アガベー/拘束された世界
オレ「ゴトー」はスキル「異世界転移」を手に入れる為のプランを練りました。
行動開始です。
向かうは異世界で初めて訪れるコミュニティーー南ヤーマーナ村です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『二人とも準備はよろしいでっか?』
オレは姉妹を促し南ヤーマーナ村を目指し動き出した。
さっきの戦闘中には頭上に輝いていた緑の月が、西の空に流れていた。
結構時間が経ってしまった。
アマエラの話では、アマンダの歩みでも30分ほど歩けばたどり着くらしい。
思ったよりずっと近い位置に人里があったんだなあ……。
せっかくだし情報収集しとこうかな。
アマエラの先導で森の中を進みながら対話を始める。
『もうすっかり夜でんなあ。今は何時でっか?……そもそもこっちの時間ってどないなってまんの?。例えば……1日って何時間でっか?』
オレが【翻訳機】越しに質問したことにアマエラとアマンダが答える。
「現時刻は……大体8時40分といったところでしょうか。……あ、もちろんそちらと同じですよ」
「1時から12時までが2回で1日は24時間ですねぇ~ゴトー様」
そちらと同じ……驚いてるオレに構わずアマエラは続ける。
「神学で学ぶような神話の時代の話ですが、滅びの運命を辿っていた、とてもよく似た二つの世界を神々が繋げたのです」
「私も学校の授業で教わりました~。神々はお互いの世界を救うために入れ替わったのですよ~」
ほわほわした話し方のアマンダも説明に参加する。
「お互いの神々が、お互いの世界の歪みを補完しあったと伝えられています」
「神様達は、世界の崩壊が起こる度に……何度も混ざって入れ替わって、そして世界を救って下さったのです~」
神々が混ざって入れ替わって……相互に補完しただって?
オレの側の神も……こっちに来たりしてるってことか?
世界に宗教はたくさんあるけど、そんな神様の話聞いたことも無いぞ。
「これが《双世界の神話》ですね。その序章に時の神《アガベー》の神話があります」
「お姉様……《アガベー》様は二つの世界を双子のように近づけるために、時間を定めて下さったのですよねぇ~?」
「そうね。アマンダ。だからアーテラと「ゴトー」殿の世界の時間は、時の神《アガベー》によって同じに保たれているということです」
二人は当たり前の様に神話の説明をしてくれた。
でも……おかしいよな。
今わかった事は、軍関係者であるアマエラだけでなく、一般人のアマンダにも「オレの世界」の知識と理解があるってことだ。
そしてオレはそこに拭えない違和感を感じている。
例えば……逆に《オレの世界》の人間でアーテラの知識と理解を持ったヤツって……どれぐらいいるのだろうか?
「越境者」がいる以上、存在していることは間違いない。
しかし、「越境者」以外では……例えば身内や友人に存在するのか?。
こっちの情報をあっちで公表したヤツなんかいない。
少なくともオレは知らないし聞いたこともない。
こっちでは「双世界の神話」として授業にも出るくらいポピュラーな話ってことで、一般人代表みたいな村娘アマンダですら知っているのに。
あっちではオレも、例えば嫁さんだって子供たちだって会社のヤツラだってそんな話は知らないハズだ。
そんな話をするヤツは、頭の中身がぶっ飛んだヤツだと馬鹿にされて嘲笑の的になるだろうしなあ……。
そこまで考えて……思い出した。
……いた。……いるわ。
ここ数年、乱立する新興宗教やマルチ商法の企業なんかをまとめ上げて急成長したが、あまりに主張がぶっ飛んでる為、異常な存在として認知されてる団体がある。
スローガンからして異常認定されてて……確か……「崩れ行く世界を繋げよう Save the World & World」とか「友達の友達は異世界だって皆友達だ」……みたいな……。
しかも……あの団体の名前って確か……《アガベー》じゃなかったか?
昨日までは全くわからなかった。
今なら……超簡単にピンとくる。
関係ない……ワケないよなあ……。
もし戻れたら……とりあえず調べてみようかなあ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ちなみにアガベー……アーがべー……アーテラとベーテラ……とか関係あるのかな?
「そういう説もありますね。しかし神話との整合性は無く、今では提唱者の言葉遊びの類いではないかということになっていますね」
「関係はないと、王都での古代史の授業で教えてもらったことがありますよ~」
そうなんだ……それにしても、流れるように繋がっていく姉妹のコンビネーションが凄すぎて怖いぞ。
「ピコーン」
そんな感じで情報収集していると【エー・エー】から呼び出しサインがきた。
お、準備できたか。
さっき【エー・エー】とミーティングした際にちょっとしたシステムを組んで貰った。
道具設計図しといて、素材ストックをラインナップして貰い、その情報を保持しておける創成予定メモ的な【ノート】だ。
ついでにバックグラウンドで作業を頼んだ場合の呼び出しサイン【ピコーン】も作ってみた。
『システム【ノート】完成と報告です:使役者』
よし、とりあえずマストで欲しいのは【翻訳機・改】だ。
対話の度に【翻訳機】のケーブルを持ってもらわなければならないのは面倒すぎる。
一方通行でアーテラ汎用語を発音出来るようにしときたい。
『A:現時点で不足素材は無し、ただ道具の性質上更なる情報の蓄積が必要と報告です』
あ、そうなのか。
情報の蓄積って……もっと会話してパターン収集するとか?
