第5話 鬼紀伝リバイバルスタート
荒れた大地。深く曇った空。時々迸る電気の走ったような痕跡。
現実世界とは思えないそれは、咲夜の力によって構成されたVR世界だった。今その世界には、咲夜たち3人と事件の元凶と思わしき鬼が2体のみ。
「これは…。鳥谷さん一体なにしたんすか!」
周囲を見渡して現実世界でないことを確認した瑞樹は、咲夜の手に存在する赤い大剣に少しばかりおびえながら、焦った表情で咲夜を見つめる。
「鬼紀伝のシステムをちょっと借りて俺のイメージを抽出した世界を作り出した。ここなら、外への影響はない。…はず!」
「なんでそこ自信ないんすか…」
咲夜のまとまりのない語尾に瑞樹が呆れた声を発する。
「そんなの、そこの緑のに聞け。あいつのせいで、こんな荒廃した場所になったんだろうからな」
咲夜は顎をしゃくって、ラセツの背後に浮いている緑色の影を睨んだ。
「ソノ大剣、オ前、ナイトカ」
その影から電子音のような言葉が綴られる。
モヤモヤした影だった緑色は徐々に形を変え、長いしっぽに突出した口元、頭から生える2本の角へと姿を変えた。
「やっぱりお前か…。ウロボロス。てなると、やっぱりラセツで間違いないのか…」
自分で言ったとはいえ、改めて理解させられた現実に咲夜は冷や汗を垂らした。
「隊長」
瑞樹は縋るように孝也を見つめる。孝也は緊張を解くように息を吐いた。
「当時、プレイヤーたちは討伐隊側も鬼側もチームを組んで戦っていた。鳥谷がさっき言った鬼側最強プレイヤーと言われていたラセツ。そいつのチームの一人にトカゲのようなアバターの鬼、ウロボロスがいたはずだ。俺はそいつに会うところまで辿り着けなかったが…。鳥谷、そいつが…?」
「ええ。そうっす。緑色のウロボロス。ラセツの仲間で、フィールドを自由に操るスキル…。そして、俺の仲間を…タイガを殺した…!」
言った瞬間、咲夜は地面を蹴って飛びあがった。その瞳には、怒りが宿っている。
「ソードスキル!回天の舞!」
咲夜の大剣の剣先が変化し、鞭のような形態をとる。彼はそのままそれを振り回した。
赤い鞭が目の前にいるウロボロスの元へと真っ直ぐ伸びていく。
「ラセツ」
ウロボロスの一言で、ラセツが動き始め片手のみで赤い鞭を受け止めた。
「ちっ。…うおっと」
ラセツが掴んだ鞭を振り回す。剣を持っていた咲夜はそれに巻き込まれる形で宙を舞った。
「鳥谷さん!」
「フンッ。弱ぇなあ、力がよぉ」
咲夜は剣から手を放し、空中で一回転をしてストンと着地する。流れるように手を一拍叩くと、ラセツの掴んでいた鞭が消え失せた。
「ニガサナイヨ」
「ちっ」
ウロボロスが手を掲げると、咲夜を取り囲うように小鬼が出現し、そして一瞬で消えた。
「ナニ…!」
「消えた?」
小鬼がいた場所にはまるでブラックホールのように暗く、しかし星が散りばめられているようにキラキラとした輝きを持った穴が開いている。
ウロボロスと咲夜が驚愕の表情で見つめる先で、その穴も小鬼のように消え失せた。
「これは、シエルの…」
咲夜はハッとしたように周囲を見渡す。しかしそこに目当ての人物は見つけられなかったのか、再度眼前にラセツとウロボロスを捉えた。
そんな咲夜を孝也は不思議そうな顔で見つめた。
「どうした?鳥谷」
「い、いえ…」
「シエル、モ、イルノカ?」
「さあな。誰だか知らねえが、こっちの味方はまだいるみたいだぜ?ウロボロス。お前らの目的を教えてもらおうか?」
咲夜は再び手の中に剣を出現させ、剣先をウロボロスに向けた。