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『親友の距離感、最初からバグってました』 白峰匡 × 黒瀬千隼 #3

##3


****


夜。

ベッド。


ゲーム画面は、まだついたままだった。


リザルト画面。

負けたのは匡。


でも、コントローラーを放り出した本人は、全然悔しそうじゃない。


「千隼」


匡が近づいてくる。

ソファで肩が触れるくらい自然に。


昔から変わらない距離で。


ただ。

今は、その距離にちゃんと名前がある。


同居人みたいな親友じゃなくて。

一緒に帰る相手。


これから先も、同じ家でゲームして、飯を食って、寝落ちする相手。


「……何だよ」


千隼が少し身構える前に、匡のキスが落ちてきた。


「っ、ぁ……♡」


深い。

舌を絡められるたび、呼吸が熱くなる。


千隼は眉を寄せた。


「……長ぇ♡」


「千隼が逃げないから」

「逃がさねぇみたいにするな♡」


匡が笑う。

昔からだ。


こいつはゲームで勝った時も、こういう顔をする。

嬉しい時、隠せない。


でも今日は、負けたくせにこの顔をしている。


「お前、負けたんだから悔しがれよ♡」

「千隼が隣にいるから、まあいいかなって」


「勝負への敬意がない」

「あるよ」


匡が、千隼の額へ軽くキスを落とす。


「でも、千隼に触れる方が大事」

「っ……そういうこと、急に言うな♡」


「急じゃない」


匡は当然みたいに言った。


「さっきからずっと思ってた」


千隼の顔が熱くなる。

こいつは本当にずるい。


昔から、ゲームの合間みたいな軽さで、人生の真ん中に置くような言葉を言ってくる。


****


「千隼、顔赤い」

「お前のせいだろ♡」


「かわいー」

「言うな♡」


額へキス。

頬へキス。


急がない。

それが逆に、落ち着かなくなる。


「……匡♡」

「ん?」


「今日、やたら甘くねぇ?」


匡が少し考える。


「久しぶりに二人でゆっくりゲームしたから」

「理由そこ?」


「大事だろ」


その言い方が、あまりにもいつも通りで。

千隼は力が抜ける。


たぶん、匡にとっては本当に大事なのだ。


ゲームをして。

くだらないことで言い合って。

リザルト画面を放置して。

そのまま隣にいる。


そういう何でもない時間が、匡にとっては恋の形なのだ。


「千隼」

「……何」


匡の指が、ゆっくり千隼の髪を梳く。


「こっち向いて」


その声が妙に優しい。

千隼が顔を向けると、またキスされた。


今度はゆっくり。

噛みつくみたいじゃなく。

確かめるみたいなキス。


「っ……♡」


指先が熱い。

匡の手が、千隼の腰を撫でる。


触れ方が、落ち着く。

悔しいくらい。


「……匡の手、安心する♡」


匡が止まった。


「それ反則」

「は♡?」


「嬉しくて理性なくなる」


千隼の耳が熱くなる。


「うるせぇ♡」


匡が笑った。

そのまま、千隼を抱き寄せる。


毛布の中へ引き込むみたいに。


「千隼、あったかい」

「お前がくっつきすぎなんだよ♡」


「充電中」

「ゲーム機みたいに言うな♡」


でも。

振り払えない。


匡の匂い。

体温。

胸へ耳を押し付けると、心臓の音が聞こえる。


昔から知っている音

ゲームセンター帰り。


寝落ちした夜。

泊まり込みで攻略した休日。


千隼の家のソファ

匡が勝手に飲んだ麦茶。


二人分になった歯ブラシ。

全部思い出す。


「千隼」


匡の指が、ゆっくり奥を撫でた。


「っ♡ ぁ……♡」


優しい。

なのに、ちゃんと気持ちいい。


「……ん♡」

「千隼、力抜いて」


その声だけで、身体が緩む。


悔しい。

昔からこの声に弱い。


「っ♡ 匡のせいで、変になる♡

「うん」


