ」


 甲多は自分の部屋に入った。


「わりと綺麗にしてあるから掃除が楽だ」


 雁斗はサッと掃除機をかけ終わると、黒いベストの胸ポケットに入っている一枚の写真を見る。


「写真の中では元気そうにしてるけど、実際、今はどうしてるんだ?」


 写真を裏返す。


『僕は元気に暮らしてる。居る国は違うけど、僕達の絆は繋がっている。今度、帰国する時はゆっくり話をしよう。風太』


「ゆっくり話を、か。両親の都合で海外に引っ越すと電話で聞いたときは驚いたが、本当に元気ならそれでいいさ」


 雁斗は写真をしまうと、下に降りる。


「おばさん。喉が渇いてしまって」


「遠慮しないでいいのよ? 好きなときにどうぞ」


 甲多の母親は雁斗に麦茶を渡した。


「……ひとつ訊いてもいいですか?」


「何かな? 雁斗君」


「旦那さんは滅多に帰らないみたいですけど、何か理由が有るんですか?」


「あれ、甲多から聞いてないの? 家の人、海外に単身赴任してるのよ」


「……頻繁には会えないんだ」


「でも別に寂しくはないわよ。連絡はくれるし、年に何回かは帰ってくるしね」


「なら良かったです。生きているのに会えないまんまは勿体ないです」


 雁斗は思ったままを言った。


「優しいのね、雁斗君は」


「さあ? 俺、自分じゃ分かりませんけど」


 雁斗は麦茶を飲み干すと、リビングのテレビを観る。


【いま降っている雨は、今日は止まないでしょう】


「ああそうかい。止まないか」


 雁斗が肩をおとす。


「……!」


 雁斗は窓を見る。


「この気配は……冷獣!」


「雁斗君、こんな雨にどうしたの?」


「おばさん! ちょっと行ってきます!」


 雁斗は外に出た。


「どうしたの!?」


「雁斗君が雨の中を出掛けちゃったのよ!」


「分かった。僕が連れ戻してくる」


 甲多は傘を差して、雁斗を追いかけた。


※ ※ ※


「……なんでこんな場所に!?」


 空き地に冷獣が居た。


「こんな人目に付く場所に現れやがって!」


 雁斗のリストバンドが変化する。


はええトコ、勝負ケリつける!」


 雁斗は飛び掛かる。


「ガウゥゥゥ」


「吼えてろ!」


 雁斗の一撃が決まる。


「ガウゥゥゥ!」


 冷獣は体を振りながら雁斗を威嚇する。


(効いてねえ!?)


「雁斗さん!」


 甲多が追い付いた。


「甲多!? なんで来た!」


「雁斗さんを連れ戻しに来ただけだよ」


 甲多はリストバンドを変化させる。


「お前には無理だ。俺の攻撃も効いてねえ」


「僕だって抹殺師になったんだよ? 無理かどうかは……やってみなくちゃ分かんないよ!」


「ガウゥゥゥ!」


 甲多のクナイが冷獣に突き刺さる。


「ガウゥゥゥ?」


「……駄目なの!?」


「……こうなりゃあ……使うしかねえか」


 雁斗の抹殺器が光だす。


「抹殺斬!」


 雁斗は冷獣を斬りつけるが、冷獣はビクともしない。


「ガウゥゥゥ!!」


 冷獣は雁斗を叩きつける。


「ぐはっ!」


「雁斗さん!!」


「……あーやっぱりだ。抹殺斬を使った反動で身体が動かねえ……!」


「ガウゥゥゥ」


「させないよ!」


「ガアァァァ!」


 甲多のクナイが深く刺さり、冷獣が暴れる。


「うわあああ!? 暴れないでよ!」


 クナイが抜けず、甲多が冷獣に振り回される。


「……このままじゃ、甲多が……やべえ」


 雁斗は起き上がろうとするが動けない。


(どうしたら? ……そうだあ!)


 甲多はクナイをリストバンドに戻すと、わざと冷獣に振り飛ばされる。


(この距離なら!)


 甲多はリストバンドを再びクナイに変化させると、冷獣に向かって勢いよく投げた。


「ガアァァァ!!!?」


 冷獣はもがき苦しんで倒れこむ。


「……やったの……?」


「なっ……!?」


 冷獣が、内側から攻撃されたかのように血飛沫を撒き散らしながら消滅した。


「僕が、やったの?」


 甲多が震える。


「……平気か? 甲多」


 動けるようになった雁斗が甲多に近寄る。


「う……ん。ちょっと整理がつかなくて……」


「ピッ!」


 冷獣から解放されたすずめが飛び立った。


「甲多。お前はよくやった。ご苦労さんだ」


 雁斗が甲多に肩を貸しながら傘をさす。


「ありがとう、雁斗さん」


「さっさと帰ろうぜ」


(内部からの攻撃……。甲多の風の力か?)


 雁斗と甲多は家路に向かった。

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