エボルブ/エヴィル/エンカウント
なし崩し的に異世界へ来たオレ「ゴトー」は、技能を使って失われた左足の義足を創成しました。続いて左腕の義手も創成したいところだが、急転直下、魔物の接近を告げる脳内補佐官【エー・エー】。間に合うでしょうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ベーテラ基準「報告・連絡・相談」を進言です使役者』
チュートリアルを終えた後、【エー・エー】の補佐によって「ステータスの隠蔽作業」を実行した。実行、と言っても優秀な脳内補佐官に丸投げだ。ヒマだったオレは、再び義足の感触の確認作業を行っていたが、【エー・エー】の呼び掛けで速やかに終了する。
それにしても……「ホウ・レン・ソウ」かよ。オレの記憶からダウンロードしたから【エー・エー】の語彙が変なことになってるよ……案件は……例の魔物か?。
『A:肯定です:魔物群接近:大猪の推定探索範囲に現地点が接触:索敵接近のち敵性行動の可能性が極大と報告です:』
来る……のか……。
『魔物群詳細情報確認……完了:編成は小鬼騎乗の大猪1組と小鬼兵3体、の探査結果を連絡です』
大猪……それとゴブリンが……4体か……。
『推定接触時間はベーテラ基準時間で約5分です:対応を相談です』
えーっと……ど、どうしよう?。
『推奨対応選択肢を提案です』
『プランA:速やかに接敵行動開始:接触時間を2分に再設定し創成道具【義足】使用で奇襲、戦闘に移行』
『プランB:現地点にて会敵まで待機:待機時間にて追加道具を創成:会敵後戦闘に移行』
『プランC:速やかに現地点より離脱して戦闘を回避』
『いずれのプランにおいても想定達成確率は100%と報告です:プラン選択どうぞ使役者』
達成100%だって?……99%と100%じゃ天地の差があるよ?
『A:100%と重ねて報告です:根拠は創成道具【義足】の配置転換機能と報告です』
……変型のヤツ?
『攻撃性能強化形態「鬼人」への変形によって敵殲滅確率100%達成と推定です:形態「鬼人」の運用は使役者の能力に関らず敵対象の粉砕が可能と想定です:「イージーモード」です使役者』
……えーっと、オレがどんだけショボくても勝てちゃうよってことか……。
『高機動形態「鷲頭魔獣」に変形を実行により戦闘回避確率100%達成と推定です:形態「鷲頭魔獣」の運用は高機動に加え高度跳躍が可能です:ただし条件によって達成確立は変動と報告です』
ぶっちゃけ、魔物との戦闘にビビってたオレはプランCを検討していたのだが……刺激された厨二心が逃げようとしていた自分に急ブレーキをかける。
100%勝てる……なら……た、戦ってみようかな……。
悩み始めたオレは、一旦頭を整理する。
① オレの使役道具|【エー・エー】は有用だ。それどころか神アイテムだ。この【エー・エー】が弾き出した確率が100%なら、おそらく本当に、敵……「魔物」を殲滅出来てしまうのだろう。それでもオレは……戦闘を行うか躊躇している。
② 理由は明白だ。ブレーキをかけているのは……オレの気持ちだ。争いごとに慣れていない現代日本のサラリーマンだよ?……びびるよ正直。
例え確実に勝てるとしても……《義足》のハイパワーで蹴りつけた状況を想定してみろって話だ。「敵対象の粉砕」って【エー・エー】は言ってたぞ。もしもバラバラの肉片として散らばったりしたら……スプラッターは嫌いだ。飛んでくる返り血も嫌だ……異世界に飛ばされる前は風呂に入ったばっかりだぞ。何よりもモラルが揺らいでいる……どっかの馬鹿がアップした愛玩動物を虐待する動画ですらオレは見たくない。
要約すると……やっぱりまだ戦闘はしたくないのが本音だ。
③ 例えば争いを回避して事態を丸く収める方法を模索出来ないだろうか? 【エー・エー】補佐官風に選択肢を持つならーー
オレ的プランA:「【エー・エー】プランC」採用でひたすら逃亡する。
オレ的プランB:興味を持たせる、意思を疎通する、といった何かしらの道具を創成して《魔物》と「交渉」する。
オレ的プランC:「草刈り機」のエンジン音を活用して驚かせ退散させる。
ーーってところか。
我ながら、悪くないアイデアのように思う。【エー・エー】に相談してみようかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どうかな?【エー・エー】?
