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四話目

 私はその日、謁見の間に呼ばれた。隣には国王様であるゼーダ様が玉座に腰掛けている。その背後には王子様であるアルフレッド様が、凛々しく立っていた。


「フローラ殿、すまんな。流石に一国の王妃。そなたに会いたいという話、無碍に断る訳には行かず……貴重な時間を……」


「ゼーダ様。お気になさらないで下さい。こちらこそ、国王様の貴重な謁見の時間を割いて頂いてありがとうございます」


 そして、そう答えた私の目の前には……


「フローラ……お願い! 三年前のあの日アナタを追い出したことは謝るわ! だから帰ってきてちょうだい!」


 私を三年前に追い出したソフィー様がいた。やつれて骨のような腕が見える。あの時の綺麗なお姿は見る影もない。


「ソフィー殿、開口一番どうしたんじゃ? 事情が全く飲み込めないのだが……」


 優しく語り掛けるゼーダ様に力を振り絞って声を上げるソフィー様。


「ゼーダ十五世! そんなことは無いでしょう! 痩せた国で有名だったこの国。ここ三年でこんなにも緑が溢れ、強国の一つに数えられるほどになったのに! その理由を知らない訳が無いわ!」


 ソフィー様は一息にそこまで語ると、肩を落として力なく呟き出した。


「それに引き換えバーデン王国は……木々は枯れ果て……家畜は死に絶え……農作物も取れず……大半の国民は去るか命を落とし……それも知らない訳が無いでしょう!」


 そして私をキッと睨みつけてこう言い放つ。


「それも全部コイツが!」


「ふむ。フローラ殿に帰ってきてくれと言いながらもコイツ呼ばわりとは……」


 優しい口調ではあるけど、ゼーダ様は心底お怒りになっている様子だった。


「あっ!」


「まぁ、どちらにせよ、一国の王妃、フローラ殿に会わせる頼みは断れないが、帰ってこいなど笑止千万、フローラ殿は我が国にとって大事なお人じゃ。その頼みは聞くことは出来んわ」


「フローラ! フローラはバーデン王国を見捨てるの!」


 私にそう訴えかけるソフィー様。そんなソフィー様に私はこう答えた。


「私はゼーダ王国を離れられません。だって……」


『あの子たちは私がまだお世話をしてあげないといけないのだから』と言おうとした矢先、アルフレッド様が口を挟んできた。


「何故なら僕と結婚して、この国の王妃になるからね」


 皆が見ている前でそんな事を言われてしまった私は焦ってしまった。


「えっ! ちょ、ちょっと! アルフレッド様! あの話はいつも考えさせて下さいと!」


「そう、断られてないからね。フローラが僕の妻になる可能性はまだまだあるって事。大丈夫、僕はいつでもいいよ」


「そもそも私とアルフレッド様では身分が違いすぎます! アルフレッド様は一国の王子、私は身寄りもないしがない庭師です。そんな結婚なんて……」


 その時、ゼーダ様が右手をすっとあげた。


「フローラ殿、一つ宜しいか?」


「な、なんでしょう?」


「そなた、今、身分が違うと言ったな? ならば儂から言わせて貰えば立場が違うのじゃよ」


「はい……?」


「儂らは国王であり王子じゃ。じゃがそなたはこの国の救い主じゃ。どちらが立場が上か、誰でもでもわかる」


「え……」


 アルフレッド様が頷いている。いや、アルフレッド様だけじゃない、この部屋にいる大臣や兵士たち皆もだ……


「我が国民に尋ねれば、全員が全員フローラ殿の方が立場が上じゃと答えるじゃろう。この国……そして国民にとって必要なのは儂らじゃなく、そなたなのじゃ」


「そんなことは……」


 狼狽える私にゼーダ様は優しく言葉を続けてくれる。


「現に国民との謁見の時間はほとんど全てそなたとアルフレッド様がいつ結婚してくれるのか? と聞かれてばかりじゃ。そなたも耳にはしておるじゃろう?」


「そ、それは……」


 そんな話は確かにアルフレッド様からよく聞くけど……まさか本当だったなんてことは……

 周りの人たちが皆、全力で頷いているところを見ると……ありえそう……


 と、優しく語りかけてくれていたゼーダ様は、今度はソフィー様に向き直って語り掛ける。


「と、言う訳じゃ。ソフィー殿、遥々おいで頂いて申し訳ないが、その頼みはゼーダ王国として聞くことは出来ん。お引き取り願おう」


「そ、そんな! じゃあバーデン王国は!」


 必死にすがろうとするソフィー様に対し、ゼーダ様は急に立ち上がり声を荒らげた。


「お引き取り願おうと言ったのが聞こえなかったのか! それとも我が国と一戦を交えるつもりか!」


「グッ! わ、わかりました……」


 その威圧感に怯え、フラフラとソフィー様は謁見の間を出ていった。そして扉が閉じられるのを確認すると、ゼーダ様は私に向き直り、また優しく語り掛ける。


「さて、フローラ殿。貴重な時間を割いて申し訳なかったな」


「いえいえ、そんなことはありません。こちらこそありがとうございました」


「そうかそうか、フローラ殿は本当に良い子じゃのう」


 満面の笑みでウンウンとゼーダ様は何度も頷いていた。そんなゼーダ様の後ろから、アルフレッド様が私に歩み寄ってくる。


「フローラ、これから庭園に行くのかい? もし宜しければついていってもいいかい?」


 アルフレッド様の申し出を断る理由なんて私には勿論無かった。だから、こう答えた。


「ええ、勿論です、アルフレッド様。それでは、あの子たちのところに参りましょう!」


 そう、まだまだ私にはやらなきゃいけないことがある。アルフレッド様の為、この国の為、そして、あの子たちの為に! もっともっと色々とお話を聞いてあげないと!


 そう思いながら私はアルフレッド様の手を取り、あの子たちの元へと向かっていったのだった。とても晴れやかな気持ちで!

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