第6話 彼らの目的
睨み合うウロボロスと咲夜の間に沈黙が広がる。
「なんだ?お前までだんまりか?お前らの大将、まだ力足りてないだろ。今の内に悪の芽は潰しておくに限るからな!」
咲夜は地面を蹴って駆けながら剣を振りかざす。その剣をラセツの身体めがけて振り下ろした。
“カキンッ”
甲高い音と共に、咲夜の剣が空中で止まる。
「ヤラセナイヨ」
先ほどと同じような一定の電子音。しかしどこか怒気を孕んだその声色に、咲夜は嬉しそうに笑みを深めた。
剣を振りかざそうとした先に存在するドーム状に広がるガラス。それはウロボロスによって生み出された強固な砦だった。
「やっと本気になったってか?だけど、こんなガードすぐに…」
咲夜が剣を握る力を込めると、大剣全体が赤いオーラに包まれた。
「おりゃあ!」
そのまま咲夜は力任せにウロボロスのガードを突き破ろうとする。が、予想外に強すぎるガラスは咲夜の行く手を阻んだままだ。
「俺ノ本気ヲナメルナヨ?俺ニトッテハ、ラセツヲ殺シタオ前タチガ悪ナンダヨ!」
ウロボロスは長い尻尾に緑色の光を灯し、身体ごと捻って衝撃波を飛ばした。
「うおっ…っつ!」
連続で繰り出された衝撃波は咲夜に直撃し、その身を吹き飛ばす。咲夜は受け身を取りながらも額に血を滲ませた。
「鳥谷さん!」
「大丈夫だ!動くなよ、五十嵐」
思わず咲夜に駆け寄ろうとする瑞樹に、咲夜は視線だけを向け止める。
「ふう…」
咲夜は額の血を拭った後に、戦いを楽しんでいるかのように口元に笑みを浮かべた。
「ご主人様を貶されて怒る心がお前にもあったんだな」
「ソンナ低俗ナ挑発ニハ乗ラナイヨ。オ前ハココデ殺ス」
「俺がそう簡単にやられると思うか?」
「昔トハ違ウ」
ウロボロスと咲夜が同時に構えを取ったその時。
「長引きすぎだ、ウロボロス」
ウロボロスの目の前に、光り輝く黒い羽根が出現した。
ユラユラと浮かぶそれは、意思を持っているかのようにウロボロスに語り掛ける。
「カラス…。邪魔ダ…」
ウロボロスが羽根を握りつぶそうとするが、羽根はヒラリとその手を躱す。
「作戦終了だ。早く戻れ」
有無を言わせない羽根に、ウロボロスがたじろぐ。
「カラス、デモ!」
「関係のないことはしない。そうだろ」
「アイツハ関係ナイコトナイジャン!」
「でも今回の目的はもう果たしただろ。行くぞ」
「チッ。命拾イシタナ、ナイト」
ウロボロスが殺意を収めると同時に、姿を現した時と同じように輪郭が歪んでいく。徐々に影へと戻っていく緑色の姿に、咲夜は焦った声を向けた。
「ま、待て!お前たちの目的は一体…」
完全に影へと戻ったウロボロスに安心したのか、羽根がヒラリと舞い咲夜の目の前に踊り出る。敵であるはずのそれに、咲夜はどうしてか動くことができなかった。
「我々の目的は、ラセツの力をバベルから取り戻すこと。そして、バベルの作ったこの世界を壊すこと…」
「バベルの作った世界…?」
咲夜の驚きに見開かれた瞳に、黒い羽根が映る。
「そう。それが我々の目的。鬼紀伝リバイバル」
「鬼紀伝リバイバル…」
「じゃあな、ナイト。また会おう」
「あ、おい!待て!」
咲夜はハッとしたように羽根に向かって手を伸ばすが、その手は宙を切る。顔を上げた先に、ウロボロスもラセツもすでにいなかった。
「くそっ。逃げられたか…」
悔しそうに顔を歪め、剣を地面に刺し沈める。その地割れの衝撃を受け、VRのフィールドはブンッという音と共に消え去った。
現実世界に戻ったネットワーク監視モニター室に静寂が広がる。
「…あ!通信障害は!」
五十嵐が静寂を破るように大声を出す。
その言葉に反射的に咲夜は通信障害のあった地区の監視システムを呼び出した。
全ての地区のシステム上に“正常”の文字が表示される。それに安心したように3人は息を吐いた。
「ふう…。とりあえず一件落着っすね…」
「ああ…」
瑞樹は苦い表情をしたままの咲夜を気まずそうに見つめた。
「鳥谷…」
カラスと呼ばれた羽根が残したラセツたちの目的。バベルの正体。鬼紀伝リバイバル。
自身の知らない事実に、咲夜は歯を噛みしめる。
「鬼紀伝リバイバル…。あいつらが言ったことが本当なら、今日の騒動は始まりに過ぎん。このままだと世界は…」
沈黙の先に続く言葉を想像し、瑞樹は喉を鳴らす。
「探すしかない。あの時、バベルが集めた仲間たちを…!」
咲夜は握りしめた手に決意を込めた。




