サワヤマの回想 2
異世界に来てもつまらねえ日々を強制されてストレスを溜めていたオレにとって、突然の変化が起こる。
新しい越境者が来たからだ。
そいつは同じ日本人がいるからってケウシプスに来たらしい。
オレのことか。《レオン》のヤツも半分そうだったな。
アマエラが神託ってヤツで探しに行って見つけてきた。
アイツはオレが来た時も迎えてくれたが、神託なんてチートで見つけてたんだな。
心配なのは……間違いなくソイツもアマエラに惚れるってことだ。
日本人からしたら、異世界に来て最初に出会うのがハリウッド女優も真っ青の金髪巨乳の超美人だぜ?
そんなヤツが色々と世話をしてくれるんだ……100パー惚れるに決まってる。
オレからしたら面倒な話だ。アマエラはオレの女だ。絶対に渡したくないが……《レオン》並の強さのヤツだったら……面倒だ。
実際は心配する必要はなかった。
新しい越境者は女だったからだ。
心配して損したってやつだぜ。
まさか女だとはな。逆に興味も沸いてきた。
こっちに来る越境者ってのは、若いイケメンと決まってるらしい。自分で言うのもアレだがオレも顔でかなり得をしてきたからな。
その条件なら、女の場合は美少女が来るに違いないよな。
異世界で出会う同郷の若い二人。これはフラグあるだろ?
最終的にはソイツもアマエラもまとめて可愛がっちゃって……イイネ!
オレもついにハーレム突入かよ!
……なんて浮かれてたのは、そいつと会うまでだった。
《アジロ ユリコ》。17才。まさかのJKだ。
パッと見はお人形みたいに整った顔でムチャクチャ可愛い。
ショートカットで健康的なスタイルでニコニコしてて……でもバケモンみたいな女だった。
コイツのスキルはヤバイ。
コイツの魔力は異常だ。
たぶん戦ったら勝てない。……もしかしたら《勇者》でも無理かもな。
《聖女》
それがコイツのスキル。魔法特化型で大規模回復までこなす万能賢者タイプらしい……《弱肉強食》の評価は《超危険》だった……。
ちなみに《ユリコ》は最初っからオレなんて眼中に無さそうだった。
愛想よくニコニコしながらも馬鹿を扱うように冷たくあしらわれる。
誰に対しても自分の世界に閉じ籠ってる面倒なメンヘラ女かと思ってたら……《レオン》にだけは違った。
「デレ」一辺倒でべったり。青い目の王子様至高主義らしい。
異世界で出会う青い目の勇者様ってか。
気に入らねえ。オレをモブ扱いしやがって……。
いつの間にかケウシプス認定の《勇者の同伴者》だとさ。
おかげでオレの越境者ランクがまた下がった。
マジで勘弁してほしい。
《レオン》のヤツも満更でもない感じだと思ってたら……案の定、速攻でくっついて「私の勇者様」「我が聖女よ」などとやってやがる。
どこが《聖女》だよ……真っ昼間からギシアンやりまくってるくせによ。
《聖女》の名前から想像も出来ないのは性格だけじゃない。
馬鹿げた威力の魔法を使って魔物をぶち殺してるのを見て引いたわ。
魔物の命を消していくことに陶酔してる顔もな。
やっぱりコイツはヤバイ。
だが……めちゃくちゃ強い。
後々思い知ることになる出来事があった。
王都の東側に二日ほど馬車に揺られたら到着する《ケイルテン山脈》ってエリアがあって、山脈中腹の《ケイルテン遺跡》を境界にしたこっち側が人間の生活圏エリアなんだけど、そこで《暴走》が起こってしまった。
原因はオレと《レオン》が強引に《遺跡》を突破したことだ。
そこにはケイルテン山脈一帯を縄張りにしてた《角虎王》ってゆう馬鹿デカイ魔獣種の親玉みたいなモンスターが二匹いた。
番って言ってたな。たぶん夫婦ってことだろ。
ケウシプスの言い伝えで「出会ったら逃げろ」とあるような強力な上位の魔物だ。
その《角虎王》がオレ達に縄張りを荒らされたと思ったのかブチキレて暴れ回り、ケイルテン中の魔物が煽られて《暴走》した。
