解語花(陽だまりで花は語る)
少夫人はこのところご不例につき、居所からお出ましにならない。──使用人たちが声を潜めてそう囁くのが、景家の朝の日課となりつつある。
嫁の最大の務めである、毎日の舅姑への挨拶も免除され、七夕からもう二週間近くにもなる。
今日ようやく儒医の兄が診察に訪れて薬を処方し、今は景廷毅が外院の書斎でもてなしているところである。
「大分落ち着いたようだけれど、初めての本格的な雨露期で阿蓉も不安だったでしょう。もっと早く私を呼べばよかったのでは?」
地坤の発情期は雨露期ともいわれるが、花采蓉のそれは、雨露どころか激しい雷雨の昏に始まった。
それを鎮めるために、景廷毅は翌朝の登庁直前まで妻を抱き、帰宅するとまたすぐに妻を求めた。
つまり七夕の節句──斎戒沐浴して身を清める日も、架子床の帳を下ろして淫事に耽り、翌朝まで出てこなかった。勤めこそ疎かにしなかったが、勤め以外の一切を疎かにして妻と交わり、その食事も湯浴みも自らの手で世話をした。
嵐の翌朝に花家から戻って今日まで──兄が往診に訪れるまで、夫以外に花采蓉の姿を見た者はいなかったのである。
「お冠のようだが、今回のことは、誰かの仕業では?」
地坤の発情期は、理性や情緒的なものに左右されるものではない。十月も夫の信香に靡かなかったのに、突然妻の体に、雨露期と呼ぶに相応しい淫靡な変化が訪れたことに、景廷毅は作為を感じていた。
何より、雷雨と節句──禁忌を二つも犯して大切な弟を閨に沈められたというのに、儒医の兄が鉄拳制裁を加えてこない。自ずと答えは出ているというものである。
「誰であろうと、一人の仕業ではないでしょうね」
鉄壁の微笑みで、花采琳はそれ以上の詮索を拒絶した。
一月前。来訪を請う丁寧な文をもらい、地黄の商談で訪れた景家で、花采蓉は趙梨雲と打ち合わせをしていた。
勿論簾と屏風越しで、周囲にはそれぞれ従者と侍女が複数控えており、礼節を保っての対面である。
大まかな取引の説明と確認を行い、不明点は互いに持ち帰ることにして、無礼とならないように速やかに辞そうとしたところ、不意に凛とした声が何気なく呟いたのだ。
「可憐な桃花の足元も、雨が降らねば固まることはないでしょう」
桃花の季節は、とうに過ぎている。
しかし、真意を見落とす花采琳ではなかった。かつての嫁ぎ先で、こうした女性特有のやりとりは熟知している。
子の有無で正妻の座は揺るがないが、襲う中傷がどれほど容赦ないものか──その痛みを知る者同士、花采琳は趙梨雲の意図を正しく汲み取った。
雨露に濡れることがなければ、桃花は散るばかりで実を結ばない。手立てがあるなら、早く処方した方がいい──。
平庸の女性でありながら、今も「景哥」に裏切られたと葛藤し踏み出せないでいる地坤の少年の機微を拾う、細やかな観察眼の持ち主だと舌を巻いた。
ただ、彼女の言葉が純粋な好意であるとは思っていない。
地坤の正妻が跡継ぎを産み、また夫と睦まじければ、新たな側妻を迎える可能性は低下する。正妻を立てつつ奥向きを掌握するのに、妨げとなる要素を排除できるということだ。
つまり、正妻に対する夫の寵愛が盤石であることは、雇用先で地歩を固めるための、彼女の戦略なのだ。
親切なだけの「趙姐」は信用できないが、実利に徹する現実主義者は良き盟友となる。ただしそのことを、当事者以外── 花采蓉も景家の人間も、知る必要はない。
景家における弟の立場を強固なものにするために、毎月届ける清心丹の処方を変えたのは、七月の分からである。先月分を服みきり、新しいものを服用し始めたのが、たまたま嵐の日だったのだろう。
さきほどの診察では土産の菓子に目を輝かせ、すっかりいつも通りの食い気が勝る少年だったが、滴るような肌艶は目のやり場に困るほどだった。
