赤眼
オレ《ゴトー》は《南ヤーマーナ村》を出発しました。
目指すはケウシプス王との面会です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレとアマエラはヤーマーナ森林の縁を迂回するように続く街道を進んでいた。
時間は……多分……午前4時くらいかな? オレの感覚では早朝というよりはド深夜だ。そのド深夜からタミル老にもロップくんにもえげつないものを見せてしまった事になる。
若干の後悔と反省がある。自分でも薄々気がついていた。創成する道具のスペックは軒並み魔王基準であると。
前にも自己考察はしていたが、この世界に対してオーバースペック気味なのだ。所謂“無双物”の匂いがプンプン漂っている。
問題は……それがオレだけなのかということだ。
アマエラの説明では、越境者という存在が総じてバケモノじみたスペックの持ち主だと聞いてはいた。
越境時に貸与されるスキルと兵器がその理由なのだろう。
こっちの戦争に主力として参加し、戦況を左右する存在。何となく怪獣モノの映画をイメージした。越境者達はさながらゴ○ラのような存在なのかもなあ。
それに比べてオレはどうなのだろうか。
正規の越境をしたわけではない、いわばイレギュラーな存在だ。だから自分自身の立ち位置がわかっていない。
主役を張れるゴ○ラ級なのか、雑魚扱いのエビ○程度なのか、もしかしたら最強たるキン○ギドラ級に飛び抜けた可能性があるのか……。
正直……オレは自己評価が高くなかった。
怪獣のヒエラルキーで当てはめるならエビ○だと思っていた。
オレはいたって普通のおっさんであり、戦闘系のスキルを持たないからだ。
だから越境したこの異世界で生きる事に自信が持てず、利用できるモノを最大限に利用するスタンスで自己強化に努めたのだ。
しかしその結果が予想を超えた。
魔王から引き継いだ道具とスキルで創成した義手・義足・専用兵器・使い魔の全てがゴブリン程度なら瞬殺する性能だった。
おそらく遠距離戦闘用に創成した疑似魔法オーブもそれなりに威力があるハズだ。
それ以外の生身の部分は腹の出た中年男性でしかないのだが、それでも戦闘能力はなかなかのモノなのでは無いかと思う。
エビ○だって見方を変えれば、初代ゴ○ラやゼッ○ンを倒したあの男を葬った存在だ。
今のオレも、もしかしたら主役級の怪獣とタメを張れる存在なのかもしれない……。
などと、我ながらふざけた思考を進めている所をアマエラに引き戻された。
彼女はケウシプス王国に至る道中の計画を説明していたのだが、何となく聞いていないようなオレの雰囲気を察したのだろう。
かなり強引に会話を投げ掛けてきた。
「先程の説明で何かご不明な点でもありましたでしょうか? 」
えーっと……なんだっけ。
事実オレは彼女の話の殆どを聞き逃していた。
そのやり口がまともじゃなかったからだ。
アマエラは常にオレの視界に入るような立ち位置で動いてる。胸元をざっくりと見せびらかせて。併せて濡れたように怪しく輝く瞳から何かしらの魅了スキルも全開で浴びせてきている。オレを魅了した状態を維持して彼女の意図する方向に誘導する気満々だった。
この状況で受ける説明に意識を傾ける事などしたくなかった。
彼女のスキルの効果で状態が魅了となっているハズのオレがあまりにも反応が薄いとマズイかもな。デレデレに鼻の下を伸ばして尻尾を振るぐらいの方がいいのだろうが……正直、色気とスキルで首輪をつけようという姿勢が気にくわない。
しかし彼女は、ケウシプス王への大事な伝手であり、また魔王の因子を隠蔽する為の証言者として利用する計算をしているので疑念を持たれたくは無い……。
そうだ、魅了スキルに対する耐性が高い事にして、ステータスの状態を《魅了(弱)》に変更してしまおうか。
そうすれば惹かれながらも胸の谷間から目を反らす意思の強い紳士、みたいな感じで絶妙な立ち位置へと逃避出来るのではないか。
思い立ったオレはすぐに《エー・エー》を起動した。
即時行動が吉日ってね。
早速《隠蔽した飾り窓》で偽装工作を……。
その時だった。
「ご、ゴトー殿……創成魔法で何をなさっているのですか!? 」
腰のホルダーに装着した《創魔の魔術杖》を握りこっそりとスキルを発動させたオレに信じられない一言が飛んできた。
何故だ……何故スキルを使用しているのがバレた!?
