表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏の灯火  作者:
21/21

偽りの太陽

 路地裏が夕陽の裾に覆われた頃、カランと鈴が鳴り、1人の青年が入って来た。

 その青年には見覚えがあった。

 屋台通りで、少し前から店を始めていた青年だ。

 『陽の欠片』という商品を取り扱っていて、一気に人気店となっていた。

 薄切りにした黒パンをカリカリに焼く香りが、かなり食欲を誘うので、私も何度誘惑に負けそうになった事か…

 ただ貴重な『太陽の実』を砕き、塩とハーブを和えて仕上げるとの事で金額が上がり、自分ではギリギリ手が出せそうにないので諦めていた。

 流石に銅貨5枚はつらい。

 パンが銅貨1枚、スープが銅貨2枚。

 朝・夕で銅貨6枚…

 はぁ…

 疲れた笑顔を載せながら、青年を対面の椅子へと促し、お茶を淹れる。


 お茶を差し出し、言葉を紡ぐ。

「ようこそ。今日はどのような運命をお探しですか?」

 青年は、お茶を飲まずに話し始めた。

「占い師さん。今日は景気付けに占って欲しいんだ!俺の屋台を、王都でもやってみないかって誘われてさ!ゆくゆくは、店も持てるかもしれないって言われてさ?これで頼むよ!」

 そう言うと机の上に数枚の銅貨を置いた。

 …まずいパターンかもしれない。

 背筋に冷たい汗が浮かぶ。

「わかりました。…少々暗くなって来ましたので、灯りを用意した方がよろしいですね。お茶を飲みながら、お待ち下さい」

「わかった。おかわりもできるんだろうか?」

「はい。なくなりましたら、注ぎます」

 それを聞いてすぐお茶を飲み始めた。

 なかなかの、ちゃっかり者だ。


 魔法石のランプを机に置き、空のカップにお茶を注ぐ。

「ありがたい。凄く飲みやすいな…」

 お茶だけで終わる気配がする…

 タロットを引き寄せて、再度確認をとる。

「あなたの商売の行方についての運勢を視ればよろしいですか?」

 2杯目をゆっくり味っていた青年が同意する。

「そうそう。結構人気が出てね?『太陽の実』を使ってるから、少し割高になるけど、どうしても食べたいって皆が言うからさ。王都に出ても人気になると思ってね。でも、いきなり王都ってなるとひよっちまってさ…」

 1つ頷き、タロットを広げる。

 円を描くように、ゆっくりと混ぜ1つにまとめる。3つに分け、再度1つにまとめる。

 ワンオラクル。


 青年に選んで貰った1枚をめくる。

「…太陽の逆位置です」

「えっ?太陽の逆…?って事は、沈むのかい…?それは、俺が沈む…終っちまうってことかい?」

 まさにプチパニック。ヒスパニック。

 …こほん。

「札からは、見たままの直接的な意味ではなく、注意や警告として伝えてくる事が多いのです」

「そうなのかい?」

「はい。この場合は、急いで物事を進めない事。1度冷静になり、計画を見直す事を伝えてきています」

「えっ?」

 キョトン顔でこちらを見返す青年。

 小声で「計画?」と聞こえてきた…

 もしかしたら、計画事態考えていなかったのかもしれない。


「えっと…もし、このままで行ったらどうなるんだい…?」

 問いかける笑顔が引きつっている。

 …商売が繁盛しているから、このまま行っても大丈夫だとの自信もあっただろう。

 商売は勢いが大事だと聞いた事もある。

 しかしタロットから伝わるイメージが悪い。

「札から伝わる感覚ですが。あなたの屋台は、時をかけずに繁盛したと思います。その成功を過信し過ぎて、次への期待が大きくなります。本来よりも過剰な熱意を込めて行動した結果、持久力の低下や活動の低下…失敗する事もあるかもしれません。人生のどん底を経験する事も考えられる…と伝わってきます」