オレ達は結構苦労して《暴走》を押さえ込み、《角虎王》の一匹も追い返した。
《レオン》も結構やられたし、オレも《物質体再生》使いまくってなんとかって感じ。魔力も枯渇寸前で野営駐屯地に戻ったら……襲われてた。
《角虎王》は賢くて、1体がオレ達を押さえつけてる間にもう1体が本陣をついたらしい。
野営駐屯地は……どこもかしこもミンチみたいな死体だらけで地獄絵図だった……。300人程のケウシプス兵で構成された《遺跡》探索支援部隊が、《角虎王》が巻き起こす雷に焼かれ、《一角撃》で吹き飛ばされて殆ど壊滅状態だった。
そこには補佐でついてきたアマエラもいたし、《遺跡》初挑戦を控えて実地見学に来てた《ユリコ》もいた。
二人がヤられたかもしれない!……焦ったオレ達が本陣に駆けつけると……ミンチになった《角虎王》を前に涼しい顔した《聖女》がいた。
「この猫さんが兵隊さん達を酷い目に合わせたから……同じ目に合わせてあげたのよ」
いや……どうやってやったんだよ……。
ドン引きするオレの目の前で《ユリコ》が信じられない事を呟いた。
「……ちょうどペットが欲しいと思ってたのよね……。」
はあ?……なんだって?
「私の猫ちゃんになりなさい。《存在の証明》」
《ユリコ》から放たれた魔力を浴びて、ミンチになった《角虎王》が復活していく。
出来上がったのは……デッカイ肉の塊と、ちっこい猫……角の生えた猫だった。
この後、デッカイ肉の使い道が相談されたんだが……体の大部分が王都の人間の食用に消費されることが決まった気分はどんなもんだったのかな。角チビは悲しそうに鳴いてたが、《ユリコ》に《護衛四騎士》って能力で強制隷属をかけられて目から理性の光が消えていった。
「いい子ちゃんが手に入りました。どうですか《私の勇者様》? 」
オレをガン無視して《レオン》にミニチュアクーデグラをお披露目してるが、《レオン》ガクブルじゃねーの?……今回ばかりはオレ抜きでやってくれ。
「あれ?リアクション悪くないです?……あなたはどう?《サワヤマ》?」
「お……おう……可愛らしくなったんじゃねーすか……」
マジで勘弁してくれ。
そして……固まるオレ達の前で「混ざったらごめんなさい」とか言いながら兵士だったミンチを全部人間に戻しやがった。
次々に復活して起き上がっていく兵士達の肉体の回りに、白く輝く精神と魂の光が無数に浮かび上がった。
「自分の体だと思うのに入りなさい」
たぶん……何人かは肉体と魂がズレたはずだ。
後日何人かから戻す方法を探すのに協力して欲しいと泣きつかれた。
いや……知らねーよ……《ユリコ》に言えよ……。
ソイツらは何故か《ユリコ》が怖くて堪らないようで姿を見ただけで逃げていく。
やっぱりコイツが一番ヤバイ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから1度だけ人間相手の戦場で《越境者》揃って一緒に戦った。
ケウシプスは国土が海に囲まれてる立地的に国境問題が起こりづらいらしく、基本的に平和路線で戦争してないらしい。
だがある日、唯一国境が接してるギョッポって変な名前の隣国と戦争になった。
普段は資源問題でちょっと揉めてるぐらいらしいが、今回はお互いの国が何千人も投入するような大規模な戦闘になった。
ギョッポが一線を越えて来たからだ。
どうやらオレ達《越境者》が目的だったらしい。
オレ達欲しさに無理難題を吹っ掛けたあげく、首を縦に振らなかったケウシプスの使節団を皆殺しにしやがった。
その中には《ユリコ》が可愛がってる世話役の男の子の家族がいた。
絶望に泣き崩れる世話係の少年の姿を見てブチキレた《ユリコ》が戦場に行くと言って聞かず、当然《同伴者》である《レオン》もセットで行くことになった。
《越境者》トリオの内の二人が行くのに、オレだけ行かないってワケにはいかんでしょ?