『A:最善は「アーテラ言語ディクショナリー」並びに「アーテラ・レキシコン」の解析と進言です使役者』
ああ、なるほど。辞書を取り込んじゃえばOKってことか。どこで調達すればいいかなあ。アマンダの村にあるだろうか……。
『所持道具【拘束された世界】:呼称「ラボ」に蔵書が存在と確認です:「ラボ」の起動、及び「ラボ」への転移を進言です使役者』
ちょっと待ってくれ【エー・エー】……その道具、オレ知らないよな?
『A:状況推移に合わせた調整によりチュートリアルの短縮を実行と報告です使役者』
チュートリアルに続きがあったってことか。この際だから確認しとこうかな……。
それも「創成の魔王」が持ってた道具なのかな? その「ラボ」ってどんな道具なんだよ?
『A:呼称「ラボ」は、前使役者が最初に創成した始原創成道具と報告です:存在理由は呼称通り「創成研究空間」と報告です』
創成研究空間だって? 空間があるのかよ!? それって……道具なのか?
『A:アーテラ及びベーテラと平行存在する異空間の限定D座標に構築された「空間」と使役者を繋ぐ道具と報告です:起動条件は鍵道具【創魔の魔術杖】使用:制限条項は再使用まで約12時間の魔力充填が必要:と報告です』
えっと……ゴメンわからん。もうちょい簡単な表現ください。
『A:亜空間に:無理矢理に:個人的空間を:確保している:道具です:1日1回ぐらい:使えます:【創魔の魔術杖】を:使って:起動:しましょう』
なんじゃそりゃ……亜空間ってSF用語だぜ? 解って言ってるのかな……。
『A:使役者の語彙情報をダウンロードと報告です』
解ってた! ラーニング意欲半端ないっすね……。
とりあえずイメージとしてはそこに行くって感じなんだな? 転移って言ってたけど……制限付きなら使いどころを考えないとな……。
例えば、今いきなり「ラボ」に転移して目の前から消えたら……驚かせちゃうし説明が面倒だなあ。
『A:「ラボ」は界層の異なる空間に構築された特殊な場所と報告です:使役者の語彙を借用するところの「時が止まった世界」です:個体名アマエラ及び個体名アマンダに対して「驚かせちゃう」事態無く使役可能と報告です』
えっと……「時が止まった世界」って……オレはその道具を使ったら時間も越えてあれこれ出来ちゃったりするってことか!?
『A:否定です:補足するに「ラボ」におけるアーテラ層時間という概念において、連続する時刻ポイント「A」「B」「C」を設定し使役者が存在する点をB時刻とした場合、「A時刻への逆流は不可」:「B時刻への停留は可」:「C時刻への進行は可」と説明です』
「逆流は不可」……そりゃそうか。過去に戻れたらなんて思ったことはあるけど……バブル状態の仮想通貨をタイムワープして先買いしちゃったりとか……。でもそんな過去の書き換えは出来ないってことだな。まあ当然か。
で、「停留が可能」……つまり……それが「時が止まった世界」ってことか?……凄いことだが……ウーン……あの……あれはどうなる? ウラシマ効果は? オレの時間だけ進んだりしない?
『A:「ラボ」内における時間は常に進行ですが、「ラボ」に入った使役者の時刻は転移時に存在した地点をコピーして相対性を保つため差異は発生しないと報告です:「停留」の場合、アーテラ時間/使役者時間、共に「停留」です』
えっと……アーテラと差異はなくて、でオレが「ラボ」に行ってるとして、で「C時刻への進行」をした場合は……そのときのオレってどうなってる?
『A:アーテラ時間/使役者時間、共に「ラボ」の時の進行に合わせて「進行」です:よって使役者の存在はアーテラ層より一時的に消失した状態に移行と報告です:「亜空間へのかくれんぼ」です:個体名アマエラ及び個体名アマンダを多いに「驚かせちゃう」事態が実行可能と報告です使役者』
オレのボキャブラリーをラーニングしたからか、何となく軽めの【エー・エー】解説を噛み砕きながらオレは思った。
それって……絶対安全な避難場所を持ったって事じゃないか……?




