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『狼獣人に“番”認定されました』 獅丸虎太郎 × 羽白晴臣 #3

##3

****


夜。


「晴臣」


低い声。

それだけで、背筋がぞくりと震えた。


発情期の熱で、頭がぼんやりする。

でも、一番駄目なのは、虎太郎の匂いだった。


近づかれるだけで、身体の奥が勝手に熱くなる。


「こたろ……♡」


虎太郎が、ゆっくり晴臣の首筋へ顔を埋める。

深く息を吸われた。


「……帰ってきた匂い」


低い声。


その直後、喉がごろ、と鳴る。

獣みたいな音。


でも、もう晴臣はそれを怖いだけの音だとは思わなかった。

虎太郎が安心した時の音だと、知っている。


「っ……勝手に落ち着くな♡」

「無理」


鼻先が、肌を擦る。


首筋。

耳。

肩。


執着するみたいに何度も匂いを確かめられて、晴臣の肩が小さく震えた。


「晴臣、熱い」

「発情期、だから♡」


「知ってる」


また喉が鳴る。

近い。


音も。

熱も。


呼吸も。

全部近すぎて、腹の奥がきゅっと疼いた。


****


虎太郎の腕が、晴臣の腰を抱え込む。


強い。

逃げ道が消える。


「ぁ……近♡」

「近くないと落ち着かない」


即答。

虎太郎が、晴臣の肩口へ額を擦り寄せた。


大型獣だった。


「お前、今日ずっと他の雄の匂いついてた」

「図書室で話しただけだろ♡」


「嫌」


低い声。

耳がぴん、と立っている。


「俺の匂い、薄くなる」

「だから、そういう狼理論を当然みたいに言うな♡」


「狼だから」


真顔。

晴臣は睨もうとした。


でも、その前に首筋へ浅く歯が立った。


「ぁっ♡」


熱が弾ける

晴臣の足がびくっと震えた。


「こたろ……噛むな♡」


虎太郎は少しだけ動きを止めた。


「嫌か」


その問い方が、前よりずっと慎重だった。

晴臣の胸が熱くなる。


「……嫌じゃ、ない♡」


虎太郎の目が暗く揺れる。


「なら、噛む」


「宣言すんな♡」


また甘く噛まれる。

そのあと、舌でゆっくり痕をなぞられた。


「っ……やば♡」

「晴臣、声かわい」


「うるせ♡」

「もっと聞きたい」


「聞かせねぇ♡」


強がった瞬間。

耳を軽く噛まれた。


「ぁっ……♡!」


身体が跳ねる。


「み、み……♡」

「ここ弱い」


「ちが♡」

「嘘」


耳元へ息が落ちる。

それだけで、腰から力が抜けそうになる。


悔しい。

強気でいたいのに。


匂いを嗅がれて。

抱え込まれて。

噛まれるたび。


身体が勝手に虎太郎へ寄っていく。


****


虎太郎の尻尾が、ゆっくり晴臣の脚へ絡んだ。

逃がさないみたいに。


でも、ただ閉じ込めるだけじゃない。

寒い夜、図書室で包まれた時と同じ温かさがあった。


「っ……お前♡」

「晴臣、震えてる」


「ちが♡」

「また嘘」


低い声。

そのまま、鎖骨へ深く噛み跡を残される。


「ぁ……♡!」


足から力が抜ける。

晴臣の指が、思わず虎太郎の服を掴んだ。


「こたろ、ばか♡」

「ん」


「そういうの、ずる♡」


虎太郎の耳がぴくりと動く。


「何が」

「囲い込み方が♡」


「晴臣が来た」


虎太郎は、短く言った。


「俺が勝手に閉じ込めたんじゃない」


晴臣の胸が、どくんと鳴る。

以前、自分で言った。


群れに入れられるんじゃない。

自分で入るのだと。


虎太郎は、それを覚えている。


「……そういうとこだぞ♡」

「何が」


「ずるいって言ってる♡」


虎太郎は少し考えた。


「好きだから」


即答。

心臓が熱くなる。


****


「晴臣」


低い声。

喉が鳴る。


「俺の群れ」


その言葉が、胸の奥へ落ちた。


「っ♡」


虎太郎が、さらに深く抱き込む。

胸が密着する。


熱い。

匂いも。

体温も。


全部混ざる。


「こたろ……♡」

「ん」


「近い♡」

「もっと近くする」


そのまま、首筋へ何度も頬を擦り寄せられる。

安心する場所を確かめるみたいに。


「晴臣、落ち着く」


低い声。

その言葉がずるい。


「お前……♡」

「ん?」


「反則♡」


虎太郎が、少し目を細めた。


「何が」

「そんなふうに言われたら♡」


晴臣が息を飲む。


「……逃げられねぇだろ♡」


その瞬間。

虎太郎の喉が、嬉しそうに低く鳴った。


「逃げるのか」

「逃げねぇよ♡」


虎太郎の目が揺れる。

晴臣は顔を赤くしながら、虎太郎の肩を掴んだ。


「俺が選んだんだから……ちゃんと、そこは覚えとけ♡」