『A:使役者プランの検討受諾……完了:各プランの想定達成確率は95%・45%・15%と報告です使役者』
あれ……期待してたよりもかなり低い達成確率の回答がきた。逃亡達成確率が下がったのは……時間経過で?
『A:肯定です』
つまり……魔物が迫って来ているってことだ。
じゃあオレ的プランBはどうだ? やっぱり……曖昧すぎるか?
『A:「魔物群の興味を引く道具」の創成は複数パターンの想定が可能と報告です:「意思の疎通を実行する道具」の創成も「最大で60%程度」の条件付きで可能と報告です:ただしいずれも目的達成率は極小と推定です:現況で達成への障害は小鬼の個体数です:小鬼は戦闘行為以外の協調性が極小と報告です』
そうか……魔物だもんな……協調性が期待出来ない相手との交渉なんて無理ってことか……逆に言えば、戦闘行為のみ協調性があるってところに異世界の怖さを感じる。
じゃあ最後のオレ的プランCは? 草刈り機で爆音鳴らせてビビらせるイメージなんだけど……魔物相手には厳しい?
『A:小鬼の「人間社会」への興味と欲求の高さが達成への障害と報告です:対象となる「物」はアーテラ産・ベーテラ産問わずです:また騒音への抵抗値が高い点も障害です』
つまり……ビビって逃げるどころか、逆に奪いに来るってことかよ……。
『想定敵さらに接近:完全に捕捉されました:戦闘回避確率さらに低下で80%と報告です』
結局、日和ったオレのせいで時間だけ無駄に使っちまったってことか……クソ……。
山間に木霊する地響きを感じてオレの恐怖心は掻き立てられた。追い詰められる事でようやくオレは決断した。
【エー・エー】! 選択はプランBプラスアルファだ! 草刈り機を確保して背後の大木の枝上に一時退避! 【義手】の創成を優先する! 戦闘になったら「草刈り機を使用して敵と戦闘して勝利」を目標に設定! 草刈り機の武器使用は絶対条件! いきなりの肉弾戦は怖いから除外で! 義足は出来うる限り温存! このプランで想定達成確立は!?
『A:条件付きで100%と報告です』
条件とは!?
『A:現時点で使役者の所持道具「草刈り機」の戦闘使用は殆ど不可能と報告です:対象小鬼・大猪共に、表皮強度に対して刃物硬度と動力の不足を想定です:達成には使役者による「草刈り機」の進化承認が必要条件と報告です:進化実行は【エー・エー】が担当可能です使役者』
進化だって?……草刈り機を……強くするってことか……? それはオレの持ってるスキルで出来るのか?
『A:肯定です:スキル「創造主」により、所持道具「草刈り機」を使役者の【専用兵器】へと進化を実行することが【エー・エー】プランです』
……専用……兵器……。
『例示するに「特定素材を合成して魔力透過を可能化」させた「草刈り機」に一部希少素材を使用して進化を実行です』
魔力を?
『【エー・エー】の道具設計図は「光輪刃」を展開・射出する近距離・中距離汎用兵器です|使役者《マスター』
ま……魔改造きたこれー!! 草刈り機が……兵器になっちゃうよ!! 【エー・エー】さんプラン半端ねえよ! ちょっとテンション上がっちゃうよオレ! OK! 改造……じゃなかった進化承認だ!……形状および外装は出来うる限り現状キープでよろしく!