「否定しろ♡」


匡が吹き出した。


「無理」


また奥を撫でられる。


「ぁっ♡」


びく、と肩が震えた

匡が嬉しそうに目を細める。


「千隼、かわいい声」

「だから言うな♡」


「だって俺しか知らないし」


その言葉に、胸が熱くなる。

俺しか知らない。


昔からずっと。

こいつはそうやって、自然に特別扱いする。


「……匡♡」

「んー?」


「お前、ほんと昔からそういうとこある♡」


「そういうとこ?」

「俺を、当たり前みたいに特別にするところ♡」


匡の目が少し丸くなる。

それから、嬉しそうに笑った。


「だって千隼だし」

「またそれかよ♡」


「うん」


匡は千隼の指を絡め取る。


「千隼だから」


それだけ。

たったそれだけなのに。


千隼は、どうしようもなく満たされてしまう。


****


匡のキスが、少しずつ深くなる。


「っ♡ ん、ぁ……♡」


急がない。

けれど、逃がしてくれない。


昔からそうだった。

匡は適当に見えて、千隼のことになると変にしつこい。


ゲームの攻略も、千隼の機嫌も、千隼が素直になる瞬間も。

一度見つけたら、ずっと覚えている。


「千隼」

「……何♡」


「今日、ちょっと甘い」

「お前がな♡」


「千隼も」

「は?」


「さっき、俺の手が安心するって言った」

「っ、忘れろ♡」


「無理」


匡が笑う。


「セーブした」

「ゲームじゃねぇんだよ♡」


「でも覚えておきたい」


その声が、少しだけ真面目だった

千隼は言い返せなくなる。


匡の指が、また奥を撫でる。


「ぁっ♡♡」


身体が跳ねる。


「そこ?」


「き、くな♡」

「聞きたい」


「っ♡ ほんと、性格悪……♡」

「千隼が教えてくれないから」


「教えなくても分かってんだろ♡」

「うん」


匡が嬉しそうに頷く。


「分かる」


千隼の胸が甘く痺れる。

ずっと一緒にいた。


ゲームの癖も。

眠い時の声も。

照れた時の視線も。


匡は、全部知っている。

その上で、まだもっと知りたがる。


「千隼」


匡の声が少し低くなる。


「好き」


「……っ♡」


匡の指が、ゆっくり奥を撫でる。


その瞬間。

千隼の身体から、ふっと力が抜けた。


「ぁ……♡」


強がるのも。

煽るのも。


もう無理だった。

匡へ縋るみたいに抱きつく。


「っ♡ く、ま……♡♡」


胸の奥まで、甘く痺れる。


気持ちよくて。

安心して。

幸せで。


千隼は、匡の肩へ額を押し付けた。


「……も、無理♡」


匡が、小さく笑う。


「千隼、とろとろ」

「うるせぇ♡」


声に力が入らない。

匡が髪へキスする。


「ゲームしてる千隼も」

「ん♡」


「寝起き悪い千隼も」


キス。


「俺ん家みたいにくつろぐ千隼も」


またキス。


「全部好き」


千隼の目が熱くなる。


「……っ♡ ばか♡」


「泣く?」

「泣いてねぇ♡」


「でも声かわいい」

「うるせぇ♡」


千隼は、照れ隠しみたいに匡の肩へ噛みついた。


「いった」

「黙れ♡」


でも匡は笑っている。


楽しそうに。

幸せそうに。


その顔を見るだけで、胸がいっぱいになる。


****


「千隼」

「……何♡」


「今日このまま寝よっか」


千隼が目を瞬く。


「……は♡」


「何かもう、くっついてるだけで満足」


その言葉が、胸へ刺さる。


ああ。

こいつ、本当に。


ずっと俺といること自体が好きなんだ。


勝つとか負けるとか。

特別なイベントとか。


そういうものがなくても。

同じ部屋で、同じ画面を見て、同じ毛布に入っているだけで、匡は満たされる。


「……俺も♡」


千隼が小さく呟く。


「お前とくっついてんの、一番落ち着く♡」


匡が笑った。