雨露期をどのように過ごしたのか──どれほど夫に愛され満たされたのか、一目瞭然である。
その劇的な変化が、趙梨雲が懸念したように、これまで二人は仮初の夫婦であったことを図らずも証明していた。
ひとまず安堵しつつ、花采琳が思案すべきことは他にもある。
例えば、当主が嵐で留守であることをいいことに、地坤の聖域ともいえる花家で天乾が信香を撒き散らした、前代未聞の狼藉については、言い値で償ってもらうつもりである。
どう取り立ててくれようか、と完璧な美貌に完璧に美しい微笑みを載せ、花采琳は不埒な狼藉者をちらりと見遣った。
「ところで景大兄によると、あの日貴方は嫉妬に狂って阿蓉を問い詰めたとか。自分の兄と妻を信じられないとは情けない」
「妻が男と抱き合っていれば、誰でも不貞を疑うだろう」
嫉妬に狂ったことは否定しないのか、と口には出さず花采琳は呆れた。
その立派すぎる肩書きのせいで、何をしても衆目を集めがちな義弟は、昔から感情を表に出すことのない男だったはずである。
「悩みを聞いて慰めていただけと聞いていますよ。ならばその原因は、夫以外に考えられない。あの子を悩ませるような何をしたんです」
「言葉が足らなかっただけだ。今後二度と、他の男の出る幕はないさ」
「教えるつもりはないと?」
「どうしても知りたいか?」
腑抜けたように相好を崩す景廷毅、というこの世のものならぬ現象を目にしてしまい、花采琳は美麗な顔を顰めて手を払った。
「阿蓉を悲しませることさえなければ、夫婦の揉め事など興味はありません。──《《あの件》》が洩れたのかと思いましたが、そうではないようですね」
「名実ともに、陛下の覚えめでたき起居郎の妻、そして尚書家の嫁だ。相手が誰でも、どんな手を使っても、芳修を我が家から奪うことはできない。大宋の法と景氏一族が、必ずそれを阻むだろう」
弟を嫁に出すつもりはない、と実現不可能な条件とともに公言していた花家当主が、その言を翻して結んだ景家との婚姻。
きっかけは、景廷毅が勤務中に耳にした噂と、花家に届けられた文だった。
国舅──皇后の末弟が、また側妻を迎えるつもりらしい。しかも平庸でありながら、美しいと評判の花家の地坤に触手を伸ばしているという。
あの風流公子は美しいものの蒐集がご趣味だからなあ、と同僚が下品な口調で付け足すのを聞いた時、景廷毅は突然襲った鋭い胸の痛みに、その場に崩れ落ちた。すぐに太医が呼ばれたが、原因はわからず、疲れが溜まっているのだろうとおざなりな診断が下されただけだった。
皇帝の側に仕える起居郎が勤務中に耳にするということは、皇帝の耳にも入りかねない噂ということである。そして皇帝が「好きにするがよい」と口にしたら、起居郎は公式記録として書き残さなければならず、そのまま公認された決定事項となる。
嫁入り前の、美しいと評判の花家の地坤は一人だけ──景廷毅の番である。
《《あの痛み》》は、天乾の本能として、番を奪われる恐怖で心臓が悲鳴を上げたものだった。本当に奪われてしまったら、耐えかねて絶命すると確信するほどの痛み──。
嵐の中、二度目でようやくその意味を理解したが、一度目は、頑強な天乾の体に何が起きたのか、まったくわからなかった。ただ、これだけは強く確信した。
色好みの平庸などに、番を奪われてはならない。
すぐに父母に結婚の意思と国舅の件を伝え、花家当主にも事情を話して、景廷毅は水面下で花采蓉との婚姻を申し込んだ。
一方、本人の知らないところで弟がすでに誰かの番とされていることに、同じ地坤の兄は気づいていた。
その卑劣な相手を殺したいほど憎んでいた花采琳だったが、意外な人物が名乗り出て、花家が出す条件をすべて受け入ると明言し、また国舅という切迫した危機もあったため、渋々承諾したというのが両家の婚姻の背景である。
