帰還
オレ《ゴトー》は、無事に道具《浄化オーブ》の発動に成功しました。
これでオレも二日酔い知らずです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いやー飲んだ飲んだ。
そして派手に酔っ払ってしまった。
若干《エー・エー》に迷惑をかけたような気もするが……忘れることにする。
唯一発動実験が済んでいなかったオーブの実験も出来たことだし良しとしよう。
じゃあ……帰るとするか。
現在のオレの最大の目的を達成するために、そして異世界に来て刺激された厨二心を満たすために、しっかりと準備は出来たハズだ。
使役している道具たちの疑似精神に《翻訳機・改》を通して意思を伝える。
『みんな準備はいいかな。』
首につけた《翻訳機・改》から発音された声に眉をしかめる。
声質は色々試行錯誤してみたんだが……どうにもしっくり来ないんだよなー。
録音された自分の声に違和感を覚えちゃうってやつかな。
オレ的にはもうちょい低くて渋い声だと思ってたんだが……《エー・エー》のお墨付きでオレとの一致率90%オーバーの音声らしい。
こんなに高い声してるかなあオレ……。
自分の発した声への違和感に悩みつつ、右手に掴んだ《創魔の魔術杖》を使って《拘束された世界》の転送モードを起動した。
オレの周囲を複雑な模様と文字で構成された光輝く魔方陣が埋め尽くしていく。
ブンブンと尻尾を振る『ハチ』が転送範囲にトコトコ入ってきてオレの手をクンクンやっている。あ、魔物料理の臭い……付いてる?
腰に装備した《創魔の魔術杖》のホルダーを定位置に定めた『スパ太』と『パロ助』が嘴を寄せ合いチュンチュンやってる。
『じゃあな。またくるよ《エー・エー》。『ジー・エー』もご馳走さま。』
オレのデスクを挟んで並び立っている美しい2体の木像に挨拶をした。
さて、と。
ようやくアーテラの時の流れに合流だ。
時差ボケしないようにしないとな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チャラチャラチャラーン
《ラボ》から戻ったオレは《義手》の小指に装備してる《魔法演出》を起動させていた。
設定したSEと共に七色の光が《創魔の魔術杖》を掴んだオレの右手を包むこんでいる。
アマンダがキラキラした目でオレを見ている。
きっと派手な魔法を使ったように見えたのだろう。
よし、完璧だ。
《ラボ》に転送された瞬間のシチュエーションだ。
オレはアーテラに帰還した。
そして……時の《停留》のことを……《時間》という概念がない異次元で得た経験がどうなるのかを……このアーテラと《ラボ》を往復したことで初めて理解できた。
こういうことだったのか……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレは時の《停留》について《エー・エー》から学んだ。
《ラボ》にいるってことは《時間》がない異次元にいるワケで、つまりこの空間にいると時間の流れから切り離されるってことだ。
この状態が《停留》だ。
で、この中にいるオレも時間の流れから切り離される。
アーテラのある次元で時間が止まった中にいるなら、動くことも考えることも出来ないハズなのだが、この《ラボ》はそこから切り離されるためにオレは動くことが出来るってことだ。
そしてこの《ラボ》の中にいるオレは仮のオレというか……オレであってオレでない。
時の流れで劣化しない星幽体、つまり魂と精神だけで《ラボ》に来ているのだ。
劣化があり得る物質体、つまり肉体は《ラボ》の入口で留めておくことになるらしい。
オレ自身が分割されてるみたいで変な気分だ。実感はないけどね。
つまり今こうして《ラボ》の中で考えたり、スキルで魔導兵や道具を創成したり、『ジー・エー』のメシを食べたりしてるのは星幽体であるオレ。
肉体を預けてるのに、スキルを使ったり飲み食いしたりってのもおかしな話だが、とにかくそういった「経験をした」、という「事実」を積む。
その「経験」は、星幽体である魂と精神に取り込まれていく。
星幽体は時間の経過の無い世界では劣化しないので、理論上は無限に等しい時間を経験と研鑽に費やし知識を蓄え成長することが出来る。
まるで……某冒険漫画の精神と時の部屋だな。
悠久の時の停留の中で、魂と精神を好きなだけ鍛えることができるワケだ。
じゃあ《ラボ》に転移した瞬間でタイムストップ、玄関に絶賛放置プレイ中の物質体である肉体はどうなるのか。
こちらにも積み上げた「経験」がしっかりフィードバックされる。
ただし星幽体と違って『時の停留』の中では「経験」を得ることが出来ないので、「経験」を積み上げた状態で保留しておき、《ラボ》からアーテラに帰還したときに、一気に時の流れに乗る。
いわば《予約》の状態らしい。
例えばつまり……①動く→②疲労する→③休む→④回復する、という《予約》を行ったとして、《ラボ》から出た瞬間にその《予約》が実行される。
すると……④回復する、までが終わった状態で時の流れに戻るってことだった。
要するに物質体である肉体に対して《ラボ》で行ったこと、例えば「食べる」「飲む」「筋トレをする」などの物質的な体験をした場合は、まるで夢の中でおこなったことのように、「美味かった」「喉を潤した」「筋肉痛になった」という経験を「予約」したのだ。
そしてアーテラに戻った瞬間に「予約」された事象の《結果》だけが現れたように見えるってことだ。
《結果》が腹一杯で動けないなら、帰還した瞬間に腹一杯。
疲れ果てて寝落ちしかけなら、帰還した瞬間に寝落ち寸前。
もし使い方を間違えたら大変だよなあ……。
