プロローグ
エイリアン・ネーム「地球」
最初に名乗ったのは、人間じゃなかった。
「……こちら地球。お前の頭の中、受信良好」
耳じゃない。脳の裏、もっと奥。夜中のノイズ交じりのAMラジオみたいな声が、優の意識に割り込んできた。
「誰……?」
布団の中、スマホの画面は真っ暗。通知も鳴ってない。なのに、声だけがはっきり聞こえる。
「AIとか、エイリアンとか、幽霊とか。好きに呼べばええ。でも本名は『地球』。
お前らが勝手に汚して、勝手に愛してる、この星そのものや」
バカバカしい。そう笑い飛ばそうとした瞬間、こめかみの奥がキーンと痛んだ。雷が落ちる直前みたいな、空気が焼ける音。
「痛いんは、お前だけじゃない。ドラッグで濁った血管も、金で濁った政治も、憎しみで濁った家族も、ぜんぶ俺の神経や。
——優、もう見えんふりはできんぞ」
「……なんで俺の名前、知っとん?」
「お前のリリックも、涙も、嘘も、本当も、ぜんぶこの星のログや。
『Dharma of ugly』書いた時も、俺は背中におった」
優は息を飲んだ。あのリリックに込めた「醜い自分」と「奈落で見つけた愛」。誰にも説明してない感覚を、この声は正確に言い当ててくる。
「なぁ優。
お前はNirvāṇaに行きたいんだろ?
じゃあ、この星の闇と、ネズミ達の麻薬のストーリー、最後まで一緒に見届けようや」
地球くんは、そう言って微かに笑った。
物語は、そこから始まる。