──衙門(官署)の噂とは別に、当時花家には、扱いに困る文が送られるようになっていた。
面識もない国舅から、たびたび宴へ誘われるのである。宛先は花家当主だが、招待されるのは兄弟二人で、冠礼もまだの末っ子が目当てであることは明らかだった。
国舅とその取り巻きによる、花采蓉の品定めの場に違いなく、丁重に断り続けていたところに突如浮上したのが、景家との縁談である。
番となった経緯と国舅の意図を知らされ、過去の過ちは寛大にもたった一発の拳で許してやってから、花采琳は未来の義弟と、その背後に控える有能な嫡母とともに、最短最速の冠礼および婚礼計画を立案・実行したのである。
「風流公子で鳴らす御方だけあって、筆遣いには骨気があり墨の潤いも素晴らしく、上品な金花箋にしたためられていましたが……しがない儒医には、呪物級の無用の長物でしたよ」
「まさか捨ててはいないだろうな」
万一先方から何らかの攻撃があった時、国舅の横暴を弾劾する根拠となるものである。
抜け目のない花家当主に限って、そのような下手を打つはずはない──そう思いつつ念を押す景廷毅に、花采琳は共犯者の微笑みで返した。
「勿論ですとも。棚に鍵をかけて、厳重に保管していますよ……毒薬とともに」
儚い見た目を裏切る強かな義兄を門まで見送り、内院の妻の元へ戻りながら、景廷毅は口元をゆるめた。
睦み合いながら、今朝ようやく聞き出した妻の本心が、あまりに愛おしく健気だったことを思い出したためである。
あの嵐の中、突然妻から突き付けられた、体を許す代わりの精神的な絶縁状──その理由は、双方の誤解と、妻の愛情の裏返しだった。
夫に嫌われているかもしれないと義兄に相談し、慰められていたところを夫に見られ、不貞を犯す妻だと思われて傷ついたこと。
糾弾する顔は別人のように冷酷で恐ろしく、夫が地坤を嫌い、生母の話題を避ける理由に思い当たったこと。──どう飛躍したものか、かつて夫の生母が不義を働いたと思い込んだのだ。そのせいで家廟に位牌を置いてもらえないのだ、と腑に落ちたのだという。
確かに、嫡子を産んだ功ある香妻の位牌が家廟に置かれない理由など、姦通や著しい不孝、刑事罰を伴う犯罪くらいしか考えられないため、彼の思考の飛躍も一理あるのだが。
一年近く一緒に暮らしても、基本的な信頼関係すらも築けていなかったことに、妻は打ちのめされ、その結果があの爆弾発言だった。
これ以上好きな人に嫌われないように、地坤の義務は果たして、距離を置こうと思ったのだ、と花采蓉は夫の胸に顔を埋めたまま訴えた。
何故そうなる──と呆然とする一方で、この妻の誤解は、思い込みだと笑い飛ばせるものではないとわかっていた。
生母と、彼女が象徴する地坤という生き物を、景廷毅が嫌悪していることは事実であり、態度に滲み出ていたのかもしれない。そしてそれを妻が感じ取り、穏やかだと思い込んでいた日々にもひっそりと胸を痛めていたのだとしたら、それは夫の過失である。
ただ──生母が不貞を犯したのなら、その方がよかった。傷つくのは、彼女とその息子だけだからだ。
しかし彼女は愛されない恨みを、あの寛容な嫡母に向けた。──巫蠱という、死を免れない大罪をもって。
自身の居所から呪いの人形が見つかった時、気丈な嫡母は狼狽えることなく自身の居所と屋敷全体をそれぞれ封鎖し、一切の人の出入りを禁じて、事件の漏洩を完全に封じた。
内々に綿密な取り調べが行われ、言い逃れが破綻した犯人は、とうとう観念して自白した。景惟清は薛氏の父を密かに呼び、罪人を遠方の荘園に一生幽閉することで合意した。
