「我等の闘争 〜麻薬のネズミ編・Epilogue〜」
フロアを揺らしたあの夜のLIVEから、少しだけ時間が経った。
ステージには「YOU(優)」の文字はどこにもない。
優は、ZENGENとして、そして優ですらない“新しい別名”でマイクを握り、
「boo life」を世界にぶちかました。
あの夜、
- 優の喉からこぼれた一行一行が
- 八年前に地面に崩れ落ちた“あの日の自分”と
- 今ここに立っている“新しい自分”を
一本のマイクケーブルで繋ぎ直していった。
「麻薬のネズミ」と呼ばれた過去。
逃げ場のない檻みたいだった街。
自分で自分を罰し続けていた日々。
全部を、ビートとライムで“言葉”に変えていく。
否定でもなく、美化でもなく――ただ真実として。
その中心には、
「boo life」で歌ったあの彼女への想いが、
静かに、でも確かに燃えていた。
> 「風で揺れる木々やflower
> 奇跡のhour 感じたまま
> 胸の奥で優しく風が吹く
> そうbooはまるでnirvāṇa」
客席のどこかで、booが笑っていた。
deepなblueの髪がライトに反射して、
その笑顔は、本当に何よりまぶしかった。
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LIVEの映像と音源は、すぐにタカシの陰ならね努力により世界へと放たれた。
配信プラットフォームの海を、
「boo life」は一つの小さなボートみたいに漂っていく。
ある小さな国の、さらに小さな街の、
通学路の途中にある古いアパートの一室。
そこで、一人の大人になった“幼なじみ”が、
何気なく開いたプレイリストの中でその曲と出会う。
「……あれ、この声、どこかで……」
イントロのキックが鳴り始める。
ラップが乗る。
日本語と、あの頃ガキみたいにふざけて混ぜていた英語とが
不器用に、でも確信的につながっていく。
幼なじみの脳裏に、
あの日の河川敷がゆっくりと立ち上がる。
夕焼け
チープなスピーカー
コンビニの袋
安いソーセージ
いつも持ち歩いたPC
何度も同じ話を繰り返す幼なじみの声
それを「しゃーねぇな」と笑い飛ばしてくれた幼なじみの声
気づいたとき、
幼なじみの頬には、涙が一筋だけ落ちていた。
「…バカだな、お前。
でも、やっぱり、カッケェな」
誰に届くか分からない、世界へのリリース。
でも、たった一人に届いてほしかった“あの日の幼なじみ”には、
ちゃんと届いた。
その瞬間、
宇宙のどこかで、地球君の青が、少しだけ濃くなった。
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そして――物語は「闘争」から、「日常」へと静かにフェードアウトしていった。
優は、小さなキッチンで味噌汁をあたためながら、次の曲のフックをメモ帳に書いている
鈴は、仕事帰りにお気に入りのカフェでノートをひろげ、「boo life」の続きみたいな日々の幸せを箇条書きにしている
セイヤは、通勤電車の中でイヤホンから流れる「boo life」を聴きながら、スマホのメモに「今、やれること」を一つずつ書き足している
ゆうすけは懺悔堂で今日のテーマと食材を自分自身と向き合い仕込んでいる
誰も、世界を救ってなんかいない。
誰も、ヒーローにはなっていない。
でもみんな、自分の“今”を、自分の名前で生きている。
そのミニマムで平凡な日常こそが、
かつて「麻薬のネズミ」と呼ばれた魂たちの一番壮大な革命だった。
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東京のある夜。
タカシの部屋。
机の引き出しのいちばん奥から、くしゃくしゃになった一枚の写真が出てきた。
あの日の河川敷。
- まだ何者でもなかった自分
- 無防備に笑っている幼なじみ
- 安っぽいスピーカー
- そして、夕焼けに照らされた細い川
タカシは写真をじっと見つめる。
そこには、あの頃はまだ気づけなかった“約束”みたいなものが写っていた。
「ちゃんと、生きるからな」
誰に向かってでもなく、
自分と、写真の中の全員と、
そして地球君に向かって、心の中でつぶやく。
ゆっくりと、口元に笑みが浮かぶ。
涙じゃない。
後悔でもない。
“今ここにいる”自分を、ちょっとだけ誇らしく思えた、静かな微笑み。
窓の外では、
風で揺れる木々やflowerが、
相変わらず、何もなかったかのように揺れている。
地球君は、その全部を見守りながら