 ヒュッと青年は息を吸い込んで、カードを凝視している。

 警告のカード。

 私の感情を映し出していないか、多少心配ではあるが…

「計画を立てれば…大丈夫なのかな…?」

 青年は、カードを凝視したまま訪ねてくる。

「それは、私にはわかりません。今視たものも、未来の可能性の1つです。ここから先は、あなたの行動1つ、感じた事1つで変わって行くものですから」

「…そうなのかぁ」

はぁ…と溜息をついて、お茶を飲む青年の目に疲れが滲んでいる。


 お茶を飲み干してポツリポツリと青年は話し始めた。

「…これは騙してる事になると思うんだけど…『太陽の実』って、実は簡単に手に入る物なんだよ…」

 …衝撃的な告白に、表情筋を総動員させる。

 危うく1日の食費を手放す所だった…いやいや。その話、是非とも聞きましょう。

 穏やかに、ゆっくりと頷く。

「サンフラワーから採っていてね?種を剥くのが、凄く大変なんだ…ハーブも自力で調達しないと、配合がバレて真似されちまうだろ?」

 …なるほど。ひまわりの種だから太陽の実。

 それを砕いているから、太陽の欠片…

 自力調達なら、手間暇かかっている物だ。

 割高な銅貨でも仕方がない…とも言えない。

 やっぱり、ちょっと高い。

「サンフラワーの種も夏しか取れないし…ハーブもいつでも手に入る訳でもないし…」

 ストックが切れたらそれまでのお話ですね。

 そりゃ計画立てないと、あっと言う間に終了のお知らせが届きますよ…

「俺、王都に行って…どうする気だったんだろ…」

 ホントそう。どうする気だったの…

 破滅の行進する所じゃないの…

 おかわりのお茶を用意して、青年に差し出す。


「…太陽は朝昇り、日中は皆を照らし、夜は必ず沈みます。サンフラワーも夏の間輝きますが、秋の花に順番を譲ります。1日中ずっと、1年ずっとは難しいでしょう」

 青年は黙ってカップを見つめている。

「…親の畑の横でサンフラワーを育ててたんだ。飯だけじゃ足りなくて、種を持ってくネズミを見てたら…旨いのかな?って、真似してみたら…旨くてさ…コレは売れるって思い付いて…でも材料が無くなれば、終わりだよな…」

 いや、ホントそう。そうとしか言いようがないんですが?

 青年は今、我に返ったのだろう…黒歴史的なアレじゃなかろうか…

「考えが足りな過ぎだ…何?俺?…舞い上がり過ぎだよな…?恥ずかしぃ…もぅ、埋まりたぃ…」

 机に突っ伏す青年。

 恥ずかしのはわかったから、ここで埋まらないで貰いたい。

 実家の畑で、心置きなくゆっくり埋まって貰いたい所だが…

 余りにも素直過ぎる青年に、同情心が湧いてしまったようだ…少しお節介を焼いてみようか。


「…サンフラワーは夏だけですが、他の木の実はどうですか?」

 机からゆっくりと顔を上げる青年。

「木の実?クルミくらいしか思い浮かばないよ…」

 一般的なのはクルミだが…

「リスが松の実をかじっているのを見た事はありませんか?」

 再びのキョトン顔。

 …どことなくハムスターを思い出させるのが心配である。

「松の実って、あの硬いヤツ?パッと開いてる?食う所あるの?」

 カサカサになったマツボックリは実が落ちた状態だが、実が詰まっている内に採れば、木の実の1つだ。

「はい。開く前には実が詰まっていますから、それを使う事も可能かもしれませんね。他にも、カボチャの種の中身もどうですか?」

「えっ?あっ?ちょっと待って!今、覚えるから…!」


 栗や栃の実に似た物の、灰汁抜き方法などなど。色々考え付くままに話していく。

「えっ?あれ貴族は食べてるの?!」

「あの渋いヤツ、灰で食べれるようになるの?!」

 …教えたのだから安く譲れとも言えず。

「私が知っている限りはここまでですね…色々試してみるのも良いかもしれませんよ?」

 そう伝え終えると、目を輝かせた青年は祈りを捧げる様に私を見ていた…

 …やり過ぎたか。

「俺の考え不足でした…これからは、あなたの教えを胸に、日々を過ごして行きます!」

 …信者を1名増やしてしまった様子。

 供物として、出来の良い物を供えてくれると嬉しいとは、とても言えないけども。

「…よい結果がでるといいですね」

「はい!」

 …こんな日があっても良いのかもしれない。

 元気に去って行く青年の姿に、そっと溜息をついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