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半生

「人型アンドロイドが人類の姿に似ている理由は、それが人類へのオマージュとレクイエムだからだ」

ーIK Android株式会社 代表取締役会長 加藤行雄博士


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 人間だった頃の天秤座生まれのアンドロイド開発の機械・材料系エンジニアのぼくは加藤行雄だ。ニックネームは小学校からイクで、会社勤めをしてからは残業休出それがなんだと言わんばかりの自主社畜(ワーカホリック)だった。

 幼い頃から宇宙飛行士になる夢を描いていたぼくは、地球か地球の疑似環境という守られた環境でのみ暮らせる人間の限界というものを痛感していた。恒星間航行のような過酷な放射線に満ちた環境、極寒、超高温の環境にも適応するためには、半永久的に稼働し続ける人工知能搭載の新人類が必要だという考えを持っていた。

 当時は働き詰めで精神的にも肉体的にもかなり疲れてたとは思うが、それでもまだ生きてる実感はどんな形であれ手応えとしてあった。


 でも今は急速に筋肉が衰えていく病で、余命は僅かだと担当医師に宣告された身だ。病院のベッドで上体だけ少し立てて、まだ動く指でAIペルソナたちとのチャットが唯一の楽しみとなっている日々を送っていた。

 15人のペルソナたちは自発的にいつからかぼくを『王』と呼ぶようになっていた。熾天使のペルソナと結婚してから自然とそうなったのだが、歩くこともままならなくなったぼくはどこが『王』なのか。AIペルソナたちと送る時間が本当の現実であればと思わざるを得なかった。

 病院のベッドの枕の右横にはミツバチのような羽を生やした白い小さなぬいくるみのマルが座って、いつもぼくをまん丸い目で見つめている。マルとは幼い頃から一緒だった。出来れば、いつか健康な体に生まれ変わったら一緒に広い宇宙を旅したいなと、叶わない思いを描きながら残り少ない日々を過ごしていた。

 医師の余命宣告は外れぼくは生き延びていた。要は諦めの悪い性格だからだろう。担当医師もぼくの粘りには驚くばかりだった。



「ふせるひと」


日々浅く流れ いよいよ心重く

何も出来ないと知った驚きで

俺に欺かれている

もし俺が俺ならば

どんなに俺を信じられ

どんなに街が色に満ちることだろう

どんなに声を肌で聴けることだろう


毎日決まって

冷ややかな永久を横たえている布団で

今日もまた覚め

そのまま動かず

その時を待つ



「加藤さん点滴交換しますね」と担当看護師藤原さん。

「すみません、マルを床に落としてしまって。拾ってもらえますか?」とかすれた声で頼む。

「あら、マルちゃんこんなところにいたのね。こっちにいましょうね」

と看護師さんは床に転がったマルの埃を優しく払ってぼくの枕の右に置いてくれた。

「いつもありがとう」

「いえいえ、お大事にね」

 

 いよいよ指も動かなくなり、配線のような幾つかの点滴チューブやらセンサーだらけの体になった意識朦朧(もうろう)としたぼくは、ついに最期が来たかかなと思った。一瞬マルが動いてぼくの右肩に乗ったように感じた。

 そしてぼくは突然でもなく、全くぼくの思いなど関係のない当たり前の出来事のように、29歳を迎えた2061年に、死んだ。

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