事が露見すれば、罪人は斬首となり、景氏だけではなく薛氏一族も、官職に就いている者は罷免され、その名節は世代を跨いで永遠に失われる。いくら娘を溺愛していても、庇える罪ではない。
表向きは病気療養として、ひっそりと荘園に送られた一年後、景廷毅の生母・薛氏は首を吊り、果てた。
怨気そのものの名を記した位牌を家内に置くことを、景惟清は許さなかった。裏に鎮鬼符を貼った上で、無縁仏を弔う寺に密かに預けたと聞いているが、景廷毅が確かめようとしたことはない。
物心ついた時から、美しいばかりで何一つやさしい思い出のない生母の生き様に興味はなく、その末路に同情の余地はなかった。そもそも、育ててもらった記憶がない。今の景廷毅を形作ったのは、生母の空白を埋める以上の、血の繋がらない嫡母の無償の愛だった。
地坤だから、愛されるわけではない。
花采蓉を妻として、そのことがよくわかる。父が、あの海のような嫡母一人を愛する理由も。
枕を交わしながらの睦言には、まったくもって相応しくなく、いつか話す日が来るとしても、今ではない。ようやく手に入れた番──愛しい妻を慈しむ以外、費すべき時間はなかった。
妻の居所に戻ると、花采蓉が腰を庇いながら戸口まで迎えに出る。
実家でも、兄や遊びに来たその学友を子犬のように出迎えていたから、彼にとって特別なことではない。しかし心身ともに結ばれた後では、そこには自然と甘い空気が漂う。
二週間にも亘る房事のせいで、歩みが少々覚束ないのが、哀れで──色っぽい。声が掠れ気味なのも、風情があって大変良い。
「お見送りありがとう。……二哥は何か言ってましたか?」
大人になったことを肉親に知られて面映いのか、診察の場では口数の少なかった花采蓉である。
恥ずかしそうに頰を染める末っ子の初々しさに、兄と夫は平静を装いつつ悶えていたのだが、幸いなことに本人は知らない。
「何も問題はないそうだ。阿慎が会いたがっているそうだから、後で顔を見せてあげなさい」
「はい、景哥」
景哥から景大人に格下げされ、かと思いきや一気に霄郎へと極まった夫への呼び掛けは、また振り出しに戻っている。霄郎は、特別な時のとっておきなのだそうだ。
確かに人前で使うには親密すぎて礼節を問われるが、景哥というのは、男と見られていないようでいただけない。
「せめて『郎君』と呼んでみないか」
「はい、郎君」
照れて戸惑うかと思いきや、すんなり口にされて、提案した方が戸惑う。
しかも透き通った笑顔のおまけ付きである。子供の頃から我慢強く、我が儘など滅多に言わない花家の末っ子がこの顔をする時は、何かある──長い付き合いでそれを知る景廷毅は、まずは労わりながら、妻を榻床に横たわらせた。
自身は向かい合わせで椅子に座り、目顔で促すと、悪びれることなく「欲しいものがあるんです」と打ち明けてくる。
婚家から送られた結納品と実家から持たされた嫁荷のおかげで、かなりの個人財産を持つ妻である。その上、実家の教えもあり贅沢を好む性質ではなく、何かをねだられたことはない。
晴れて真の夫婦となり、定情信物が欲しいと思ったのなら、実に可愛らしいことであり、無理をしてでも叶えなければ夫の面目に関わる。景廷毅は鷹揚に訊ねた。
「遠慮せず言ってごらん。何が欲しいのかな」
「相国寺北側の土地と建物」
遠慮せず、花采蓉はすぱっと答えた。──こういうところは、間違いなく次兄の薫陶を受けている末っ子である。
しかし口にしたのは、甘さを包含した贈り物から掛け離れた単語である。通常であれば、定情信物には香囊や玉佩などの、相手に身に着けてほしいものを渡すのだ。
羊脂白玉は無理でも和田白玉なら、半年分の給料を注ぎ込めば最高級の玉佩が手に入る。それを二つに割り、契りの証として互いに肌身離さず身に着けるのもよいか──などと浸っていた夫は、雅びさの欠片もない妻の要望に、瞬きを繰り返した。