アマエラが持つ隠密スキルの能力か?
それともオレが知らないだけでスキルを使用している目印でもあるのか?
もしかしてアーテラ人なら誰でも備えているような特性があったり?
「あ、あの……違うのですか? 眼が赤く変わられていたので、てっきり魔法を使用されているのかと……。」
…………何だって?
……今、何て言った?
聞き間違いで無いのなら……「眼が赤く変わって」、と言ったぞ。
驚きすぎてついアマエラに背を向けてしまった。
オレは……スキルを使用すると眼が赤くなるのか……。
越境するきっかけになったあのネズミ頭の魔王の赤い眼を思い返す。
十中八九アレが関係してるじゃないか。
気づかなかった……。
なぜならば異世界に来てから一度も鏡を、自分の顔を見ていないから!
しかもスキルを使用している時なんて言わずもがなだ。
まさかのまさかで失念していた……てゆーか、そんなもん気づくハズ無いわい!
これ……ヘタしたら魔王の関係者ってバレちゃうんじゃないか?
《エー・エー》!不味くないか!?
『A:肯定です:本件は関連付けて推測される要素となり得る可能性大と報告です』
マジかよおい……何で教えてくれなかったんだよ……!
『A:《エー・エー》の保持する映像情報は《使役者》が視認した情報のみにより更新される事実を報告です:本件を糧に後学を進行するべく《使役者》自身の外見情報の定期的な更新を実行することを提案です』
……ええ?……オレの責任なのかよ……。
オレみたいなおっさんになるとそんなに鏡を見たりしなくなるもんなんだよ!
てゆーか《ラボ》でのオレは《エー・エー》の分体で直接視認出来たハズじゃないか?
『A:《星幽体》の外観は当人の記憶情報により構築され顕現する物であることを報告です:《ラボ》来室時の《使役者》の記憶に存在しない外観要因は顕現に表面化していなかった事実も併せて報告です』
なるほどね……知らない情報を映すことは出来ないワケだな……これからはマメに鏡とにらめっこする癖をつけないといけないってことか……。
無理矢理納得しつつ振り返ると……真剣な眼でオレをガン見しているアマエラがいた。
なんか上手いこと説明して丸め込まないとマズイ。
ここは……困った時の神頼みしかないよなあ……。
ええい、押しきってしまえ。
意を決したオレは神妙な表情を演出してアマエラに語りかける。
『私は……私の眼は赤かったですか? 』
「え……は、はい……。」
『それは黒目の部分だけでしょうか? それとも眼球全体が赤く変化していましたか? 』
「え?……いや、あの……ぜ、全体です……。」
『それは……人間としてはとても恐ろしい外見になりますね。』
「あ、あの……。」
『アマエラさんはこのアーテラでこんな眼をした人間を見たことがありますか? 』
「え?……まさかそんな……ありません……。」
『では……そんな眼をした人間に近い存在を知っていますか? 』
「…………。」
怯えたような表情で押し黙ったアマエラを見て続ける。
『私は……貴方を見込んでお願いしたいことがもう一つあります。』
「……あ……な、なんでしょうか? 」
大きく深呼吸してアマエラの眼を直視する。
クレーム処理の鉄則を思い出す。
このタイミングでキラーワード投下だ。
『私を信じてほしい、ということです。』
「え?……。」
『私を……いえ、私にこの力を与えて、このアーテラにお遣わしになられた《導きの三柱神》様方のことを。』
「あ……。」
神、というキラーワードに理解、正確には誤解を進めた表情で頷くアマエラを見て、ケウシプスまでの案内と王への謁見の伝手を頼んだ時のことを思い出してくれたらしいと悟った。
