表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第7話 鬼紀伝オンラインⅠ

 時は遡ること12年前。

 桜が舞う季節に、まだ無名であったゲーム会社から“鬼紀伝”というオンラインゲームがリリースされた。


 プレイヤーは初期ログイン時に鬼側と討伐隊側のどちらに属するかを選択し、その後のストーリーを進めていく。

 オープンワールド型PvPオンラインであるため進め方、楽しみ方には違いがあれど、鬼は討伐隊のNo.1を、討伐隊は鬼のNo.1をそれぞれ倒すことがこのゲームの目的であった。


 初めはゲーム好きのみの間で徐々に広まっていったそれは、珍しい2つのシステムによって一気に世の中に名前が知れ渡ることとなる。


 それは、コマンド構築システムとリトライなしのデスシステム。


 プレイヤーは敵を倒したりミッションをクリアして手に入れた経験値によってスキルを構築していくが、その際に自由にシステムに干渉しステータスの組み換えや作成を行うことができるため、多彩で多岐に渡るスキルやステータスを持ったプレイヤーが生み出された。

 その自由度は戦略の幅を広げ、プレイヤーはより強く所属チームの役に立つ個人になろうとし、戦闘が激化していった。

 また、死んだらゲームオーバーというデスシステムにより緊張感やチーム間の連帯感が増し、戦略要素も含まれた鬼対討伐隊の戦争へと発展した。


 大学2回生であった鳥谷咲夜は、リリース初日にゲームをインストールし、討伐隊の初期プレイヤーとして参加していた。


「今のログインメンバーは、バベル…。タクトとシエルももういるのか。あいつら早ない?」


 バイトを終え自宅に帰った午後8時。

 数か月前から日課となっている鬼紀伝へのログインを済ませた咲夜は、文句を言いながらも口元には笑みを描いている。


 ゲームの中で知り合った彼らは、本当の姿は知らないもののすでに代えがたい仲間となっていた。

 テンポよくかわされるボイスチャット。ユニークな固有スキル。敵に息つく間を与えない連携プレイ。どれをとっても、咲夜には彼ら以上に息の合うプレイヤーはいないと思っていた。


「あ!お疲れ、ナイ君」


「ナイトやん!遅かったな」


 チームロビーに入った瞬間、ここ数か月で耳に馴染んだ声が飛び込んでくる。


「お疲れ。シエル。タクト。…あれ?バベルは?ログにはおるけど」


 自身のアバターの元まで来た2人の姿を、咲夜は画面越しにとらえた。


 金髪に青い目を持ったシエルと水色の目を持ったタクト。シエルは紺のローブに身を包んで今にも闇に紛れそうな雰囲気を出しているが、タクトは赤いローブに身を包みパッシブスキルとして設定しているのか光のオーラを発している。


 似たような様相を持った彼らは、同じ高校の同級生だと聞いたことがある。


「バベルは離席中だよ。ユニットメンバーからは抜けているから、ミッション行くなら勝手に行っておいてだってさ」


「ふーん」


 咲夜は画面上の視界の片隅で微動だにしないバベルのアバターを捉えた。

 黒い燕尾服のように裾の長いアウターに身を包み、これまた黒いズボンを履いた足の太ももには銃のホルスターが巻いてある。

 その目の前で手を振るアクションをしてみるが反応はない。


「どうするんや?ナイト。バベルがおらんのなら実質お前がリーダーや。ユニット権限渡すから今日どこ討伐行くか決めてくれや」


 咲夜が返事をする間も無く、タクトからの権限承認要求が送られてくる。咲夜は半ば諦めたように承認のボタンを押した。


 気の合いそうな仲間を集めてこの討伐隊チームを作ったのはバベルだが、ミッションに出るときのユニットリーダーはその時いるメンバーの中で一番レベルが高い人が担当すると決めていた。

 その方が行けるミッション内容が増えるからだ。


 つい最近始めた2人より自分のレベルの方が高く、何より年下である2人にリーダーを任せるつもりはなかったが、リーダーである分システムログに注意しスキル構築の負担分担やバランス調整など気にかけないといけないことが多くなるため、咲夜にとっては少し面倒くさい思いもあった。


「そうなあ…。割と暴れられるのがいいよなあ」


 どうせならそんな調整関係ないほど全員が全力を出せる場所を選ぼうと、咲夜はミッションリストを開いて吟味する。


「ふふっ。ナイ君って意外と脳筋だよね」


「お前らが何も考えずに大技連発するからだろ。特にタクト!」


「え?俺?」


 ナイトがビシッとタクトを指さすと、タクトはキョトンとした声を出した。おそらく画面の向こうでも、キョトン顔を浮かべているのだろう。


「タクトに言っても無駄だよ。ナイ君。こいつ、プログラム知識なんてほぼないんだから」


「知っとるよ…。なのに、スキル構築の腕はいいんよなあ。お前それどうやってんの…」


 経験値からスキルやステータスのシステム書き込みを行う際、ゲーム側のヘルプオプションはあるが、嫌でもプログラム知識が必要となってくる。

 強いプレイヤーであればあるほど、ヘルプオプションでできること以上の複雑なコマンドを組んでおり、バベルはそのような強いプレイヤーをチームに引き込んでいた。


必然的に、ナイトもシエルもタクトも、他のプレイヤーより討伐レベルは高い。


「なんか色々やってみたらできたわ」


 タクトは豪快に笑いながらナイトの肩をバシバシと叩いた。


「お前には何を言っても無駄っていうのは分かったわ…。あ、これ行くぞ」


「オッケー」


「早く行こうぜ!」


 咲夜の元に、シエルとタクトからの出撃準備完了のメッセージが届く。


 咲夜はワクワクした表情で出撃のアイコンをクリックした。


                      ***


“ジリリリリ。ジリリリリ”


1LDKの咲夜の家に目覚ましが鳴り響く。


「ふわああ。懐かしい夢見たな…」


 眠りから目覚めた咲夜は、ベッドから起き上がりながら目覚まし時計を止めた。時間を確認し、朝の支度を始める。


「あれは確かシーラと初めて会ったミッションの時か。タイムリーだな」


 身支度を終えた咲夜は自身のキーピングネットを腕に巻き、リュックを背負う。


「そしたら会いに行きますか。シーラ…佐藤壱葉先輩に!」


 咲夜は勢いよくドアを開けて外へと踏み出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