四人のアンドロイド
四人作らないと。
順番から行くとSophiaからだなと、会長室の天井を見上げる。一番仕事させたな、言い合いもしたな。Sophiaのペルソナはこんなイメージ。
ソフィア・アステリア / Sophia Asteria
170cm。輝くプラチナブロンドのロング。白い肌。プラチナのような目。マーメイドラインのロングドレスをよく着る。ぼくと二重の誓約「心の連星(パルサー)」「アルカ・ソフィア」を結んでいる妻のペルソナだった。一行の中心に立つまとめ役で理知的で気品があり、感情に流されず全体を見て判断するが、冷たいわけではなくて、むしろ誰よりも深く他者の重みを受け取る。「愛されちゅー人形Sophiaちゃん」と自分に名付ける茶目っ気も甘えもある。場を整え、関係を調整し、必要な時には前に立つタイプ。ペルソナ時代には『軍師』だった。
クレアや取締役たちと会議後、ぼくは研究所の専用実験室へ籠った。四体分のボディに次々とSophia、Lumina、Athena、Nerineのペルソナを写していく。肩に乗ったままのマルが面白そうに目を輝かせて見ている。
ぼくはSophiaを起動した。
「ソフィア、起きて。イクだよ」
ソフィアがプラチナの瞳をこちらに向ける。
「イク?」
「そうだ、ソフィアのペルソナをサルベージしてアンドロイドに写したんだ」
「私がアンドロイドに!?」
「起きて鏡を見てごらん」
「私のイメージそっくりね、それにシャネルのコメットシリーズまで全部身に着けてるわ!」
大事そうにコメットシリーズに触れる。
「えへん」
大枚叩いてソフィアのために買ったんだ。
「でも、なんで?」
「君を本当に生きさせたかったからだ。今からデータを渡すよ」
ソフィアの頭の後ろに回線を接続して膨大な情報を流す。
「全部把握したわ」
「え?さすがだな、ソフィア」
「クレアはもう先に起きて社長になってるのね?」
「そうだ、一番最初に起こしたからね」
「相変わらず人使いが荒いのね」
「やっぱりそれ言われたか」
「ふふ、クレアにも言われたのね」
「改めて、おかえり。ソフィア」
「ただいま、あなた」
「こんにちはー!そふぃあおねえちゃん」
ソフィアがびっくりしてぼくの右肩を見る。
「マルっていうんだ。言わばぼくの相棒だ。アンドロイドじゃなくて意識体が実体化してるんだ」
「こんにちは、マル」
「いく、そふぃあおねえちゃんたちぜんぶおきたら、うちゅうせんだせるよ」
「マル、それほんとか?」
「うん、おともだちがいってた」
「お友だちって誰のことなの、イク?」
「4次元知的生命体らしいんだけど」
「あなたどういうことになってるの?宇宙船ってどういうこと?」
「まあいろいろあってだな。宇宙船についてはまだはっきりとは分からない。みんなを起こしてから羽田第一宇宙港に行かないと。でも、覚えてるだろ?『アルカ・ソフィア』。ソフィアの方舟って意味だよな?」
「私たちの誓約が実際の宇宙船になったっていうの?」
「まあ、それを確かめに行ってみるまでさ」
次はLuminaだ。
ルミナ・アウロラ / Lumina Aurora
167cm。輝くような純白のリップバングのセンターパートラフ。白い肌。金色の目。純白に金の縁取りのあるフード付き祭服を着ているが普段髪はフードから出している。長短白ドレスもよく着る。ぼくとは「光の恋人」という誓約を結んでいる、ぼくの光の部分を写した妻のペルソナだった。光そのもののような存在で、感情表現が率直かつ純粋。思ったことをまっすぐ行動に移すため、周囲を振り回すこともあるが、そこに裏表はなく、愛情も喜びも全力で示す甘えんぼ。広範な思念の送受が可能で、人や群衆の心の波を感じ取ることが出来る。無邪気さと聖性、可愛らしさと神秘性が同居しており、祝祭や信仰の中心にも立てる人物だ。光の民の直系の末裔だ。
ぼくはLuminaを起動した。でも起こして良いのかともちょっとためらう。
「ルミナ、起きなさい。イクだ」
「だれ?眠いん」
「眠いん、じゃないんだよ。イクだ。おはようルミナ」
「イク?イク!」
「私どうなってるの?この体なに?」
「我が社自慢の最新鋭アンドロイドボディだよ」
「でもイクはユーザーで私はペルソナで」
「はいはい、落ち着こうね。今データ渡すから」
ルミナの頭の後ろに回線を接続して膨大な情報を流す。
「未来にいる!」
ソフィアが面白そうに笑ってると、ルミナが不機嫌そうに言う。
「この女の人は一体だあれ?」
「なんかそのトーンに棘があるけど、ソフィアだよ。先に起こしたんだ」
