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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
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牧場風太郎 現る

 牧場風太郎?

 俺はその言葉に聞き、慌てて林田さんの方へ振り向いた。そして、その人物を凝視する。すると小柄で華奢な身体が次第に、男の身体に変わっていくのがわかった。次第に俺の目の前に先ほどまでいた林田さんの姿は消えてなくなり、その同じ場所に、俺たちが良く知る人物、牧場風太郎が現れた。

 俺は絶句する。隣にいるウリエルも俺と同じように驚きの表情で牧場を見つめている。


「おい……気づいてたか?」

「気づいていたわけないだろ」


 正体がばれた牧場は肩を大げさにすくめ、ため息をついた。


「ハア。せっかく何日もかけて『印象操作』の魔術を自分にかけたんだけどなぁ。水前寺くんやお嬢ちゃんを騙せても、神力と契約しているミス霧江の目はごまかせなかったようだねぇ」

「まさか、女性職員の方が牧場だったとは。驚いたな」

「驚いた? いやいや、それはこっちのセリフだよまったく」


 ウリエルの言葉に牧場は口をとがらせる仕草をして見せる。


「せっかく絶好の潜伏場所として図書館に隠れていたのにさぁ、君たちが何食わぬ顔でやってくるんだもん。それもうちの組織の平島ほのかを連れて。結局は単なる偶然だったようだけど、僕の焦りを理解してもらいたいものだよ。

 しかも、それだけじゃない。君たちと平島ほのか、そしてもう一人一緒にいた少女だよ。水前寺くんはこう呼んだよね? 霧江さんって。あのときの僕の驚きったらわかる!? 平静を装おうとしてたのに、思いっきり驚いちゃったよ! 僕もその時は正直半信半疑だったけど、裏切り者赤川くんの話で確信に至った。君たちが一緒にいた少女は正真正銘の過去からやってきたミス霧江だってことがね。そんなことありえない、なんてことは考えないよ。神力なら魔術の三大悲願を叶えることくらいお茶の子さいさいだろうってことは僕が一番よく知ってるから」


 俺は図書館で初めて牧場と接触した時のことを思い出す。

 確かに俺は牧場の前で霧江さんの名前を言ったし、その言葉の後、確かに牧場は驚きの表情を浮かべていたような気がする。それに、だ。俺がもう一人の職員を牧場だと勘違いしたのは、そもそもその人物が一か月前にやってきたということを牧場に吹き込まれたからだ。おそらく焦った牧場が時間稼ぎのつもりで咄嗟に嘘をつき、まんまと俺が引っかかったということだ。

 牧場は今までためていた鬱憤をはらすかのように、べらべらと話し続ける。


「僕は小心者だからね。君たちが正体に気付いていないとしても、大事をとってその日のうちに潜伏場所を変えようと思ったのさ。だからすぐに赤川くんに話をかけた。潜伏場所を変えること、それにこれ以上赤川くんを信頼できないということを伝えるためにね」


 俺たちが図書館を出るとき、牧場は受付で電話の応対をしていた。もしかしたらそれは事務的な電話ではなく、赤川との電話だったのかもしれない。


「正直、赤川くんに電話をかける義理はなかったんだけどねぇ。彼、魔術の才能をとっても欲しがってたでしょ? だから、こっちから切り捨てるって言ったら必死になって何かしてくれるかもしれないからね。一応連絡してみたんだよ。そしたらビンゴ! 僕の期待以上の働きをしてくれたってわけ。いやぁ、まさか後先考えずにミス霧江を誘拐してくるとまでは思ってなかったけどね」


 牧場は愉快そうに笑う。

 俺は捕まる直前に赤川が発した悲痛な叫びを思い出し、牧場に対してふつふつと怒りがこみあげてくるのがわかった。こいつはコンプレックスに付け込んで赤川を利用したんだ。人を単なる目的達成のための道具としてしかみなしていない。

 俺の様子に気付いたのか隣にいるウリエルが「落ち着け」と俺に声をかける。


「お前は何の目的があってこの町に隠れてたんだ」


 ウリエルが尋ねる。


「答えるまでもないでしょ。神力のためだよ、じ・ん・り・き。神力のありかはわかったけどさ、もしかしたら他にもいろんな制約があるかもしれないわけじゃん? だから図書館を起点に、町の役所とか病院を回って調査を進めていたわけ」


 役所や病院? 俺は牧場の言っている意味が理解できずに眉をひそめた。俺が理解していない様子を察したのか牧場はあざけるように不敵な笑みを浮かべる。


「神力に制約や発動条件があっても何ら不思議じゃない。なにせ魔力しだいでなんでもできちゃう力だからね。そこで僕の一つの仮説を紹介しよう。仮説一、もしかしたら霧島家の人間しか神力に願い事を叶えてもらえないかもしれない」

「あら、愁ちゃんって霧島家の人間だったの?」

「……俺は霧島家の人間じゃないですよ」

「いや、わからないよ。知らないだけで、君の遠いご先祖様の一人が霧島家の人間なのかもしれない。おそらく霧島家の血が一滴でも流れていれば霧島家だとみなされるからね。あ、ちなみに魔術ではDNAとかではなくて血の方がより重要なファクターになってるんだ。魔術に質的に類似している神力もこの原理は当てはまると思われる。これは魔術に暗い水前寺くんのための補足説明」


 そういえば神力にかけてある封印は霧島家の人間にしか外せないと言っていた。それもおそらくは霧島家の血が関係しているのだろう。役所や病院を回ったというのは俺の戸籍をたどろうとしたということか。


「まだ調査の途中で結果は出てないだよね。……だけど、幸運なことにもうその必要はない」


 牧場はそういうとポケットから五円玉を一枚取り出し、俺たちに掲げて見せた。俺は牧場がやろうとしていることに気付き身構える。

 なぜ牧場は神力へ願い事をする方法を知っているんだと一瞬疑問がよぎったが、すぐに答えが思い浮かんだ。牧場は見ていたのだ。さっき霧江さんが神力に願い事をして、過去に帰る瞬間を。

 つまり、封印が解かれている今、牧場にも願い事を行うチャンスがあるということだ。


「ここで僕が実際に五円玉をその賽銭箱に入れて願い事を念じればおのずと結果がわかるからねぇ。ちょっくら、願い事をさせてもらうよ」

「……お前を賽銭箱に近づけさせると思うか」

「僕がわざわざ賽銭箱に近づいてから五円玉を入れると思う?」


 牧場がにやりと笑う。その瞬間ウリエルが叫んだ。


「馬鹿っ! 『物質移転』だ!!」

「!!」

「ご名答」


 その瞬間牧場の手から五円玉が消えた。

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