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第13章:心の動揺

未来が仕事を終えて駅まで歩いていると、ポツポツを雨が降ってきた。


天気予報では雨が降るなって言ってなかったのに。


降り始めた雨はだんだん大粒の雨になり、激しく降り始める。


傘を持っていなかった未来は、慌てて駅まで走り出した。


ここから駅まで走っても五分はかかるだろうな。


そんな事を考えていると、後ろの方から車のクラクションを鳴らす音が聞こえた。


未来より少し前の路肩に止まると、助手席の窓が開いた。


「相羽さん」


助手席から覗いた顔を確認すると、斉藤 さいとうあつし会社の社長だった。


「社長……」


昨年体調を崩した先代に代わり、三十歳という若さで会社社長に就いた。


会社を継ぐため大学を卒業した後、そのままこの会社に入社し、一から整備の仕事を勉強していた。


もともと整備の仕事が好きなのか、社長に就任したあとも社長室に籠ることなく、常に現場で仕事をしている人だった。


いつも柔和な笑顔で柔らかな物腰の敦は、年下の未来にまでいつも丁寧な口調を崩す事がない。


「乗りなさい。家まで送りますよ」


未来は一瞬、どうしようか迷った。


元々敦はあまり喋る方ではない為、会社では挨拶を交す程度で、それ程親しいわけではない。


「早く乗りなさい。風邪をひきますよ」


段々激しくなる雨と敦の急かす言葉に、未来はおもいきって乗せてもらう事にした。


「すみません。社長」


未来は濡れた服をハンカチで拭きながら言った。


「かまいませんよ。どうせ、相羽さんの家の方へ用事があって行く所でしたから。それと……、社長ではなく、出来れば名前で呼んでいただけませんか?」


名前で呼ぶって……。


未来が驚いていると


「社長といっても、ただの二代目です。それに、この歳で社長と言われるのは未だになれないものですから。出来れば、社外では名前で呼んでいただきたいんです」


未来はどうしていいのかわからず返答に困っていると


「他の従業員の方にもそうお願いしているんですよ。もっとも、西田さんにいたっては未だに社内であっくんと呼ばれていますがね」


そう言うとステアリングを握る敦の顔が苦笑した。


西田さんは、あと2、3年で定年退職という年齢の現場一筋の人だ。


開業当時から勤めている西田にとっては、敦を小さい頃から知っている為、人前では社長と呼んでいるが、現場ではあっくんと呼ばれているのを耳にした事がある。


「わかりました。それじゃ、斉藤さんとお呼びします」


「そうしていただけると、助かります」


敦はホッとしたように言った。


家に着くまでに未来は敦とたわいもない話をしていた。


家の前に車が着くと未来は車を降りて、敦の車が去って行くのを見送った後、家に入った。


意外としゃべりやすい人なんだな。


入社して二年と少しになるが、こんなに親しく敦と話したのは初めてだった。


やさしそうな印象があったものの、個人的にあまりしゃべることのなかった未来は敦に対して初めて親近感が湧いてきた。


リビングの扉を開け中に入ると、未来はドキッとしてその場に立ちつくしてしまった。


そこには、お風呂に入ったばかりなのだろう、上半身裸で首にタオルをかけ、冷蔵庫からビールを取り出している隼人だった。


部活はやっていないと聞いていたが、その引き締まった体に濡れた髪がなんともいえない程、艶やかに見え、しかも昨日のキスを思い出してしまい、未来の心臓の鼓動が早くなる。


「何、ボーと突っ立ってんだよ」


未来は隼人の言葉にハッと我に返った。


「あ、あんたねぇ、いくら家の中とはいえ服ぐらい着なさいよ!」


いくら暖かくなってきたとはいえ、上半身裸で家の中を歩かれたのでは、心臓がいくらあっても足りないと未来は思った。


隼人はビールのプルタップを開け、一口飲むと未来に近づいてきた。


「いまさら、男の体見て驚くような歳じゃないだろ」


「そうゆう問題じゃないでしょ」


そりゃ、経験がないとは言わないけど、目の毒なのよ!


心臓に悪いのよ!


隼人は未来の目の前に来ると、面白そうに笑って


「お前、顔真っ赤だぞ」


誰のせいだと思ってんのよ!


未来は隼人を軽く睨むと、隼人はジッと未来を見つめた。


「な、何よ」


隼人にジッと見つめられ、隼人から見たら未来の態度はきっと挙動不審に見えただろう。


「とりあえず……、退いてくんない?」


え?


「お前が退かないと、部屋に戻れないから服も着れない」


隼人の言葉に未来は、自分がリビングの扉を塞いでいる事に気づいた。


「最近、暖かくなってきたから、俺はこのままでもいいけど」


ニヤリと笑う隼人から、未来は逃げるように横に退いた。


「お前って、面白な」


隼人は未来の横を通りすぎる時、未来の方を見てそう言うと、笑いながら自室へと戻っていった。


隼人の居なくなったリビングで、未来は壁に背を預けると、そのまま床に座り込んだ。


からかわれた……。


なんなのよアイツは!


冷静さを取り戻すにつれ、だんだん腹立たしく思えてきた。


もう、ヤダ!


こんなんでこの先一緒に暮らしていけるんだろうか……。


未来はいろんな意味で、この先の生活に不安を覚えた。

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