ぶっちゃけ人間相手の戦闘ってのは力を見せつける機会で大好物だ。
だけど、戦争ってなるとちょっと構えるよな。
あんまり参加したくないなあ……ブチキレてる《ユリコ》が無茶苦茶しそうで怖いんだよなあ……。
そして戦場に立ったオレ達は、その日……初めて人間を殺した。
オレと《レオン》はちょびっとな。《ユリコ》は……越境者取り込みに失敗したあげく、その強さに縮み上がった敵兵の降伏を認めずに、総兵3000人を消し飛ばした。……一人も逃さずに皆殺しにした。
「死んでも許さない」
そう言った《聖女》は殺した魂をひとまとめにして、戦場になった湿地帯に生息してる鶏蛇魔獣の住処にぶちこんだ。毒性の沼地だった。
よくわからないが、人間としての転生の輪からハブったらしい。
その日から隣国界隈では《聖女》は《魔女》と呼ばれるようになった。
ケウシプスでも恐れられるようになった。
異世界の神様の教義からすれば《禁忌》ってやつを犯したらしい。
あの子も怖がって《ユリコ》の世話役から離れていった。
《ユリコ》は少しだけ寂しそうにしてた。
あんだけ無茶やったんだから当然だろ……別に可哀想とは思わねえ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ケウシプスの誇る《越境者》の三番手。
《勇者の仲間》で《聖女の部下》。
それが今のオレの称号だ。
……マジでつまらねえ。
そんな時だった。また神託ってのが出たらしい。アマエラが忙しく準備してる。
「オレも手伝ってやろうか?」
「……何がですか《サワヤマ》?……私は隠密部隊の訓練任務の指揮に行くだけですよ。」
嘘だね。最近手を出して仲良くなったオマエの部下から情報ゲット済みだっちゅーの。
新しい《越境者》。最近冷めてきたアマエラの熱を取られる直感がした。
冗談じゃねーぜ。
またバケモンみたいなスキル持ちに来られても困る。密かにギョッポのスパイと協定も結んでるんだぜ。邪魔になりそうなら売り飛ばしてやる。
《蜃気楼》で行けばアマエラの裏をかけるのも実験済みだ。戦闘能力が下がっちまうが……今のオレは《蜃気楼》の使役に熟練してる。まあ問題ないだろ。
何故か神託で予想された出現地点が曖昧で、散々探し回ったオレがソイツを見つけたのはアマエラが接触した後だった。
しかもお散歩宜しく仲良く二人旅でケウシプスへ向かってる。
あ?……アマエラめ……《家族誤認》まで使ってやがる!
この何時間かで何があったんだ!?
あの人間……アマエラの部隊の任務衣装来てる……《越境者》だよな?
……何かがおかしい。
《弱肉強食》でステータス情報を盗み見た時はなんかの冗談かと思ったぜ……。
クソみたいなステータスの……しかも40才の!おっさん!?
固有スキルは……無い? 越境者基本スキルセットのうち《道具創成》と《道具使用》だけ……なんだコイツ? 《アーテラ語学》も無いじゃないか。
でもコイツはアマエラとしゃべってるぞ?
アマエラからサングラスみたいな道具を受け取って楽しそうに話してる。
アレはアイツの大事なコレクションだろ? なんであんなヤツに?
『……ああ、アマエラさんの眼を見ているとたまにボーっとしてしまうことがあります。美しい眼をされていますよね……』
蜃気楼の欠片を飛ばして音だけ拾ったオレの耳に信じられない会話が聞こえてきた。
はあ?……このおっさんもうアマエラを口説きに入ってるのか!?
ふざけやがって……。
はあ?……なんだあのちっこい鳥……立体映像?
