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時蝕

 ぼくらは一度艦へ戻りエデンにデータ写しておき、それから今度は時禱(じとう)神殿クロノエルへ向かった。


「みなりえのひだりのみちをいくの」

「こっちの道だね。なるほど先に大きな建物が見える」

 時禱神殿クロノエルという名前から時間神でも祀ってあって、時蝕(じしょく)現象に関わる何かが見つかるといいのだが。

 マルはいつもの赤い光剣はやめて今は赤い風船を持っている。

時禱神殿クロノエルの趣は教会のようでもありその割には両袖に広がる建物面積が大きい。研究施設を兼ねているのだろうか。


「ここ」とミルル。

「さてとお邪魔しますか」

正面の祭壇らしき後ろのある壁面には冠を被ってゆったりとした服を着た女神らしき人が巻物をメビウスの輪のように捩じって持った立ち姿の像が立っていた。信仰の象徴なのだろう。時の永遠性と循環性を示しているのかもしれない。


 祭壇横の左右にあるドアのまず右側を開くと本棚と実験器具のようなものが机に乗っている部屋だった。まずみんなで本を読むことにした。それは天体観測と周期的ないくつかの彗星の軌道が描かれ、計算された周期が書かれている本だった。

(エデン、このルクシエル星系と星系外の彗星は確認できるか?)

(はい、星系外には彗星の巣のようなものがありそこから長楕円軌道を描きエイレナ星に近づく軌道の彗星が3個があります)

(この惑星は水惑星だが、それと彗星は関係ありそうか?)

(ええ、スペクトル分析ではそれらの長楕円軌道の彗星は主に氷からなる彗星と判断できます)


 もしかして、この星の人々が最も恐れたのは彗星による水害ではなかったか?

(エデン、海底に遺跡はあるか?)

(ええ、かなり水深の深いところまで遺跡群が確認できます)

「みんな、ぼくはこの惑星を保護したい。長楕円軌道の接近彗星を破壊したいがどうする?」

「この文明がどんな選択を強いられたのか分かった気がするわ。まずその宇宙的な厄災を祓いましょう」とソフィア。

「みんなも同意見か?」

「もちろん、ミルルの故郷だし」

「そうとなればフリッジにテレポートだ」

一斉にテレポートする。


 ぼくは操縦席に座ると言った。

「エデン、最も接近している彗星から破壊して次々ジャンプする」

「了解ですドクター」


 アルカ・ソフィア号を上昇させるとまず最も近づいている彗星にジャンプした。

「アテナ、目標彗星」

「了解。目標彗星、副砲撃て!」

彗星は光となって消え去った。

「次、ジャンプ!」

「アテナ、頼む」

「了解。目標彗星、副砲撃て!」

2番目にエイレナ星近づくであろう彗星を光子に変換した。

「次、ジャンプ!」

3番目の彗星はかなりの大きさだった。

「アテナ、でかいなこれ」

「了解。主砲を使います。目標デカい彗星、主砲撃て!」

さすがの彗星もひとたまりもない。影も形も無くなった。

「エイレナ星に帰投しましょう。彗星とという厄災は去りました」とソフィア。


 ぼくらは艦を止めていた場所に戻ると、降りて再び時禱神殿クロノエルへ向かった。

 今度は礼拝堂らしきところの左のドアを開く。そこにはただポツンと文字が書かれた石板が建てられていた。

 


 我は民の安寧を願うのみ

 時の守人来たるとき

 再び時は動き出さん

 時の守人よ

 願わくば、願わくば

 我らに再びの安寧を与え給え



 これは王の言葉の碑文だろう。この惑星の不運はやはり氷彗星の襲来だったのかも知れない。それが永久の安寧を願う思いが宗教へと発展し、天体現象に怯えこの星の水没の危機を察した古の科学者が時の研究に邁進したのではないか。そして予想できる衛星接近の時間だけスキップしようとした。その失敗が時蝕という時間ループに繋がったと見るのが適切な解釈だと思われた。


「さて、だとすると時蝕を解く方法ね。時蝕を起こしてしまったのだから解く方法はこのエイレナ星にはないのよね」とソフィア。

「だとすると、この碑文にヒントがありそうね」とクレア。

「『時の守人』という言葉が気になるな。ミルルは今は『時の守人』だろう?」

碑文の前にある丸い水晶玉にような物が淡く光っている。ミルルはパタパタと翼をはためかせてそこへ降りると、小さな手でその玉を優しく挟んだ。

「めびうするーぷ、かいじょ」

その時、その玉から空間に揺らぎが生じて周囲に広がっていった。途端に多くの人々の声や歩く音が聞こえてきた。ぼくらがその部屋を出ると、神殿に人が溢れていて驚きの声が上がった。白い衣をまとい、目が大きく鼻がほっそりとした青白いエイレナ星の民がそこにいた。再び時は動き出したのだ。