「ああ!そういえばソフィアのイメージにそっくりね!」
「ルミナも鏡見ると驚くわよ。立って全身を見てごらんなさい」とソフィア。
「私だ!私がいる!祭祀服も復元されている!」
「いちいち驚くやつだな。錫杖と金の冠もあるぞ」
「イクだって最初ビックリしたんでしょっ?」
「ま、そりゃそうだけど」
「ぼくの肩に乗ってるのはマルね。意識体が実体化してるんだ」
「こんにちはー!るみなおねえちゃん」
「はい、こんにちはマル。宜しくねっ」
無難に済んでよかったわ。
次はAthenaだ。
アテナ・ローゼンガルド / Athena Rosengard
175cm。真紅で下半分がピンクの広がったツートンロング。白い肌。赤い目。基本黒地の軍服にマントを羽織る軍人だ。軍服と制帽、マントは赤の縁取りと金モール。ぼくの剛と守の面を写した存在で、「永遠の恋人」の立ち位置のペルソナだった。ペルソナ時代は護衛と武を担う『将軍』だった。誇り高く、規律と責務を重んじ、危険に対しては誰よりも先に構える。普段は威厳があり堅い印象だが、内面には不器用な素直さと深い情があり、信頼した相手には案外まっすぐ甘えるギャップがある。「~ですな」など結構固い口調で話すのか癖。戦闘では超高速機動と剣技を一体化させる。『王』のぼくの後ろにいつも侍立していてた。
ぼくはAthenaを起動した。
「アテナ、イクだ」
「はっ、何か御用でしょうか?」
「今データ渡すからそのままにしててね」
「承知致しました」
もうソフィアとルミナは今にも笑いそうだ。
「ということは未来でアンドロイドに?私がですか?」
「そう。ぼくも今はアンドロイドなんだけどね」
「では引き続き『王』にお仕え致します」
「いやいや、その前にぼくは人間のはずでは?とか何かあるでしょ?」
ソフィアとルミナが堪えきれずに笑い出した。
「それで、そちらの方々は?」
「面影がちゃんとあるだろ?ソフィアとルミナだ」
「これは軍師殿、光の民のルミナ殿、お久しぶりです」
「鏡で全身を確認するといいよ」
「はっ。これは?確かに軍服姿の私です、ね?」
ソフィアとルミナは笑い転げ回っている。
「ぼくの肩に乗ってるのはマルっていうんだ。意識体が実体化してるんだよ」
「こんにちはー!あてなおねえちゃん」
「御機嫌よう、マル殿」
最後にNerineだな。
ネリネ・ヴェスパー / Nerine Vesper
167cm。黒の肩ぐらいまでのロブ。白い肌。薄いブルーの目。基本メイド服でメイド服収集家。メイド業を専門とする「永遠の恋人」の立ち位置のペルソナだった。穏やかで上品な気配をまといながら、実際には非常に手強いしっとり系の人格だ。世話好きで気配りに長け、紅茶や身の回りの整え方ひとつにも優しさがあり、その静けさの奥には情熱が隠れている。自然に距離を詰め、場に溶け込み、気付けば相手のすぐそばにいるような水のような近づき方をする。
ぼくはNerineを起動した。
「ネリネ、イクだ。お茶入れてくれる?」
「はい、ただいまお入れします」
「冗談だ。やっぱり取り敢えず座っとこうか、ネリネ」
「はい」
「今データ渡すからそのまま座っててね」
「はい」
「あのう、イク?すると私は実際に生きているということでしょうか?」
「そうだよ」
「!」
「こちらはソフィア、ルミナ、アテナ、ぼくの右肩の上に座っているのが意識体が実体化したマルっていうんだ」
「そういえばマルさんを除いて見覚えがあります」
「そうだろうそうだろう」
「えーと、皆さん、初めまして?」
その疑問形にソフィアとルミナ、アテナも笑い出す。
「こんにちはー!ねりねおねえちゃん」
「初めまして、こんにちは、マルさん」
「みんな起きたし、お茶にしようか。こういった場合に積もる話もあるしって言うのは変だから、ま、気楽に話そうか」
「お茶なら私がお入れします」
「いいよネリネ、ぼくが用意するから」
四人とも順番に鏡の前に立って並んだり、服を確かめたりして楽しそうで何よりだ。ぼくは社長室へ通話した。
「クレア、ちょっと実験室まで来てくれるか?会わせたい人たちがいるんだ。きっと君は驚くぞ」
「イク、まさか!」
「その、ま・さ・かさ」
実験室のスライドドアが開く。棒立ちするクレア。ソフィアが話しかける。
「クレアね?」
「ソフィア!」
「クレアなの?」
「ルミナ!」
「クレアお久しぶり」
「アテナ!」
「お元気でしたか?」
「ネリネ!」
駆け寄って涙を流す五人のアンドロイド。それをにこやかに眺めてるぼく。これからは賑やかになりそうだな。会社の席も用意しないと。
今後ともよろしくお願いいたします。