例えば魔力を使いきった状態でアーテラに帰還してしまったら、《ラボ》に行く前は魔力が満タンだったとしても、いきなり枯渇したことになってしまう。
もしも《ラボ》で死にかけるようなことがあったら……帰還していきなり瀕死だ。
気を付けないとなあ。
その辺りさえ気をつけておけば、《ラボ》は無限トレーニングマシンにもなる。
例えば果てしなく筋トレしてムキムキになる「経験」を積んで帰還したなら一瞬でムキムキマッチョだ。
《ラボ》の中で物質体に作用するような努力を積み重ねたら、アーテラ次元に戻った時にその努力の《結果》が表れるってことだ。
ただし瞬間的に《結果》が現れたように見えるだけで、実際にはそれこそ血の滲むような修行を経て達成されることであり、決して簡単なことじゃない。
「ライ○ップに行けばオレだってすぐにマッチョボディになるわー」とか言ってるヤツほど結局行かないのと同じで、「永遠にトレーニング出来るならオレだってやりますわー」とかほざいたところで、実際の努力が必要ってことだ。
ぶっちゃけ……オレはやる自信がない……。
しかしそんなオレでも、《ラボ》の中で努力をせずにステータスを伸ばす方法があった。
それが魔物料理だった。
オレは『ジー・エー』が作ってくれた魔物料理をたらふく食ったワケだが、魔物の食材にはある特徴があった。
直接星幽体と物質体を結ぶ魔力因子に作用する魔力を含んでいたことだ。
なんであんなに美味かったのか。理由が分かった。
味覚だけでなく、魔力因子に作用したからなんだなー。
ちなみに魔力を含んだ魔物食材を使って『ジー・エー』が作った料理を食べる経験をしたことで、オレの星幽体と物質体はかなり影響を受けている。
今のオレの体は転生時に魔力因子に組み替えられてるから効果てきめんだった。
具体的にステータスを《エー・エー》に見せてもらった内の星幽体関連がこれだ。
【タツキ・ゴトー:人間:40歳:ベーテラ人】
【職業−《魔王の卵》】
【魔力総量最大値 12→25】
【魔力操作能力 D→C】
【魂核輝度 70→71】
【専用武器−システムエラー《刈り取る者》 支配領域60%→70%】
そもそもの基準もわからないので何とも言えない……だけど、魔力総量最大値ってのはいわゆるMPだと思うんだが……それが一回食しただけで倍以上に増えた。
オレはスキルを使用する際にMPを消費する。
だからMPが増えたってのことはスキルの使用に有利に影響するだろうし、素直に喜んどこうかな。
そして影響を受けた物質体がこれ。
【タツキ・ゴトー:人間:40歳:ベーテラ人】
【職業−《魔王の卵》】
【生命力最大値 15→25】
【筋力 8→12】
【思考力 3→5】
【直感力 2→7】
【運 15→24】
なんか色々と上がった。
こちらも基準が曖昧なのでなんとも言えないが……。
凄まじきは魔物料理!、だ。
……といいつつ、実は薄々気づいていた。
おそらくオレの元々の初期値が……無茶苦茶低かったんだろうってことにね。
スキルにはレベルがあるけど、オレ自体にはレベルって概念がないみたいではっきりとはわからないが……たぶん道具もスキルも無いオレのステはかなり低いハズだ。
だって平凡な中年サラリーマンだよオレは。
このステータスの成長が、アーテラで生きること、そしてスキル『異世界転移』を獲得することの助けになるハズだと信じたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……いやあぁぁぁぁぁ!……か!かわいいぃぃぃぃ!!」
《ラボ》から帰還したことにより精神にも肉体にも「経験」の還元が行われ、その意味に対して感慨に浸っていたオレの鼓膜を黄色い歓声が直撃した。
オレの創成魔法を見た時を上回るキラキラした目で『ハチ』を見たアマンダが、奇声を上げながら突撃して抱き上げようとしていた。
「かわいいいいい!……あ、あれ?……重いですぅ……・うぐぐぐぐ……」
足腰がフラフラになりながらも辛うじて『ハチ』を抱き上げるアマンダ。
いや……それ石の鎧装備した魔導兵だから……。
《エー・エー》、『ハチ』って体重は何キロあるかわかるか?
『A:およそ50㎏と推定です《使役者》』
マジか……アマンダ……意外にパワーあるな……。
可憐な容姿にそぐわない「ふんぐぐぐぐ」という呻き声をあげながら『ハチ』の抱っこに挑戦しているアマンダを見て、姉のアマエラに聞いてみた。
『アマエラさん。アマンダちゃんって、結構重たいモノでも持てるようなパワー自慢の女の子なのかな? 』
「いえ、まさか。アマンダは幼い頃から病弱で、食器より重たいモノを持ったことすら……あ……《ゴトー》殿?」
《翻訳機・改》を使わずに発音したことに気づき驚いた顔をして問いかけてきたアマエラに、首につけたチョーカー型の魔道具をチョイチョイと指さしながら答える。
『ええ。さきほど創りました。』
答えながらもオレの目は、全身をプルプルさせながら『ハチ』を抱っこし続けているアマンダにくぎ付けだった。
抱き上げられた『ハチ』もまんざらでもないようにアマンダの顔を見上げ、舌を出してハッハッいってる。
あ……舐めたそうにしているな……。
アイツの舌も石だからザラザラしてるんだよなあ……。
あ、舐めた。
アマンダの頬をザリザリ舐めてる……ほっぺた大丈夫かな……。
ザラザラした石をほっぺたにこすりつけられながら足腰にズシンと響く石抱きの刑。
これ……なんの苦行だよ。
しかし重みと痛みに耐えながら、アマンダは幸せそうな表情で『ハチ』にスリスリしてる。
それでもええんかい……。
なんか……モフモフに創成しなくてゴメン。
そのかわり、その子……めちゃくちゃ強いから許しておくれ。