頭の中で【エー・エー】とミーティングしながら草刈り機を回収し、背後の大木に向かって、【義足】の力でジャンプする。太い枝を経由してさらにもう一段ジャンプ……地上から約7mってところか。一瞬で木登り完了だ。ここまで退避したら「魔物」が接近してもしばらくは大丈夫だろう。
よし、ここで作業実行だ!
オレはスキルを発動しつつ、右手に掴んだ草刈り機に「魔力」を流し込むイメージを発動する……すると「草刈り機」が淡く輝き……今だ、【エー・エー】の補佐を得て兵器の概要のイメージを膨らませて……突然、急激に《魔力》が吸い取られる感覚があった。
そして…… あっけなく《進化》は完了した。オレの手には兵器へと進化した「草刈り機」があった。
見た目は、全体的にガンメタ・グレーで、アンティークの機械っぽい雰囲気の外観になったが、オレのオーダーどおりで構成自体はそこまで変わってはいない。
【義足】の時と同じようなマーキングが色々増えてるが、元々からあったメーカーのステッカーと絶妙に混ざり合って配置されている。
細長かったフレームは若干太くなり、スロットルのケーブルが消えている。
自転車みたいだったハンドルは、手甲を組み合わせたような重厚な形に変わった。
先端のチップソーはーーまるでRPGゲームに登場する「円月輪」のようなデザインーー刃の厚みも増し、表面には綺麗な浮き彫り細工が刻まれている。
肩から袈裟懸けに回して本体を吊っていたベルトはかなり変わった。腰には刃の表面と似た浮き彫り細工が刻まれたバックルのベルトが創成されて巻かれていた。そこから掃除機のホースのような蛇腹形状の細いケーブルが背中の後ろへと伸びて本体と接続されている。そして本体は背負ったような形になっているが……重力を無視したように浮いていた。
なんじゃこりゃあ……これで草刈りしてたら……目立つだろうなあ……きっと嫁さんも子供たちも山下さんもびっくりだ。
だけど……厨二心がビンビンに刺激されている。ぶっちゃけ好みだ。気に入った。仕上がりは上々だ。
こうして、オレの相棒だった「エンジン式草刈り機」は変貌した。ただの庭掃除の道具だったその機械は、オレ専用の【戦闘兵器】へと進化したのだった。
スキル行使時間は……実質2秒ほどか。チュートリアルの時のようにもたつくこともなかった。実際にスキルの概念に触れたからか、スキルの発動も《魔力》のコントロールも何の問題なく完了した。
これ……あっちでも出来ないかな? いつか帰ることが出来た時に色々試してみよう。そのためにも……今は戦闘に備えた準備の続行だ。
その時、緑色の月明かりに照らされた木立の隙間を《魔物》の一群が駆ける音が響いてきた。すぐそばまで迫っている。
……まずい。グズグズしてるヒマはない。続けて道具設計図をイメージする……ええい時間が無い! 【エー・エー】先生にお任せで! 【義手】の設計は防御性能優先、仕様素材は【義足】同等を基準でよろしく! 形状及び外装も派手すぎないようにお任せで! MP不足に備えて《魔法薬》も併せて創成で!。
『補佐準備完了です:技能発動どうぞ使役者』
近づいてくる《魔物》達の気配を感じながら、スキルを再び発動させる為にイメージの設計図に「魔力」を流し込む。あっさりとコントロールに成功し、スキルが発動する。グングンと《魔力》を吸われていく。創成したポーションをがぶ飲みして耐える。
そして指定した空間に光輝く設計図が出現し……数秒後には《義手》の創成に成功していた。
あれ?
慌てておまかせで創成したからかな? なんか……禍々しいやつ……出来ちゃった……。
トゲトゲにボコボコがいっぱい。
腕自体はめっちゃ細い。
なのに指めっちゃ長くて手がデカイ。
これ……100人に『これは一体何でしょうか?』と聞いたら、95人くらいが『悪魔の手』と答えそうな仕上がりなんですけど……。
『A:使役者の行動原理より抽出したキーワード「恐怖」「威圧」「殺戮」に適した形状と性能に創成補佐実行と報告です:【ランク9希少素材悪魔将の心臓】の使用を報告です:完成した【義手】の創成ランクは【義足】を上回る「希少創成道具」である事実も報告です』
な、なんですとー!……悪魔!?