『先ほどもお伝えしましたが……私はこの特別な力……《導きの三柱神》様方の御加護と呼べるこの創成魔法を秘匿する必要があるのです。もしかしたら……この赤眼のせいで色々と良からぬ誤解を生むことがあるかも知れませんが……この赤眼こそが《導きの三柱神》より賜った使命のために存在するものなのです。』
コクコクと鶏のように機械的に頷くアマエラを見て吹き出しそうになるが我慢する。
『もし私が使命を果たす度に人々の恐怖を呼び起こすことになるのだとしたら、それはとても不本意なことですね……何かいい方法があればいいのですが……さすがに眼を閉じて創成魔法を使用するワケにはいきませんしねえ。』
大袈裟に振りかざした“神の威光”にすっかり萎縮したアマエラが少し可哀想になったので砕けた雰囲気に換えて話しかける。
「あ、あの……ゴトー殿!……それでしたらばお役に立てそうなものを私は所持しております! 」
そういって隠密衣装のどこかしらから取り出してきたモノは……サングラスそっくりのモノだった。
『これは……太陽などの眩しさから眼を保護する為の色付き眼鏡……でしょうか? 』
多分“サングラス”なんて単語を翻訳機越しに放り込んでも伝わるか怪しいと思ったので説明的な表現をしたのだが……。
「ああ、ベーテラにもあるモノだとは学んだことがありますが、少し違います。コレは“グラサン”という名称の魔道具なんですよ。」
グラサンだと?
「コレは抑制の難しい魔眼を持った人の為にある魔道具なんです。」
魔眼だって?
「ええ、そういうスキルを持った存在がいるのですよ。これは広く知られた事なのでお伝えしますが、我がケウシプスにおいては“千里眼”を持つ兵士が一人と、“運命眼”を持った王族の方がおられます。どちらも稀有な存在なのですが……特に“運命眼”をお持ちのエーラ様におかれましては、まさに世界にお一人しかおられない究極の魔眼所持者なのです! 」
めっちゃテンション上がってるやないかキミ。
ハチ相手に急激にテンションを上げていたアマンダを思い出す。
意外に妹さんと似たとこあるね……。
もしかしたら魔眼に憧れてるとかでテンション上がってたりして。
オレは少し気になったので突っ込んでみた。
『そのようなモノがあるのですね……それで、どうしてその魔眼用の魔道具をアマエラさんが所持していたのですか? 』
ピシッという擬音が鳴り響きそうな勢いでアマエラが動きを止める。
『つまりアマエラさんも魔眼を所持して……では……無いですよね……。』
グルグルと挙動不審な動きを繰り返すアマエラの眼を見てオレは何となく察した。
コイツ……悪用してるな?
アマエラの持つ魅了スキルを想像してピンと来た。
例えば……占いのような効果を持つ何かしらの魔眼を持っていると嘘をつき、グラサンを外したら、対象はその眼を真っ直ぐに見るだろう。そのタイミングで魅了スキルを全開にしたら……かなりの確率で成功するんじゃないか?
それを行ってる証拠も無いし、仮に行っていたとしてもそれを悪用しているのはオレの直感でしかないが……。
今のオレはジー・エーの魔物料理のおかげで直感力が3倍に伸びている。
なのでかなりの自信を持ってアマエラにクギを刺してみた。
『……ああ、アマエラさんの眼を見ているとたまにボーっとしてしまうことがあります。美しい眼をされていますよね。それを隠すために必要なんでしょうか?……ああ、それとも……ゴーレム好きのアマンダちゃんと同じように、実はアマエラさんも魔眼大好きでその為の魔道具を収集していた……だったりして。』
ニッコリと微笑みながら嫌味を振り掛けてみた。
どちらがヒットしたのかわからないが、アマエラはその美しい顔に似合わない脂汗を大量に流していた。
もしかして……オレが勝手にイメージした魔眼憧れキャラもビンゴだったりして。