「じゃあ一生こうだ」

「軽く言うな♡」


「軽くないよ」


匡の腕が、千隼を抱き締め直す。


「一生、ゲームして、飯食って、寝落ちして、千隼に怒られたい」


「最後おかしいだろ♡」

「大事」


「怒られたいのかよ」

「千隼がいるって感じするから」


千隼は、もう何も言えなくなった。

そういうところだ。


匡は、馬鹿みたいな言い方で、本気を混ぜてくる。


「……なら、ずっと怒ってやるよ♡」

「やった」


「喜ぶな♡」

「嬉しい」


匡が、千隼の髪へ顔を埋める。


「千隼がいる家、好き」


千隼の胸が、ぎゅっと締め付けられた。


「……俺も」

「ん?」


「匡がいる家、嫌いじゃねぇ♡」

「好き?」


「調子乗るな♡」

「好き?」


しつこい。

昔からそうだ。


こいつは、欲しい答えが出るまで待つ。


「……好きだよ♡」


千隼が小さく言うと、匡の腕に力がこもった。


「俺も」

「知ってる♡」


「もっと知って」

「重い♡」


「千隼限定」


千隼は笑ってしまった

笑った拍子に、また身体の奥が甘く疼く。


「っ♡」


「千隼?」

「見るな♡」


「見たい」

「ゲーム画面でも見てろ♡」


「今は千隼の方がいい

「っ……ばか♡」


匡がキスをする

今度は、すごく短いキスだった。


でも、その一回で胸がいっぱいになる。


****


そのまま。

毛布の中で抱き締められる。


ゲーム画面は、まだついたまま。

リザルト画面の音が、部屋の端で小さく鳴っている。


でももう、誰も見ていなかった。


「匡」

「ん?」


「ゲーム、消せよ」

「あとで」


「寝落ちするだろ」

「千隼が起こして」


「俺も寝る」

「じゃあ朝消す」


「電気代」

「怒られた」


「怒ってる」


匡が嬉しそうに笑う。


「やっぱ千隼いると落ち着く」


千隼は呆れたように息を吐いた。

でも、匡の胸へ頬を寄せる。


「……俺も」


小さく言った。


「お前が隣にいると、落ち着く」


匡の心臓の音が、少し速くなる。

それが分かって、千隼は少しだけ笑った。


「何、照れてんの」

「照れてる」


「認めるな」

「千隼にそう言われたら、そりゃ照れる」


匡の声が、毛布の中でやわらかく響く。


「千隼」

「何」


「おやすみ」

「……おやすみ」


「明日もゲームする?」

「する」


「勝つ?」

「俺がな」


「俺も勝つ」

「寝る前まで勝負すんな」


匡が笑う。

千隼も、つられて笑った。


昔と同じ。

でも、昔とは違う。


ゲームセンターで出会った時から、ずっと隣にいた。

それが今は、同じ家で、同じ毛布の中にいる。


親友より近くて。

家族より少し照れくさくて。


恋人で、夫夫で。

一緒に帰る相手。


「千隼」

「今度は何」


「明日、朝ごはん何食べる?」


千隼は目を閉じたまま答える。


「パン」


「卵も?」

「焼けるのかよ」


「頑張る」

「焦がすなよ」


「焦げたら半分こ」

「するな」


でも、たぶんする。

焦げた卵を見て文句を言って。


結局二人で笑って食べる。

そんな朝が、もう想像できる。


千隼は、匡の服を軽く掴んだ。


「……匡」

「ん?」


「明日、起きたらゲームの電源消せよ」

「そこ?」


「大事だろ」


匡が笑った。


「うん、大事」


そして、千隼をもう一度抱き締める。


「千隼」

「何」


「好き」


千隼は目を閉じたまま、少しだけ口元を緩めた。


「……俺も」


ゲーム画面は、まだ光っている。

でも、二人はもう見ていない。


毛布の中。

匡の腕の中。


昔から知っている体温に包まれながら、千隼はゆっくり眠りに落ちていった。


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