戦闘準備
オレ《ゴトー》の目の前で魔導兵『ハチ』が格好よく変型しました。
変型ロボット的な存在は……男子の夢です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやああぁぁ!気持ちいいいぃぃ!モフモフしてるうぅぅ!!」
戦闘モードになって魔獣のような迫力を放つ姿に変貌した『ハチ』は……その獰猛そうな姿をクルリと縮めて地面に転がされ、腹の辺りからはみ出した体毛を喜びの絶頂に到達してヨダレを垂らしたアマンダにワシワシされている。
おいおい……何故そうなる……。
オレのプランでは戦闘モードに入ることで石鎧が分割して中身が拡張し子犬から狼サイズへと拡大する。
その際に隙間から房状の黒い体毛のようなモノが姿を表すのだが、この房は単純に毛っぽく見せる為のデザインで、正体は表面に体毛が映えた鱗だ。その鱗1枚1枚に対物理ダメージ・対魔力ダメージの強耐性がある素材を使用して創成しており、この内部パーツこそが『ハチ』の防御性能を担うモノになっている。
そして頑丈そうに見える石鎧部分の方は、実は防御目的ではなく、周囲の魔素を吸収して魔力に変換し活動エネルギーの補充を行う、ソーラー・パネルならぬマナ・パネルのようなモノだった。
これは勿論あっちの技術から着想して創成した。
オレは『ハチ』を創成する時に、オレから離れて単独行動を行う機会を想定していたので、活動エネルギーとなる魔力を自己回復出来る手段の確保が理想だった。
しかしデザインの問題で、背中にパネルを背負って歩かせるワケにはいかなかったので外郭にあたる鎧としてデザインしたのだ。
何故そんなあべこべな性能になったかと言うと、ひとえに『オレが変型ロボットを創りたかったから』の一点に尽きるのだが……。
流石に問題を感じたので石鎧部分となるマナ・パネルも出来る限り頑丈に創成してある。
結局、何が言いたいかというと、黒い房状の体毛は剣士の斬撃も魔術士の魔法攻撃も弾き返すような凄いモノで、決してモフモフワシワシされるために創ったのではない、ということなのだが……。
戦闘モードに入り、渋く「グルル……」と唸っていた『ハチ』は、アマンダの愛情攻撃を受け陥落寸前。地面に丸まり“へっへっ”とやりだしている。
いや、あの……これから戦闘になるんですけど……。
『アマンダちゃん……『ハチ』が困るから……解放してくれないかな。これからまた例の魔物達がこの村へ襲撃に来るのですよ? 』
しょうがなく声をかけて引き離す。
「なんだよ……どんな化け物かと思ったら只の犬ッコロじゃねえかよ……」
「正直……先程の姿の時とあまり変わらないよなあ……」
ロップとヤゲンの呆れたような声が響く。
あーあ……せっかく格好良く変型したのに……。
「クーン……」
ご主人の醸し出すがっかり空気を敏感に感じ取ったのか、それともいいように転がされ気持ち良さそうにワシワシされていた姿を恥じているのか、『ハチ』からも情けない鳴き声が響く。
先程の威厳が嘘のように消え去っているじゃないか……。
……アマンダ恐るべしだな。
ワキワキと指を動かし、爛々と輝く目で隙あらばモフモフを仕掛けようと狙っているアマンダの蕩けた表情を見て……オレは深く深くため息をついた。
なんだい……また戦闘になることに対して、密かに緊張していたのが馬鹿みたいじゃないか。
なんかほっこりしたわ。
そう思ってオレは笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結果的にアマンダのおかげで緊張はほぐれたが、ほっこりばかりもしていられない。
戦闘フィールドの準備をしないとな。
村人の家を回って、亜人と魔物が来るから家の奥に隠れるようにと呼び掛けに行ったヤゲンを除く3人と南広場へと進んでいく。
『ロップくん。頼みがあるのだが、南門を開けてくれないか。』
木の槍で補強された門を指差して反応を待つ。
「な!?……アンタ……馬鹿かよ!……折角俺達が亜人に浸入されないように強化した門なんだぞ!開けてどうする!?」
うーん……気持ちはわかるんだけどねー……。
あの程度の門じゃあ大猪の突撃で粉砕されると思うよ……と指摘するのは可哀想かな。おそらく一生懸命補強したんだろうしなあ。よし……ちょっとデモンストレーションをやっとくかあ。
《エー・エー》、アマエラがどこにいるか解るか?
『A:使役者の右後方200mの建物の屋根上に潜伏と報告です』
げ、村の中に入り込んで観察されてるのかよ……。
村の外で待機しておく話はどうなった?
暗殺者の身分で村に戻るつもりはないと言ってたくせに……。
この嘘つきめ……。
まあいいや。オーブは全部見せちゃっても構わんか。
スキルさえバレなければいい。
これから少しだけ捲き込む予定だしな。
オレは激昂するロップくんを制止するように、門を指差した《義手》の手を大きく振りかぶる。輪ゴム鉄砲でも撃つかのように拳銃型にして、門の手前5mの地面に照準を合わせる。
ここからは約50mってとこか。デモンストレーションにはちょうどいい。
人差し指のオーブに魔力を流し込み、グレネード弾タイプの疑似炎魔法を発射した。
ヒュインッ!……ドドッ!ボウゥッツ!!