「土地と……建物?」
「貧しい人向けの無料診療所を作りたいんです。修武から戻って、ずっと考えていて……地黄の他にも薬草が手に入るでしょう。福田院に寄付するのもいいけれど、景家が運営する診療所で使ったら、もっと徳を積めるのではないかと思って。二哥も協力すると言ってくれたし、僕も見習いとして働きたい。いつか立派な儒医になって、困っている人と、景家の役に立ちたいんです」
相国寺の北側は、寺の施薬院がある落ち着いた庶民街である。朝は施粥に貧民が集まるため、病人がそのまま診療所に足を運ぶ自然な動線を確保できるし、施薬院と連携することも可能だ。
十一も年下の妻の望みが、二人の絆ではなく、景氏一族の積徳と公共の福祉であることに、夫は言葉を失った。
一族は一つの大きな「気の器」であり、運命をともにする。
強烈な陽の存在――天乾の高官を輩出することで、一族の福気は劇的に消費され、反動で強い陰が生まれてしまう。その状況を改善するために、これまでも景家は私財を投じて貧民救済に努めてきた。しかしそれは、ただ資金を提供するだけだった。
花采蓉は、自身を投じて一族の徳を積もうとしている。
四歳から見守ってきた小さな子供は、末っ子特有の幼さを残しながらも立派に成長し、民に尽くすことで婚家の運命を修正する賢妻となっていた。
出水芙蓉──水面から顔を出したばかり、咲き初めた瑞々しい水芙蓉のごとき、人の手で歪められることのない清らかさ。
彼の生まれ持った美質には、淀みを浄化する力がある。栄光という強い光を放つ分、深い陰も内包してきた景家の暗部を祓う、陽だまりに咲く花。
感謝を伝えるためにそっと手を握ると、妻は夫の手に手を重ね、うれしそうにきゅっと握り返した。
「あとね、見習いをもう一人入れたいんです。その人の住むところを景家に用意したくて、……いいですか?」
「見習いを入れるなら、私に心当たりがある。──のどかな田舎で楽隠居を決めるなど早すぎる、と常々思っている男がいてね。幸い儒学の基礎はできている。花家でしごいてもらえば、数年で一人前の儒医になるだろう」
儒医を目指す妻を補佐するために、都合の良い男がいる。科挙に備えて五経を修めており、儒医となれば一族の積徳はさらに捗り、堂々と本家に戻り息子と暮らせる男だ。
かつての放蕩のせいで、正妻として嫁いでくれる令嬢はいない。しかしいずれ息子が科挙を受験する際、そして婚姻に備え、嫡母となる女性が必要な男である。
景大夫人が描く景家の未来図には、長男も趙梨雲も重要な要素として含まれていた。
儒医を目指し家を空けがちになる嫡子の正妻を、長子の正妻が支える。名家の家政を差配でき、阿慎の母となる覚悟を持つ者に、その座は与えられる。
趙梨雲はその能力と覚悟を持つ者として、景家に迎えられた。側妻というのは偽りで、妻を嫉妬させたい息子の計画に、呆れながらも景大夫人が乗った形である。
当の趙梨雲も面白がって側妻役を演じ、正妻の少年を内面からも支えていた。
「義兄上のことでしょう? 僕たち、以心伝心ですね!」
喜びで満面を飾り、花采蓉が声を弾ませる。光が差すような、この上なく尊い光景に、景廷毅は目を細めた。
兄が戻れば、景家の偉大な女主人が望む未来の情景は描き上がり、彼女は長年握り続けた筆をようやく置くことができる。
栄光を掴む者。
寵愛を得る者。
すべて失い、これからまた積み上げる者。
新たな道を拓く者。
愛し愛される者。
それらが集まり、重なって、新たな家族となっていく。すべての棘は抜け、残った傷もやがて癒えるだろう。
そして、そのきっかけを作るのは、花采蓉──景廷毅の、陽だまりに咲く解語花だった。