『形状及び外装は装着時に自動で【義足】準拠のデザインに変わる偽装モードへ移行と報告です:偽装解除は戦闘時のみで通常行動に対しての支障は皆無と報告です:【エー・エー】が保証する完成度はランク9です:逸品なる一品、との自負を報告です』
偽装モードはありがたいよ……だが「恐怖」とか「殺戮」とかなんでだよ!
その時ふと思った。
オレはまだ異世界をゲームのように捉えて現実を消化してるかもしれない……つまり現実を直視出来ていない……。
戦闘が現実になったら……逃げだしたいほど怖い。
いやだ。
もし戦わなければいけない状況になっても……ゲームの中のように、痛い思いをせずに楽に勝ちたい。
だから……深層心理では……本当は魔物を簡単に蹴散らせる威厳と強さを求めていた気がする。
さっきだって……【義足】のプランを練っていた時……ワクワクしていた自分がいたことを自分自身で気づいていた。
それを【エー・エー】が拾ってしまったとしたら? そして創成されたのがこの悪魔的な【義手】だったとしたら。
もし……オレの心の嫌らしい部分や汚い部分が具現化したような【義手】だとしたら……嫌だな。
これ……装着してもいいのかな……もっとソフトな……日常生活に支障がないだけで戦闘能力が無いようなヤツを創成仕直した方がいいだろうか……【義手】を手にはしたが、装着するかどうか逡巡しているオレの遥か足元に、ついに魔物の一群が姿を現した。
ついに……来たか!?
「オオオオオオ!」
地響きとともに猛獣の呻き声が木の上にまで響いてくる。
現れた小鬼達は……想像してたよりも醜い容姿だった。
ボサボサの髪から尖った耳と鋭そうな牙が覗く。
オレが抱いていたガリガリの体のイメージは、膨れ上がった筋肉によって裏切られた。
たぶん体長も170cmのオレとそう変わらないように見える。
デカい。思っていたよりずっとデカい。
それぞれが……刃がガタガタにこぼれた剣や槍を所持している。
あれでは「斬る」より「叩き潰す」になるんじゃないか……あれで攻撃されたなら……きっと苦しみながらミンチに変わるだろう。
そしてひと際大きな体と、鋭そうな片刃の曲刀を背負ったヤツが、馬鹿でかい獣の背中に鞍も着けずに跨っていた。
ボロボロの鎧から見える赤い肌はヒキガエルのようにボコボコとしている。
輪をかけてムキムキの体はまるで極端に猫背のボディビルダーだ。
眼光は爬虫類のように黄色く輝き、額には短い角が生えていた。
こいつがリーダーだ。直感でそう思った。
そいつが跨っていた大猪は……。
「魔物」だ。これこそが「魔物」だ。
明らかにやばいデカさだ。猪なんて可愛らしいものじゃあない。軽自動車ぐらいのサイズ……たぶんオレは踏みつぶされても跳ね飛ばされてもミンチに変わる。
動物園で見たサイに一回りデカイ筋肉の鎧を着せたようだ。ズシン、と歩くたびに筋肉がモリモリと動いていた。
バカでかい牙、赤く光りグルグルと動く4つの目。
「オオオオオオ!」
一声発した《大猪》は醜くデカイ鼻を小刻みに震わせながら、頭上に視線を動かした。【義手】を手にしたまま恐怖に固まっているオレの目と……4つの目が合った。
「ギャウオオオオ!」
「ゲギャアアアア!」
「グモオオオオ!」
口々に叫んだ《小鬼》達がオレの姿を見上げてくる。
「ひっ……」
オレの耳に飛び込んできたのは……恐怖に縮み上がって動けなくなったおっさんの……情けない悲鳴だった。
オレは、ついに異世界で魔物とエンカウントした。