虎太郎は、ゆっくり頷いた。


「覚えてる」


そして、晴臣の喉元へ唇を押し当てた。

ちゅ、と音が鳴る。


そのあと。

深く噛まれた。


「ぁっ……♡!」


身体が跳ねる。

腰が抜ける。


でも、虎太郎の腕がすぐ抱え込む。


逃がさない。

落とさない。


「晴臣」


耳元。

低い声。


「甘い」


喉が鳴る。

尻尾が絡む。


匂いが近い。

全部、虎太郎で埋め尽くされる。


「こたろ……♡」

「もっと俺の匂い覚えろ」


首筋へ顔を埋められる。


深く。

何度も。


耳元へ落ちる熱い呼吸。


「ぁ……っ♡♡」


身体の奥が、じわじわと熱を帯びる。


頭が白くなる。

でも、不安はなかった。


虎太郎の腕の中にいる。

それだけで、晴臣はもう逃げ場を失っているのに、同時に帰る場所を見つけてしまっていた。


****


「晴臣」


虎太郎の声が落ちる。


「ん……♡」

「俺の番」


その言葉に、晴臣の身体が大きく震えた。


「っ♡ 言い方……♡」

「違うか」


虎太郎の目が、不安そうに揺れる。

晴臣は息を乱しながら、虎太郎の頬に触れた。


「違わねぇけど♡」


虎太郎の耳が立つ。


「でも、俺は物じゃないからな♡」

「知ってる」


即答だった。


「晴臣は晴臣」


あまりにも真っ直ぐな声。


「俺の群れで、俺の番で」


虎太郎は、少し言葉を探す。


「俺の、大事なやつ」


晴臣の胸が詰まった。


「……そういうの、ちゃんと言えるようになったな♡」

「晴臣が言えって言った」


「言ったけど♡」

「だから言う」


虎太郎が、晴臣を深く抱き込む。


「大事」


その一言で、身体の奥が一気に熱く弾けた。


「っ……やば♡」


虎太郎の肩を掴んだまま、晴臣の身体が震える。


「晴臣」


低い声。

喉が鳴る。


「俺の」


耳元。


「離れないで」


「っ♡」


完全に、崩れた。


その一言で、晴臣の理性は甘く弾けた。


匂い。

熱。

声。


全部、虎太郎でいっぱいになる。


「こたろ……っ♡♡」


虎太郎が、嬉しそうに目を細めた。


「かわい」

「今、それ言うな♡」


「無理」


そのまま、群れへ囲い込むみたいに、何度も晴臣を抱き締め続けた。


****


しばらくして。

晴臣は虎太郎の腕の中で、ぐったりと息をしていた。


虎太郎の尻尾が、まだ脚に絡んでいる。


「……尻尾」

「ん」


「ほどけ」

「嫌」


「即答すんな」

「落ち着く」


「俺は捕獲された獲物か」


虎太郎は少し考えた。


「番」

「そういう問題じゃない」


晴臣は呆れた声を出した。

でも、尻尾を本気でほどこうとはしなかった。


温かい。

安心する。


そう思ってしまう時点で、もうかなり負けている。

虎太郎が、晴臣の首筋へもう一度鼻先を寄せた。


「……帰ってきた匂い」

「それ、さっきも言った」


「何回でも言う」

「重い」


「軽くできない」


晴臣は小さく笑った。


「知ってる」


虎太郎が顔を上げる。


「晴臣」

「何」


「明日も帰ってくるか」


その声は、少しだけ不安そうだった。

晴臣の胸が、静かに熱くなる。


この狼は強い。


怖い。

大きい。


でも、自分がいなくなることだけは、本気で怖がる。


「帰るよ」


晴臣は言った。


「お前の隣、俺が選んだんだろ」


虎太郎の喉が、低く鳴った。

今度は止めなかった。


晴臣は、その音を聞きながら、虎太郎の胸へ額を寄せる。


「ただいまって言ったら」

「ん」


「ちゃんと、おかえりって言えよ」


虎太郎は、少しだけ目を細めた。


「おかえり、晴臣」

「今じゃなくて」


「今も言う」

「本当に重いな、お前」


「うん」

「そこは否定しろ」


虎太郎は晴臣を抱き締め直した。


「晴臣がいるから、いい」


その声が、胸の奥まで染みた。

晴臣は顔を赤くしながら、虎太郎の背中へ腕を回す。


「……俺の狼」


虎太郎が固まった。


耳が立つ。

尻尾が揺れる。


「もう一回」

「言わない」


「晴臣」

「言わない」


「俺の狼」


虎太郎が自分で言った。

晴臣は顔を真っ赤にした。


「自分で言うな!」


虎太郎は嬉しそうに笑った。

その笑い方が、孤独だった頃の狼とはまるで違っていて。


晴臣は、少しだけ泣きそうになった。


「……隣、いてやるよ」

「ずっと?」


「調子に乗るな」


「ずっと?」

「……ずっと」


虎太郎の喉が、幸せそうに鳴る。

晴臣は今度こそ、それを止めなかった。








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