魔法……なのか?
はあ?……なんだこのおっさん……眼が赤い……。
魔物じゃ……ないのか?
アマエラは大丈夫なのかよ……。
《弱肉強食》の評価は《安全》になってるが……なんかヤバイ気がするんだよな……。
やったら……負ける気がする。
だが……だからってまた引き下がって大人しくしてるのか?
そんな生き方……もう我慢出来ねえ……。
オレは《鬼神》。戦ってこそのオレじゃないかよ。
つまらねえ毎日はうんざりだ!
いいぜ。やってやる。オレがシメてやる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くそおおぉぉっ!」
クソ鳥のコンビネーションに気を取られたオレは、クソみたいなおっさんの越境者モドキから放たれた電撃をマトモにくらって叩き落とされた。なんだよこれ!?……痺れて動けない……まさか《角虎王》の《暴風招雷》かよ!?
ちきしょう!魔力がヤバイが……最後の《物質体再生》!
『良かった……《電撃》は効いたみたいだな。もうそろそろ終わらないか? 』
なんだと……!?
『私はキミのスピードについていけないが……私の使い魔にとっては問題ないんだよ。』
そうだ……クソ鳥共がちょこまかうぜえクセにおっさんがノロマだったから先にぶった斬ってやったら……クソ鳥が急にパワーアップしやがったんだ……。
「使い魔」だと!?……たかが使い魔にこのオレが……バカな!
『キミの魔法程じゃないけどね。オレももう大丈夫だし……何より魔力にまだまだ余裕があるよ。』
シレッと回復してやがる……最初にぶっ刺してやった腹も無傷だよな……なんでオレがこんなおっさんに……許せるかよっ!
『キミが先に手荒な歓迎をして来たことは忘れるよ。だから今回は折れてくれないかな? オレは戦闘は趣味じゃないんだ。』
《物質体再生》で帯電も回復させたオレは……怒りに委せて《ゴトー》の首だけを狙って飛んだ。
「怒り」を糧にして《鬼神》は力を発揮するんだよっ!
殺到するクソ鳥共の進路を妨害するように最大限まで拡張した《蜃気楼》の防壁をぶつけてやる。
一瞬だけ時間が作れたらそれでいい! 後の事なんて知ったことかよ!
ノロマなおっさん……死ねぇ!
“物干し竿”に残った全ての魔力をぶち込んで突撃したオレの目の前には、変形してぶっとく膨れ上がった悪魔みたいな禍々しい腕を、水平チョップみたく構えたおっさんがいた。
そう気がついた瞬間、強烈な衝撃と痛みがオレの胴を通り抜けた。
『《蜃気楼》を使い魔の足止めに使って直接攻撃してくるしかないよね。それを待ってた。』
暴力を具現化したような一撃を食らってブッ飛ばされた瞬間におっさんの呟きを聞いた。
グルグルと回転した後、天地逆さになって地面に突っ込んで行くオレの視界の端っこに、ブッ飛んでいく何かが見えた。オレの下半身だった。
オレは飛びそうな意識の中、おっさんの打撃で真っ二つに引き裂かれて転がった自分を知った。
クソみたいなステータスのおっさんだ。ケウシプスに来ることになっても問題ないだろう。ついでに軽くシメて越境者としてのランクを上げとこう。そんな軽い気持ちで手を出したことを後悔した。
そういえば……アマエラと話してるのを見た時から……嫌な予感がしたんだよな……あんな風に眼が赤く光るヤツなんて……ヤバイ奴に決まってるって……。その予感を無視して《弱肉強食》の評価だけで判断したオレが馬鹿だったのか……。
朦朧とする意識の中で《物質体再生》が再生を行うために無理矢理体をひっつけようとしてるんだろう……ズルズルと地面を引きずられて動く感覚がある。
体は……たぶん治る……だがもう魔力が……。
混濁する意識の中で、ビリビリと響く巨大な魔力を感じた。
この《魔力》は……よく知ってる……。
これは……まさか……《ユリコ》?……。