オレの《義手》から放たれた炎の弾丸が空気を切り裂き、一瞬後には着弾した地点に炎の渦を巻き起こす。
少しのタイムラグで飛んできた熱風が頬を叩いた。
驚きに目を見開くタミル老。
キラキラした目でオレを見るアマンダ。
ポカン、と絵に書いたようなアホ面をして炎を見つめるロップくん。
流石!御主人!といった感じで兵器化した尻尾を猛烈にフリフリする『ハチ』。
ついでに遥か後方で屋根の上に潜んだ女暗殺者からも息を飲む空気が伝わってきた気がする。
フフンどーですか。
内心ではデモンストレーションが上手くいったことに安堵しつつ、アホ面のまま固まっているロップくんに向かってオレは告げる。
『私が魔法で射撃するためには亜人達の動線を限定した方が狙いやすいんだよ。それに、せっかく君達が補強した門を燃やしたくはないんだ。だから開けて欲しいんだけどね。』
戦闘に慣れた兵士然として言うオレに、コクコクと頷いた少年は門に向けて脱兎の如く走り出した。
やれやれだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、次の準備にかかろうか。
《エー・エー》、ゴブリン達の侵入口をこの南門へと誘導したいんだが、奴等はどんな状況で迫って来ている?
『A:索敵範囲の識別個体数は16体:前回と同じく大猪騎乗の小鬼騎兵1組+小鬼兵3体の組み合わせが3チームとプラス1個体を報告です』
『進軍位置は南入口に向けて東西から各1チーム:推定到達時間どちらも10分前後を想定です:また西側から迫るもう1チームは北入口に向けて進軍を確認です:こちらも推定接触時間は10分前後と想定です』
『また北入口へ向かうチームにプラス1個体である亜種ゴブリンを確認です』
ホブゴブかよ……ちなみに戦力とかってわかる?
『A:混在因子により戦力に幅があると報告です:例示するにスライム級から魔王級までです《使役者》』
げ、そんなに幅があるのかよ……。ちなみに魔力のデカさとかで判別つく?
『A:隠蔽技能保持個体を除き推定可能です:対象戦闘力C+と推定です』
推定通りならちょっと強いゴブリンってところか……。
これならいけそうかな。
《エー・エー》、念のためその個体の分析最優先でよろしく。
あと、これからアマエラを使うから補佐頼む。
オレは腰に控えた『スパ太』の頭を一撫でして合図を送る。
上空に飛び上がった忠実な“使い魔”に《エー・エー》を介して指示を出す。
アマエラに念話が届く距離まで行ってくれ。
命令を受諾した『スパ太』は翼を羽ばたかせ……3秒でアマエラの耳元まで飛翔した。
『アマエラさん。聞こえますか? 』
ビクッと身をすくませたアマエラの姿が『スパ太』の目を通した映像として意識内に投影される。
突然の強制念話にも悲鳴を上げず、即座に『スパ太』の姿を確認し短刀を構え牽制したことは彼女の優秀さの表れなのだろう。
『《ゴトー》です。これは私の使い魔の魔導兵です。ご安心を。』
オレが行っているのは超強引な“三段階中継念話”だ。
念話オーブを発動させて脳内の《エー・エー・脳》に念話を送り、それを異次元の《ラボ》にある《エー・エー・体》に転送、さらに同じく《ラボ》内にある『スパ太』端末に中継、仕上げにそれがこっちの『スパ太』本体に転送されて、念話として発信される。
しかもタイムラグほぼゼロで。
我ながら……はっきりいって無茶苦茶だ。
しかしアーテラにおける情報戦では負けないんじゃないか、と妙な自信を持ってしまいそうなぐらい便利だ。
その“中継念話”をアマエラに送る。
空中でホバリングしながら念話を飛ばしてくる得体の知れない金属製の小鳥を見つめる目に、怯えながらも理解したような光を確認してオレは続ける。
『そちらから見えてると思いますが、私たちがいるこの門からの侵入経路に亜人を集中させたいんです。《遠吠え》で呼んで貰えませんか? 』
亜人にも伝わる隠密行動スキルの《狼の遠吠え》を使え、と言外に伝える。
高みの見物だけさせるつもりはないので働いて貰う。
オレがアマエラのスキルを知っているのは、単純に彼女のステータスカードを見た時の情報を《エー・エー》のデータベースと照合解析しただけで当然のことなのだが、普通の人には補佐道具もデータベースもない。ましてや異世界に来たばかりの人間には。
隠密スキルの効果を完全に無視して潜伏場所を特定し、しかも見せたことのない使い魔を通した念話で接触、極めつけに所持しているスキルの看破までしたことで、案の定アマエラの表情は驚愕といっていい程に激変していたが、あえて無視して続ける。
オレの中には、実はこんなことも出来ますよ、という情報を立て続けに見せつけてアマエラの反応を楽しむ、という裏テーマもあるのだ。
『西側から迫る集団の一部が北門へと向かっています。こいつらをこちらに誘導してください。今からこの南門を開放しますので釣ってください。』
言いたいことだけ伝えて『スパ太』を引き上げさせる。
一仕事終えて定位置の“止まり木”に帰還した『スパ太』の頭を撫でてやる。
ご苦労様。
さて……アマエラは働いてくれるかな?
ウオウォオーン!……
色々と葛藤と峻巡があったのか、しばしの間を開けて《狼の言葉》が始まる。
何度かパターンを変えて遠吠えを繰り返しているが……《エー・エー》、あれって解析して再現出来ないかな?
『A:可能です』
え、出来るの? 聞いといてなんだが意外だな……。
『A:該当スキルに必要な要素は《発音の種類》ではなく《魔力の付与》と報告です:《使役者》の語彙から引用するところの《言霊》です:パターン解析完了:《翻訳機・改》を使用して発音可能です《使役者》』
おお……期せずしてスキルを1つ再現出来るようになってしもた。
『チャララッラッチャッチャーン!《ゴトー》は《狼の遠吠えモドキ》を覚えた!』……なんちゃって。
いや……悪くないぞ……レベルアップのSEは大事な要素じゃないか。
これ……真剣に《ピコーン》の機能に追加しちゃおうかな……。