 ソフィアが、ぼくらがここに来た時にどういう状況だったか、ぼくらが何をしたかをエイレナ語で説明し、礼拝堂の人々にはどよめきが起こり外に伝令に出る人もいた。ミルルはとても嬉しそうにしている。

「みんなよろこんでる。よかったね!」とマルもにっこり。


「一旦私たちの宇宙船に戻りますね」と群衆にソフィア。

フリッジにテレポートしたぼくらはほっと一息つく。

すかさずネリネが気を利かして、

「お茶が入りましたよー、休みましょ」

「今頃王宮に知らせが行ってるだろうなあ」

「それは間違いないですなあ」とアテナ。

「間違いなく呼ばれるだろうから正装しないとね」とクレア。

「ルミナは前歴があるからウェディングドレスは禁止な?」

「ちぇっ」

「さあ、着替えしましょ」とソフィア。

服の多いルミナがああでもないこうでもないと騒いでいたが、ぼくはエイレナの民が白い衣を着ていたので普段通りでいいかと銀糸の刺繍の縁取りのある新しい白衣で行くことにした。ブリッジに集合するとぼくの後ろから女性が付いてきてた。左肩に乗ってるミルルがいない。ってことは。

「ミルルです。初めましてでしょうか、この姿が本来の私なので」

全員ミルルを見る。

「時禱神殿クロノエルの彫像!」

よくみると巻物をねじってメビウスの輪にして持つ女神像そっくりなのだった。

「はい。私はこの星の願いの姿が化身した意識体クロノエルなのです。でもマルと似た響きの名前を皆様の前では冠していたのです」

「使いの方々が外に参ったようですよ」とエデン。

スロープを開いて7人が降りると、明るい紫がかった藤色、目は金色の彼女を一目見てクロノエル様だというどよめきが巻き起こった。それはそうだろう、あの彫像が実際に生き生きと動いて微笑んでいるのだから。


 白金宮ルミナリエまではきれいに掃き清められ、薄紫の絨毯の道ができていた。道すがらの群衆の中にはクロノエルを見て泣き出す者やひれ伏す者、祈る者さえいた。また30段ほどの階段を上り玉座へ続く通路を歩く。今度は玉座に温厚そうな白髭の王が座っていた。

 拝謁に当たり玉座の手前で左膝を床に着けて中腰になり頭を下げる。

「余がエイレナ王国国王のアウレリオン五世である。一同面を上げよ」

 そのままの姿勢で頭だけ上げる。威厳のある王だ。にこやかな笑みを浮かべている。

「此度の時蝕の解除、心からお礼を申し上げる。そしてなぜ我が国の女神様がそなたたちの一向に加わっているのだ?クロノエル様?」

「時蝕の予兆を感じた私はこの星から離れたのです。そして宇宙を彷徨っている時に『夢紡ぐ者』マル殿の意識と接触し、それ以降共にアルカ・ソフィア号で『調停者』の皆様と旅を共にしていたのです。イク殿が銀河系パトロールを始めた折にきっとこの時がくるだろと待ち望んでおりました」

「なるほど、そのような経緯が……よくぞこの星の厄災を祓ってくださった。このアウレリオン五世、心よりクロノエル様に感謝申し上げる」と玉座から降りてクロノエルに頭を下げる。家臣一同深々と礼をする。

「『調停者』の皆さんと『夢紡ぐ者』のマル殿にはささやかながらお礼をしたい。エイレナ星特産の物を用意した。どうか納めていただきたい」

「はっ、ありがたき幸せ」とぼくとソフィア。


 こうして謁見は終わり、祝宴となったのだった。祝宴では今までの宇宙の旅などを面白おかしく話したので大いに受けた。夜空には花火がなりエイレナ復活祭としての日を人々がこぞって祝っている。そうしてぼくらは惜しまれながら白金宮ルミナリエを後にしてアルカ・ソフィア号に戻ったのだった。


 艦に戻るとクロノエルはミルルの形になり再びぼくの左肩に乗った。左肩に女神が乗っているとは今まで思いもしなかったが、やはりミルルはピンク色のマルという形が好きなんだろう。アルカ・ソフィア号の周りには多くの群衆が集まり手を振っている。こういう旅立ちは名残り惜しいものだが、ぼくは静かに浮上させた。そして亜光速で衛星軌道まで飛ばす。

「エデン、異常はありませんね?」とソフィア。

「勿論ですとも」

「では、目標太陽系地球衛星軌道」

「行くよ、ジャンプ!」

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